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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
魔術師バサンズの試練
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密談と盗聴

ちょっと短めです。

 気付かれたか……?

 カナリーとの距離は、ごくわずかしかない。

 ロンは、手の先に気を集中させ、爪を伸ばしていく。

 最悪、ここで連中との戦闘となるが……。


 うん、とカナリーはハリボテに手をやって、その家を見上げた。

 こうして近付いてみると明らかだが、ちょっと遠目にはずいぶんと綺麗な村になったように見えるだろう。


「突貫で立て直したにしては、悪くないね」

「雇った草妖精(ハーフリング)の図面が見事でして。それに昼は現場作業員をギルドマスターが連れてきた冒険者達が手伝い、夜は我々も作業を行なっていたので、それなりの出来にはなったと思います」

「せっかく整備したのに、壊されるのは惜しいね」

「とはいえ元々、それを想定してのモノですからね。最低限の居住は確保されてはいるものの、本格的に猪達の交流地となるには、今回の問題が完全に片付けないと……ということでしたよね?」


 ロンは緊張した。

 今回の問題――間違いなくクロスの、ひいてはノワ達一行の問題だ。

 ここは重要なことだ。

 聞き逃してはならない。


「うん。ヴィクターっていう人造人間が最大のネックでねえ……」


 言って、カナリーは再び歩き出した。


「確か長時間の使用には耐えきれず、爆発の恐れがあるという?」


 ネリーの問いに、カナリーは頷く。


「そ。この離れた村なら万が一爆発しても、被害はそれほど大きくならない。迷宮内だと厄介だからね。他に使えそうな頑丈な場所なんて、第三層の隠し部屋兼実験施設、ヴィクターの発見された辺りぐらいしかない。ノワ達の財産はまだここの温泉掘削跡に保管されているから、餌はバッチリだ。時間が経てば経つほど、この村の再興資金として消費される訳だし、ノワ達としては焦る。何とかして取り返しに来るだろう」


 この辺りの話は、シルバの考えでもある。


「実際は、まだ全然使われてませんが、と」


 ノワ達の被害にあった冒険者への補填はまた別問題だとしても、この村の再興という意味ではノワの財産はほぼ、手つかずだ。

 立派な建物を造ったとしても、もしヴィクターが爆発したら費やした金は無駄になってしまう。

 だから今は温存しているのだ。


「そ。もっともギルド派遣の警備態勢は厳重だし、既にノワ達のことを嗅ぎつけている賞金稼ぎも、エトビ村の方に泊まり始めてるのが見かけられる。まともにやっても手は出せないだろう。おまけにギルドマスター直々の封印術も施された。言っちゃ何だけど、そこいらの冒険者じゃ手は出せないよ。温泉掘削跡に入れる人間も今じゃ限られているしね」

「はい」


 現状、温泉掘削跡に出入りができる鍵を持っているのは、ギルドマスター、ゴドー聖教の司教、ホルスティン家の当主名代の三名となっている。

 ネリーも出入りする時は、今回のようにカナリーに随行するか、他二人の許可を得るかしかない。


「本当なら、都市の方に持って帰って大金庫にでも入れておくのが一番なんだけどね」

「それは仕方ありません。『古代遺産(アーティファクト)』関係には危険なモノもあって、その辺は迂闊に手出しができませんから」

「……うん、つい先日、それでちょっと愉快な目に遭ったしね。僕じゃないけど。っていうかこの鍵、僕が持ったままでいいのかな」


 自分が留守の間は、使者であるネリーに預けるのも筋かなとは思うのだが……。

 もっともそうすると、今後の計画にも支障が出て来るので、実際は預けることはできない。

 分かってはいたが、ネリーは首を振った。


「当然です。カナリー様はホルスティン家の名代なのですから」

「探索に戻ったら、必要なくなるんだけどなぁ」

「責任者の務めというモノでございます」

「はいはい」


 ノワ達の財産は無事。

 だが、出入りは厳重な上、冒険者達の待ち伏せがある可能性も高い。

 ……そしてこれが一番重要なことだが、クロスの見立て通り、冒険者ギルドのセキュリティにも一部甘い部分がある。

 三つの鍵の内、ギルドマスター、司教には手出しが困難だが……最後の一つには付けいる隙がありそうだ。

 ならばやはり、この村への直接襲撃ではなく、第二の計画となる。

 おそらくこれすらも罠の可能性があるが、そこを考えるのは、参謀であるクロスの務めだ。

 自分はただ、調べ聞いたことを、ノワ達に報告するだけだ。

 ロンは気配も音もなく、その場を立ち去った。


「やれやれ」


 カナリーは金髪を掻き上げ、来た道を振り返った。


「上手く、仕事が片付けばいいんだけどね」




 バサンズ邸地下。

 ノワが唯一入らないよう、バサンズから頭を下げられた場所は、扉の鍵がハリガネで開けられていた。

 元々は貯蔵庫だったらしいそこは、小さなアトリエに改造されていた。

 薄暗い部屋には、何十枚もの絵画。棚に、画材が積まれている。


「こ、これは……」


 座り込み、額縁に入れられているそれを見て、ノワは青ざめた。

 いつも笑ったような顔のクロス・フェリーも珍しく、厳しい表情で部屋を眺め回していた。


「……ノワさん、ここはまずい。すぐに脱出しましょう」

「う、うん……」


 ノワは、フラフラと立ち上がった。

 クロスは、バサンズへの言伝をメモしながら、天井に視線をやった。


「そろそろ、ロン君とバサンズさんが戻ってくる時間です。バサンズさんの報告は、ここ以外の場所で。護身用の武器もお忘れなく」

「わ、分かった」


 ノワは、コクコクと頷くばかりだ。

 一人で大丈夫かとクロスは少し心配になったが、いざという時のノワの胆力は相当に強い。

 信じることにした。


「では、ご武運を。行きましょう、ヴィクター。タヌリックさんはどうしますか」


 クロスは興味深そうに絵を眺めているタヌリックに視線をやった。

 黒眼鏡の青年は、クロスを見ずヒラヒラと手を振った。


「あ、おかまいなく。ウチはウチで何とかしますよって」

「分かりました。戸締まりはよろしくお願いします」


 鍵を開けた青年に言い、クロスはノワと共に地下室を出た。

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