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膠着

 短めです。

「なかなか強力な盾のようですね。もっとも攻撃しないのでは、勝敗は決まったようなモノですが」


 クロスが、ヒイロとタイランの戦いを眺め、批評する。

 防御はなるほど見事なモノだが、いってみれば首と手足を引っ込めた亀を相手にするようなモノだ。

 盾を鳴らす、骨剣のぶつかる音こそ派手ではあるものの、これでは埒が明かない。

 チラッとノワを見ると、案の定、退屈そうだった。


「もぉー、シルバ君。さっきロン君に掛けた祝福、ヒイロちゃんにも掛けてあげてー。ほら、スピード早くなる奴」

「人の魔力だと思って、好き放題言ってくれる……『加速(スパーダ)』!!」


 ノワの声を背中にかけられ、シルバは速度を速める祝福を、ヒイロに掛けてしまう。

 さすがに単純に骨剣を振るうだけではダメージを与えられないとヒイロも悟ったのか、その攻撃が横殴りや打ち下ろしから突きへと変わる。

 豪雨のように降り注ぐ大量の突きが、タイランの盾を叩く。


「わ、わわ……っ!? 避けきれな……ひあっ!?」


 盾に隠しきれない肩や太股を突かれ、タイランがバランスを失う。


「こ、こんなのどうすれば……」


 そしてその体勢が崩れたところに、ヒイロ本命のフルスイングが急襲する。


「ぐぅ……っ」


 呻き声を上げながら、大きくタイランは弾き飛ばされた。




「だらしないよー、鎧ちゃん! もっとしっかり戦わなきゃー!」


 そうヤジを飛ばしながらも、派手にダメージの分かる方が好みなノワは上機嫌だ。


「思いっきりやってもいいんだよ。これからヒイロちゃん、防御も固めるから。ほらシルバ君、防御の祝福掛けてあげてー」


 魔力回復薬(マナ・ポーション)を飲みながら、ノワはシルバに指示を送る。


「……『鉄壁(ウオウル)』」


 攻撃を繰り返すヒイロの身体を青白い聖光が纏い、その周辺の空気が凝縮する。


「ついでに、相手の防御力も下げてくれるかな」

「シ、『崩壁(シルダン)』……」


 苦悶の声を上げながら、シルバは新たな呪文を唱えた。

 その祝福はタイランの近くまで来ていたキキョウには効果を発し、ガラスの割れるような音と共に、防御力が下がったことを伝えていた。

 しかし当のタイラン本人は、それが効いた様子がなかった。

 『崩壁(シルダン)』が弾かれたのだ。


「き、効きませんよ……!」


 そのままタイランは盾を突き出し時には振るい、ヒイロの攻めを止めるよう、積極的な防御という変わった戦法を取り始める。

 ヒイロにはダメージが与えられないが、戦いそのモノは長引く。

 それはつまり、この戦いの最中に、戦局が変化するのを期待しての耐えの戦術だ。

 腰の引けた様子ながら、彼女は勝利そのモノを諦めた訳ではないらしい。

 それよりもクロスが興味を引いたのは、タイランの身体そのモノだった。


「ほう、そういえば絶魔コーティング鎧でしたか。確か、プリングルス兄弟との戦いの報告書にありましたね」


 銀縁眼鏡を整えながら、感心した声を上げる。


「ノワさん、あの鎧は高く売れますよ」


 クロスの忠告に、ノワは大いに慌てた。


「え!? じゃ、じゃあ困るかも! ヒイロちゃん、あんまり傷つけちゃ駄目だよ! 値段下がっちゃう! 中の娘だけ、引っ張り出して!」

「……うん」


 武器での攻撃が通じにくいと見たヒイロは、骨剣を捨てて素手での取っ組み合いに持っていこうとする。

 タイランは今度は、そのヒイロを振り払うのに難儀しようとしていた。




 一方、ロンの攻撃を完全に避けきれず、キキョウの傷も致命傷こそ無いものの、少しずつ増えつつあった。


「くっ……」


 ロンは現在、シルバの数々の祝福によって強化されている。

 速さはもとより、攻撃力や防御力も高められ、逆にキキョウはそれらを低下させられている。


「やるな……この速度についてこれる者はそうはいないのだが」


 そう呟き刃を振るいながらも、ロンは退屈だった。

 正直、祝福で強化された分だけ、本気の加減が減っている。

 それでも充分に、今のロンならばキキョウは追い詰められるのだ。

 それでもかろうじて急所だけは守っているのだから、キキョウも大したモノだとロンは思う。


「お前とは、正々堂々小細工なしでやり合いたかった。不満ではあるが、目的の為だ。このまま倒れてもらおう」

「お、お主らの目的とは一体……」

「それぞれで違う」


 ロンの手が翻り、キキョウの二の腕に赤い線が一本走ったかと思うと派手に血が噴き出した。


「うあぁ……っ!?」


 しかしキキョウは歯を食いしばり、汗だくになりながら刃を振るう。


「ぬう……っ!」


 振り下ろしからの胴薙ぎ、そして刃を戻さないままの必殺の突き。

 しかしそれも当たらなければ意味がない。

 ロンは軽やかなステップで、それらの攻めをすべて回避した。


「俺に同じ攻撃は通じない。なのに、三度もお前は同じことを繰り返している。……その三連撃のパターンは読み切った。もう、無駄だ」


 ロンの右の刃が真っ直ぐと、キキョウの胸を狙う。


「そうであるな――!!」


 しかしロンのそれも読んでいたのか、わずかに笑いながら、キキョウは再び攻勢に転じる。

 だが、それもやはり基本は同じ攻撃だ。

 足払いから刃が足下から跳ね上がり――刃を戻さないままの疾風の突きがロンを襲う。


「四度目。これ以上、俺を失望させるな」


 ロンは苛立ちを瞳に秘め、手に持っていた短剣に力を込めた。


「確かに大した鋭さだ。だが、最後の攻撃が同じなら、読むのは容易い。これで――」


 キキョウが空振ったのとタイミングを合わせ、ロンの右の短剣が走る。


「――終わりだ」


 だが、その刃がキキョウの胸に突き刺さる前に、硬い感触がそれを遮った。


「む」


 ヒイロと戦っていたタイランが、いつの間にか近くまで寄っていた。

 そしてキキョウを弾き飛ばし、タイランの重装鎧がロンを阻んだのだ。

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