悪魔出現の条件
「トゥスケルって……えーと、リフちゃんやその兄弟をさらった連中?」
「ヒイロが、ちゃんと憶えていた……!?」
ヒイロが唸りながら答えると、カナリーは目を見開いた。
「そんなに驚くことかな、カナリーさん!?」
「いや、結構前のことだったし、忘れてた可能性もあったからね。まあ、ヒイロが憶えているなら話は早い。シルバ、続けてくれたまえ」
カナリーに促され、シルバは話を戻した。
「前情報にあった魔王崇拝の邪教集団ってのがそのトゥスケルだった訳だが、状況はもっと厄介だった。大量の魔族が出てきたとかなら、まあまだ聖騎士達も対処のしようがあったんだが、さっきも言った通り、出現したのは悪魔だ。順番を整理するぞ」
シルバは指を一本立てた。
「まず、トゥスケルが悪魔を呼び出した。悪魔召喚の魔道具が使われたんだ。その結果、周辺の黒い靄が顕現した」
最初に、悪魔召喚の魔道具があった。
これを起動することにより、儀式が始まる。
すなわち、黒い靄が出現し、それが集まり始める。
「……つまり、今、この『墜落殿』で発生している黒い靄も、人為的なモノの可能性が高いって訳か」
「あくまで、可能性の段階だけどな。自然現象って考えるより、こういうことをやりかねそうな心当たりが……あるんだよなあ」
「……あるねえ」
シルバとカナリーは、同時にため息をついた。
まあ、憂鬱になっていてもしょうがない。
シルバは話を進めることにした。
「現れた黒い靄は、悪魔の形を取るために『高位の魂』を求めるようになる」
「こーいのたましい?」
「宗教的には魂に高いも低いもあるかって言いたいところなんだけど、実際悪魔の方は選別してて、種族的にはたとえば……ドラゴンとか霊樹の苗とか霊獣とか自立的な意思を有する上級の精霊とか、な」
ヒイロがハッと顔を上げた。
「リフちゃんとタイランが危ない!」
「うん、そう。だからそう言った。軍時代の話に戻ると、その時、トゥスケルの連中が使ったのは『龍卵』っていうドラゴンの卵だったんだ」
「いわゆる生け贄かい」
カナリーが顔をしかめた。
「そうとも言うな。……そして、その生け贄を使うことで悪魔は実体化する。ちなみに悪魔ってのはな、存在自体が魔法使いなんだ」
「まほうつかい……えーと」
「この世界の法則から外れた、異なる法則を持ってくることができる者達だよ」
思い出そうとするヒイロに、カナリーが説明した。
「悪魔は、この世界の法則を歪めて、願いを叶えてくれる。トゥスケルの連中は、悪魔を出現させること自体が目的だったっていう、お粗末な理由だったんだが……」
「クロス・フェリーは半吸血鬼だ。純血の吸血鬼に劣等感を持っている。それに、悪魔召喚の魔道具だったっけ? ……それも実はちょっと、心当たりがある」
カナリーの表情が険しくなった。
実家絡みで何か、事情があるのだろうか。
クロス・フェリーもそうだが、シルバとしてはやはりノワが気になった。
「……ノワが何を狙っているのかは分からない。でも今、このタイミングで『願い事を叶えてくれる』なんて欲望の塊みたいな存在と、無関係とは到底思えない」
深刻な顔をする二人の横で、ヒイロがグッと拳を突き出した。
「よし、大体分かった。つまり、最初の目的通り、そのノワさん一党を倒しに行く。悪魔と無関係だったらその後、考える!」
シルバとカナリーは、ヒイロの発言に目を見開き、そして項垂れた。
「……シルバ。話してくれて僕としては感謝するが、正直ヒイロの意見はすごく明確だ」
「まあ、間に悪魔が出現するかもって厄介な事情が加わっただけで、やることは変わってないよな……」
……二時間半ほど掛けて、運良く黒い靄との遭遇はないまま、シルバ達は隠し部屋の前に辿り着いた。
傍目には、ごく普通のT字路の突き当たりのようにしか見えない。
だが、ここには、研究室へと繋がる扉が隠されているのだ。
「……本当に地図の間違いじゃなかったんだろうね」
カナリーが、疑り深そうにシルバの手元を覗き込んだ。
「くどいな。信じられないのは分かるけど、実際に見ただろう? 迷宮の構造自体が変えられてたんだよ」
実際、ティムの言っていた通り、シルバ達の進む先は地図とはやや異なった造りとなっていた。
「もっとも、それほど大したことなかったのは、不幸中の幸いだけど。遅れもほとんどなかったし」
何回かの戦闘を経て、シルバ達はここまで来れた訳だ。
「じゃあ先輩、これからみんなが来るまで、待機?」
ヒイロの問いに、シルバは首を振った。
「いや、連中が奥に潜んでいたら作戦に意味がない。タイミングを計る為にも、もしノワ達が隠れているようなら、誘き寄せる役が俺達の仕事だ。それに、悪魔絡みの疑いがある以上、早めに動く必要がある」
「こういう時、盗賊の貴重さが分かるねぇ」
やれやれ、とカナリーは天を仰いだ。
「リフの足は今回の作戦には絶対必要だったからな。無いモノはしょうがない。俺が見てくるよ」
ヒイロはこういう作業に向かないだろうし、カナリーはそもそもやったことがないらしい。
ヴァーミィとセルシアはどうかと思ったが、やはりここは人間の方がいいだろうとシルバは判断した。
ゆっくりと壁に近付き、ごくわずかに開かれていたそこから、中を覗き込む。
広い部屋の奥に、玉座のような席があり、そこにノワが腰掛けていた。
後ろに控えているのは黒髪黒衣の青年、ロン・タルボルトと、大柄な人造人間、ヴィクターだ。
クロス・フェリーの姿は何故か、見受けられない。
そして彼女の前には赤絨毯が敷かれ、両脇には虚ろな顔の三十人の冒険者達がずらりと一列に並んでいた。
内の一人はシルバも知っている、アル・バートだ。
「うへぇ……」
悪趣味極まりないな、とシルバは思った。
吟遊詩人の詠う魔王様じゃあるまいし。
そんな感想を抱きながら、二人と二体の元に戻る。
シルバの様子に、ヒイロがどこか心配そうな顔で、見上げてくる。
「どうだったの? 何かすごくうんざりした顔になってるよ、先輩」
「……うんざりしてるんだよ」
そう、シルバが返事を返した時だった。
「よーこそ、シルバ君。他の二人も中へおいでませ♪」
部屋の中から響いた明るい声に、シルバの身体が硬直した。
「っ!?」
緊張、ではない。
抗えない見えない力に、シルバの身体が拘束されていた。
「シ、シルバ!?」
「せ、先輩、どうしたの!? 待ってよ! このまま入っちゃうの!?」
シルバの様子に気付いたのか、カナリーとヒイロが身体を揺さぶる。
「ぐ……」
だが、それでもシルバの身体はいうことを聞かず、そのまま隠し部屋の方に向かってしまう。
「ふむ……君達にノワさんの命令が効かないということはどういうことかな」
マント状の皮膜を脱ぎ、姿を現わしたのは銀髪紅眼の優男、クロス・フェリーだった。
もう一方の手には、通信用の水晶が握られていた。
申し訳ありません。
ちょっとプライベートの方がゴタついていまして、今週から再来週末までの更新はかなり不定期になりそうです。
なるべく毎日更新を心がけたいところですが、ある程度落ち着くのが今月の二十日ぐらいになりそうです。
あと、ここに書くのもあまりフェアではないかなと思いますが、注意として。
ここから六話か七話ぐらいストレス展開になりそうなので、そういうのが苦手な方は分かりやすいサブタイトル(にする予定)になる辺りまで、お待ちください。
これからも本作をよろしくお願いします。




