フィリオによる模擬戦講評
ちょっと短め。
活動報告に、キャラクターデザインの方掲載しておきました。
午前中には表紙の方もアップしたいと思います。
『ミルク多め』の書籍版、三月十五日発売になります。
よろしくお願いします。
「勝負としては鎧に軍配が上がったが、では何故そうなったのかを考えるとしよう」
大きな木の切り株をテーブルにし、上座に着いたフィリオが声を出した。
「むー、単純にタイランが強かった?」
ボタンに跨がり、腕組みをしたヒイロが唸る。
その様子に、甲冑内に戻ったタイランはわたわたと手を振っていた。
「ヒ、ヒイロ、私がヒイロより強いとか、そんなことはないと思うんですけど……」
「矛と盾がぶつかり合い、矛が砕けたという意味では、正しいな」
フィリオが言うと、ヒイロは不思議そうに傍らに突き立てていた骨剣を持ち上げた。
「矛? ボクが使ってたのはこれだよ?」
フィリオは一瞬口を開き、わずかに眉を八の字にさせてシルバを見た。
「……小僧」
「全部突っ込んでたら、キリがないです」
何故なら疲れるから。
フィリオは気を取り直すように小さく首を振り、改めてヒイロを見た。
「うむ……鎧が攻め、鬼の貴様が守りならばまた、違った結果が出ていたかもしれぬ。が、たらればを語ればキリがない。今回の勝負はつまり、防御に徹した鎧が、貴様の攻撃を凌ぎきったというだけに過ぎぬ。そこは覆らぬとして、見ていて気になった点は、手数の差だったな」
「手数……んんー」
フィリオは空き地に視線を向けると、指を動かした。
するといくつかの石が浮かび上がり、切り株の上に転がった。
やや大きめの石に、小さな石が集まっていく。
中央の石が、赤く輝いた。
「貴様の強化……すなわち、バレットボアによって機動力を高め、『凶化』という種族特性、さらに骨剣に宿った猪神の力を引き出したこと、バレットボアの火の魔術、これらはすべて、正面の敵を打ち倒すことその一点に集約される。それ自体は間違っておらん。だが、それはつまり、それを凌げばよいということだ。どこから来るのか分かっているのならば、手の打ちようもある」
もう一方にもやや大きめの石が置かれ、青く輝いた。
赤い石との間には、黒い平たい石が置かれる。
「鎧のは、混沌の精霊で壁を作り、その後ろで自身が迎撃に立った。それとは別に、灼熱の精霊が貴様の攻撃の意識を割くべく、横やりを入れた。すなわち、正面と正面、それに加え鎧のは横からの攻撃を加えたのだ」
赤い石が青い石に迫り、阻んでいた黒い石を弾き飛ばした。
けれど、横から転がってきた黄色い石が赤い石にぶつかった。
「なるほどー……」
「つまり、手数の差とはそういうことだ。貴様には猪が一頭、鎧のには精霊が二体。いざとなれば脱出できる外装も加えれば三。戦力差であり、使える手段の差でもあったな。さて、そこを踏まえた上で貴様はどうする?」
「もっと強くなって、正面から粉砕する」
即答であった。
ヒイロの答えに、フィリオは牙を向き出して笑った。
「鬼族は、これだから面白い」
「正解だった?」
「それで勝てれば、正解になるであろうよ」
フィリオはふん、と鼻を鳴らした。
シルバも、小さく手を挙げた。
「パーティーとしても、ヒイロはそのままでいいと思う。役割分担がハッキリしているのは、こっちとしても助かるしな」
「ホント?」
「嘘ついてどうするんだよ。タイランが盾になってる一方で、ヒイロがボタンと一緒に敵を引っかき回してくれれば、すごい助かるだろ。さっきの模擬戦の中盤、攻撃のタイミングを伺ってたんだと思うけど、タイランの周囲を回ってたよな。あれとか、タイラン視点だと戦う相手がヒイロ一人だったから対応できたんだ。あそこにキキョウが参加してたら、すごく面倒だぞ」
シルバの言葉に、タイランがしきりに頷いていた。
「あ、はい。そうなんです……どうやっても、最終的にヒイロが突撃してくるって分かってたから、構えられていたんですけど……他に戦う相手がいたら、それだけでかなりのプレッシャーになっていたと思います」
「後方から、カナリーの雷撃も飛ぶしな。まあ、当面は新しい必殺技とか派手なのじゃなくて、ボタンとの連携かな。まだ完全に乗り慣れてはいないだろ? そこを強めるだけでも、かなり強くなれるんじゃないか?」
新たな技能を生み出すより、地力の底上げをシルバは主張した。
地味だが一番手っ取り早く、しかも力の付け方も単純だ。
「にぅ、途中でボタンと分かれて攻撃する、とか。ずっと乗りつづける必要は、ない。乗って、下りて、乗る」
リフが言う。
戦力の分散になるが、その分相手は惑わされる。
一時的に二対一になり、また強い一になればよいのだ。
「ブルッ」
ヒイロの下で、バレットボアのボタンが鼻息を上げた。
「お、ボタンもやる気だね! じゃあタイラン! また今度、リベンジ戦やるからね!」
ヒイロが綱を引くと、ボタンは身を翻して走り出した。
「え!?」
タイランは驚くが、既にヒイロはボタンと共に遠くへ行ってしまった。
その背中を、フィリオが軽く叩いた。
「貴様も頑張るのだぞ、タイランとやら。人が造ったとはいえ、精霊の一員。すなわち我らの眷属なのだからな」
じゃあ俺も、とシルバもタイランの背中を叩く。
「カナリーの話だと、確かまだ隠し球があるんだっけか? 条件が揃ってないから使えないって話らしいから、まずはそこから詰めようか」
「えぇっ!?」
「に。リフも協力する」
トドメとばかりに、リフが小さな手でタイランの腰を叩いた。
「えええええ!?」
タイランの悲鳴が、エトビ村の空き地に響き渡ったのだった。




