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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
洞窟温泉探索行
159/215

ヒイロと洞窟温泉

 その部屋(ホール)には、多くの動物がいた。


「お」


 ここはそういう風呂場か、と思い、シルバも動物達を刺激しないように、ゆっくりと部屋の縁を進んでいく。


「や、先輩!」


 すぐ隣から人間の言葉が聞こえて、シルバはちょっと驚いた。

 声の主は、小柄な(オーガ)族だったからだ。

 要するにヒイロである。


「……動物の中に混じってても、何一つ違和感なかったんだが」

「ほめ言葉?」

「好きに受け取ってくれ。動物達から情報収集でもしてたのか?」

「リフちゃんじゃあるまいし、ボクにはそんな特殊な力はないですよーだ。でも、全然見ないよ黒い影。ホントにいるのかな?」


 二人並んで歩きながら、受け答えを続ける。


「実際に遭遇した人がいるらしいし、そこのところは確かだろ……さすがに一日ここを貸し切りにして、単にいい湯でしたよじゃ依頼主だって納得しないと思うぞ」

「だねー」

「しかしまあ、色々な動物がいるな」


 シルバは広い部屋(ホール)を見渡した。

 様々な動物が、全部で三十匹近くはいるのではないだろうか。

 どの動物達も、動物の中でのルールでもあるのか、この風呂では皆、大人しいようだ。


「うん、多分森のどこかに他の入り口があるんだろうね。熊にウサギに……」

「猿に鹿……」

「……狼に小鬼(ゴブリン)に狸さん」

「ええーとあと狐と……ってちょっと待て、ヒイロ」


 シルバはふと、気がついた。


「ふに?」

「今、何か変なの混じってなかったか?」


 二人の視線が、醜い小鬼(ゴブリン)に向いた。


「「モンスター!?」」

「キィッ!」


 その声に反応して飛び上がったのは、シルバ達が見ていた小鬼(ゴブリン)だけではない。

 ハッとヒイロが振り返ると、『黒い影』が陶製の瓶を抱えて逃げ出そうとしていた。


「あぁー! ボクのホットジュース、返せーっ!」

「おい、あれいつの間に買ってた!? どこで売ってた!?」

「それは後回しだよ先輩! とにかく取り戻す!」


 ヒイロは湯に飛び込んだ。

 その勢いと大声に、動物達が方々へと逃げていく。

 シルバの立っている場所とは対岸に当たる通路を駆けていく、小鬼(ゴブリン)

 それほど素早くないのがせめてもの救いか。

 ヒイロがお湯をかき分けて追いかけるのと、ほぼ同じぐらいの速度だ。

 いや、あれはヒイロだからこそ出せる速度か。

 さすがに足が半分以上湯の中にあると、抵抗力は半端ではないはずだ。


「おい待て、ヒイロ! 深追いするな! 今、『飛翔(フライン)』の祝福を掛けるから、もう少しだけ待て!」


 シルバは通路を走りながら、ヒイロに声を掛けた。

 しばらくすれば、対岸に繋がる浅瀬があるのだ。


「二匹程度なら、何とかなるよ!」

「そりゃ、二匹程度ならな!」

「え、それってどういう……わぷっ!?」


 いきなり、ヒイロの身体が消えた。


「ヒイロ!?」


 いや違う、とシルバは気がつき、湯の中に飛び込んだ。

 通路の先は深くなっており、ヒイロはそこに沈んでしまったのだ。

 見ると、底は穴になっており、どこかに通じているようだった。

 シルバもヒイロを追って、その穴に潜った。




 滝のように天井の穴からお湯が溢れ出ていた。

 しかし通路に湯は張られておらず、案内のペンキも塗られていない。

 どうやらここは、洞窟温泉の中でも知られていない、地下層のどこからしかった。

 壁にもたれ掛かり、シルバとヒイロはヘタリ込んでいた。

 シルバは息が切れる寸前だったし、ヒイロはお湯をたらふく飲んでいた。


「……小鬼(ゴブリン)は力は弱いが狡猾で、大抵集団で行動する。それほど知能も高くないけど、たまにこうやって罠を仕掛けてくることもある訳だ。基本中の基本だぞ」

「……勉強になりましたー」


 敵がいないのが、せめてもの救いであった。

 とりあえず、『透心(シンツ)』でキキョウたちに連絡を取ってみた。

 ただ、場所が分からないのが痛く、しばらく時間が掛かりそうだった。

 まあ『透心(シンツ)』を意識し続ければ、シルバの位置は分かるはずだ。

 それまでは、何とかヒイロと二人でやり過ごすしかない。

 幸い、通路にはヒカリゴケが生えており、薄暗くはあったが視界が利かない訳ではなかった。

墜落殿(フォーリウム)』という迷宮を探索してるシルバ達には、慣れた世界でもある。


 ヒイロは、小さな岩に腰掛けて右足を前に突き出した。

 屈み込んだシルバが、具合を確かめる。


「いちちちち……」


 シルバが足首を撫でると、ヒイロの足がピクッと反応した。


「痛むか?」

「ちょっと」


 やはり、捻挫しているようだった。


「調子に乗るからだ。この馬鹿」

「あはは……ごめんなさい」


 笑ってこそいるものの、いつもの元気さはややなりを潜めている。

 さすがに、ヒイロも反省しているようだった。

 一方シルバは、足の診断に集中する。

 一歩間違えれば非常に際どい部分が見える角度なのだが、そんなことに構うシルバではなかった。


「やっぱり駄目だな。捻挫は回復と相性が悪い。痛みを和らげることは出来るけど、今は無理な動きは控えるべきだ。ここは温泉地だし、療養には……」

「……」


 返事がないので、シルバは顔を上げた。


「ん? どうした、ボンヤリして」


 何故か頬を赤くしたっぽいヒイロが、ぶるぶるぶると勢いよく首を振った。


「あ、や、うん! 切り傷とかだとあっと言う間なのに、おかしいよねぇ」

「んー、難しい説明は俺も苦手なんだけど、通常の傷は、肉体が傷つけられたって認識になるだろ。でも、捻挫や脱臼は言ってみれば筋肉痛と同じ、関節の異常でな。身体が無理をしているっていう、信号そのものでもあるんだよ。そういう信号は治しづらい。筋肉痛が『回復(ヒルタン)』で治ると思うか?」

「あぁー、よく分からないけど、納得は出来たかも」

「うん、まあそんな所だ。で、どっちがいい」


 言って、シルバは立ち上がった。

 ヒイロはきょとんとした顔で、シルバを見上げる。


「どっちって?」

「お姫様だっことおんぶ」

「か、か、肩を貸すって選択肢はないの!?」

「いや、俺はそれほど大柄じゃないけど、それでも身長差はあるだろ?」


 何しろヒイロである。

 まさか恥ずかしがってる訳じゃないよなと思う、シルバだった。

 しかし、何故かたっぷり百ほど数える時間を要して、ヒイロは決断した。


「うぅ……じゃあ、おんぶで」

「よし。うん、まあ一回担いだこともあるし、こっちの方が楽だな」


 妙に遠慮がちに、ヒイロはシルバの背中に身体を預けた。

 ……そういえば前の時は、寝てたっけ、コイツ。

 と、思い返すシルバであった。


「……意外に筋肉あるよね、先輩」


 ちょっと感心したような声を上げる、ヒイロだった。


「教会のお務めは、力仕事も多いんでね」

ここのタイトルは変わるかもです。

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