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倒れていく仲間達

「あん、もう邪魔しちゃ駄目ー!」


 せっかくのいいところだったのを妨害され、ノワは悔しそうに拳を振り回した。

 そして唇を尖らせながら、荒い息を吐きながらまだ闘志の衰えていない様子のキキョウを睨み付ける。


「……あの子には、裏路地の戦いで見下されてるからね。ちゃんとやっつけてもらわないと」


 なるほど、とクロスは頷き、前に進み出た。

 どうやらなかなか倒れないタイランの方には、(甲冑の価値はともかく)執着はないらしい。

 そろそろ決着をつけた方がいいだろう。


「では、鎧の方は僕達も手伝いますか。いきましょう、ヴィクター」

「わかった」


 ノワも、それに異論はないようだ。


「もっとも、ほとんど必要ないと思いますけどね。どういう事情か知りませんが、調子も悪いようですし」


 クロスの眼鏡が光を反射し、肩を竦めた。

 ドスドスドスと、ヴィクターがタイランへと突進しながら拳を振りかぶる。

 同じようにヒイロも拳を固める。


「……とどめ、いくよ」

「ぬうっ」


 二つの豪腕が唸りを上げて、タイランの胸部を打ち貫いた。


「あう……っ!?」


 強烈な打撃に耐えきれず、タイランは吹き飛ばされて壁に叩き付けられた。

 そのまま、ズルズルと地面に崩れ落ちる。

 しかしそれでも、ノワには不満だったようだ。


「あーもー、クロス君!?」

「大丈夫ですよ。戦闘不能にしましたから、これ以上はもう、ほとんど動けないはずです。あとは中身を引きずり出すだけです。そちらはもらっていいですよね?」


 言って、クロスはヴィクターを従え、タイランにのんびりと近付いていく。


「うん。そっちは興味ないから好きにしていいよー」




 そしてロンの方も大詰めだった。

 戦況はほぼ決まったも同然で、さっきからロンの両剣が攻める一方だった。

 だが肩で息をしながらも、キキョウはそれらをギリギリで受けと回避でやり過ごし、おまけに目もまだ死んでいない。

 刻一刻と傷が増える中、ロンの左の剣を弾く。


「詠静流奥義――」


 ……と同時に、キキョウの最後の技が発動していた。


「!?」


 右の短剣もキキョウの柄尻が払い飛ばし、これまでで一番速い突きがロンの顔面を急襲する。


「――『彗星』!!」


 だが、その刃の先端が、ロンに届くことはなかった。


「『大盾(ラシルド)』……っ!!」


 衰弱したシルバの放った魔力障壁が、それを阻んだのだ。

 キキョウの突きは『大盾(ラシルド)』を砕いたが、そこまでだった。


「シルバ殿……」

「まったく残念だ」


 目を見張るキキョウの胸元に、右の短剣が突き刺さった。


「がぁっ……!!」


 血反吐を吐きながら、後ろへと倒れるキキョウ。

 真後ろは丁度、『列車作戦』でキキョウ自身が用いた避難用の落とし穴だった。

 そのまま穴の中に、キキョウは落下していく。

 それを見送り、ロンは表情を変えず呟いた。


「お前とは、互いの全力を出し切った戦いをしたかった」




「ぐ、う……」


 シルバは、その場に跪いた。

 顔は青ざめ、身体もふらついている。


「あれれー、どうしたのシルバ君? 調子悪そうだけど?」


 ノワは、分かっていながらシルバの背に声を掛ける。

 クロスはタイランの前にしゃがみ込みながら、振り返った。


「無理もありませんよ。この短時間に、祝福を乱発しましたからね。気絶しないだけマシというモノです。ほぼ魔力も、底を尽きているんじゃないですか?」

「そっかぁ。シルバ君、ここに魔力回復薬(マナ・ポーション)あるけど飲む?」


 ノワは道具袋から、液体の入った瓶を取り出した。

 シルバは、疲弊しきった顔でノワを睨む。


「なんて、あげないけどねっ! これはノワの分だもん♪ あっはっは、後残り一人? この調子なら楽勝だね!」


 瓶のコルクを抜き、ノワは嬉しそうに魔力回復薬(マナ・ポーション)を飲んだ。


「そうですね。後は彼らを洗脳して、ギルドから僕達の財産を取り戻してもらう。ああ、霊獣の子だけは、生贄に必要ですから別だとして……む、どこが開閉用の留め具なんでしょう」


 クロスはタイランの身体を見回しながら、小さく唸っていた。


「シルバ君はそのままだってばー」


 ノワの抗議に分かっていますよ、とクロスは返した。


「それでも四人。中でも、ホルスティン家の後継者を手に入れられたのは大きいですね。女性だったというのは驚きですが、むしろ僥倖です」

「お、お前、何を考えている……」


 シルバの問いに、クロスは微笑みで返した。


「大体、想像通りですよ。彼女の良人となれば、ホルスティン家を手に入れたも同然。これまで半端者と蔑んできた彼らを、今度は僕が見返す番です」

「……ずいぶん俗な動機なんだな。第一、カナリーを手に入れても、お前が半吸血鬼(ダンピール)であることには、変わりはないだろうが」

「そうですね。今のままなら、ですが。だからこそ、霊獣の『高位の魂』が必要なのですよ」

「テメエ……!」


 シルバは、ガクガクと足を震えさせながらも立ち上がった。


「はい、シルバ君ストップ。動いちゃ駄目」

「ぐ……っ」


 直後、シルバの身体が硬直する。


「もー、クロス君喋りすぎ。気を抜いちゃ駄目だよ?」


 新たに魔力回復薬(マナ・ポーション)のコルクを抜き、ノワはクロスに「めっ」と叱った。


「やあ、これはすみません。つい」

「ま、気持ちは分かるけどねー。あはは、ねえシルバ君、今どんな気持ち? 悔しい? ねえ、悔しい?」


 ノワが煽ると、シルバは肩を震わせていた。


「……」

「ん? もしかしてシルバ君、泣いちゃってる? ボロボロ涙流しちゃってるの? 男の子なのに」


 だが、その割にはシルバを正面から見えるクロスの反応がおかしかった。

 クロスは、何だか怪訝な顔をしていた。


「あ、いえ……ノワさん」

「ん?」

「笑って……ますよ、彼?」


 そう、シルバが肩を震わせていたのは、笑いを堪えていたからだった。

 だが、我慢しきれなかったのか、その口から笑い声が漏れる。


「……はは」

「う、うん?」


 気が違ったのかな、とノワはちょっと後ずさった。


「ははははは……! 愉快だよ。この上なく愉快な気分だよ」


 シルバはギギギ……と、首だけをノワに向け、獰猛な笑みを浮かべた。


「……もうすぐ、お前らをぶちのめせると思うと、楽しみでしょうがない」

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