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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
『アンノウン』の待機時間
152/215

模擬戦:ヒイロとタイラン

 畑と森の間にある広場で、ヒイロとタイランは向かい合った。


「さあさあさあ、いざ尋常に勝負!」

「お、お手柔らかにお願いしますね、ヒイロ……」


 模擬戦である。

 ヒイロはバレットボアのボタンに跨がっている。

 そして手には骨剣を持っていた。

 一方タイランは右に混沌の精霊シエロを、左に灼熱の精霊ハラーラを従えている。

 両手にはいつもの斧槍だ。

 どちらも先日の戦いで、新しい力を手に入れた。

 その力がどれほどのモノなのか、とりあえず互いにぶつけてみようということになったのだ。

 主張したのはヒイロであり、タイランは及び腰であったのは、言うまでもない。

 判定が必要なほど、厳密な試合という訳でもなく、見学にシルバ、リフ、フィリオが倒れた木の幹に腰掛けていた。


「ヒイロ、最初は抑えめで頼むぞ。さっき見た感じ、相当な威力がありそうだからな」

「はーい。さあ、行くよボタン! 全力全開でぶっ飛ばーすっ!」


 後ろ脚で地面を蹴っていたボタンが、タイランに向かって駆け出した。


「人の話聞いてたか、おい!?」


 シルバは突っ込んだが、もちろんヒイロ達は聞いちゃいない。


「ブルルルルゥッ!!」


 まさしく弾丸のような勢いで、見る見る内にタイランとの距離が詰まっていく。

 軽装の戦士なら、そのままあっさりと吹っ飛ばされてしまうだろう。

 だが、相手は重装兵のタイランであり……。


「シエロ、お願いします!!」


 タイランの右にいた黒い竜巻、混沌の精霊であるシエロが、分厚い黒板となってタイランの前にそびえ立った。


「へえ、自立型の盾か」

「に、タイランの防御力が上がった」


 シルバとリフは感心した声を上げる。

 一方ヒイロは怯むことなく、ボタンの背を叩いた。


「貫けボタン!」

「ブフゥッ!!」


 土煙を上げながら、ボタンが巨大な黒板となったシエロと激突した。

 シエロの身体が大きくたわみ、千切れそうになっていた。


「あまり無理はしなくていいですよ。残りは私が――」


 タイランが告げるとシエロは霧散し、どこか悔しそうに後ろに回った。

 けれどシエロが盾になった甲斐はあり、ボタンの勢いはずいぶんと落ちている。

 ヒイロが骨剣を振るうが、タイランは斧槍でそれを受け流した。


「おおっ、いなした」


 シルバが声を上げる。

 さすがにヒイロの骨剣を正面から受け止めるのは厳しいと、タイランも判断したのだろう。

 威力ならヒイロの方が上だろうが、そこを技量でカバーしたタイランである。

 一旦、タイランの脇を抜けたヒイロとボタンだったが、ボタンが四肢を踏ん張り、即座に反転攻撃に移ってきた。


「まだまだぁっ!」


 再び骨剣を振るおうとしたヒイロだったが、とっさに身体をひねった。


「っ!?」


 仰け反ったヒイロのすぐ目の前を、灼熱の精霊が駆け抜けたのだ。

 外れはしたが、当たっていればさすがにヒイロも、ボタンの背から引きずり下ろされていただろう。


「ハラーラ、ありがとうございます!」


 そしてその間に、タイランも体勢を立て直していた。

 混沌の精霊シエロも、いつでもまた盾になれると待機状態だ。


「ぬぬぬ、厄介だね、そっちの精霊ー……!」


 結局ヒイロはまともに攻撃できず、再びタイランの脇を駆け抜けざるを得なかった。


「ふむ、灼熱の精霊は攻撃担当か。悪くない役割分担だ。精霊砲を放てば、隙が生じるからな」


 シルバの横で、フィリオが冷静に呟いた。


「ボタン、仕切り直そう」

「ブモッ!」


 距離を取ったヒイロとボタンは、タイランの周囲をゆっくりと回っていく。

 とはいえ、バレットボアの足である。

 その動きはずいぶんと速い。


「ん、んー、あの黒っぽい方が厄介なんだよねー……」

「ブモブモ」


 ヒイロの呟きに、ボタンも同意していた。


「まーでも、アレだ。下手に考えるのはボクらっぽくないよね!」

「ブウゥッ!!」


 ズッ……とヒイロの健康的な褐色肌が黒みを帯びた。

 それを見て、げ、とシルバは声を上げていた。


「『凶化』使いやがった!」


 だが、その横にいるフィリオは、渋い顔をしていた。


「結局、正面突破か……しかし、アレでも一手足りんぞ。もう一つ何かなければ、鎧の方に届かん」

「に?」

「まあ、見ていれば分かる」


 自分を見上げるリフの頭を撫でながら、フィリオは再び突撃を開始したヒイロを凝視していた。


「シエロ!」


 迫ってくるヒイロに、タイランは混沌の精霊に指示を与える。

 やることはさっきと同じだ。

 ただ、シエロの形がさっきとは少し違い、壁より小さめの円形だ。

 守れる面積は減ったが、その分防御力を高めたのだろう。


「にゃろうっ!」


 けれど、『凶化』したヒイロは骨剣で黒い円盾を砕いた。


「また、貫いた!」


 シルバが叫ぶ。

 だが、バレットボアであるボタンの突進力も、若干落ちてしまう。


「さっきの激突で混沌の精霊も学習したようだが、ここまでは同じ。いや……」


 フィリオが目を細めた。


「ブルアッ!!」


 ボタンが叫ぶと、その背に乗ったヒイロごと、その身体が赤い炎に包まれた。


「アイツ、火の魔術使いやがった!」


 タイランの危機を感じたのか、灼熱の精霊ハラーラがヒイロに向かって飛んだ。

 光の光球が迫る……が、ヒイロはそれを無視した。


「さらに倍っ!!」


 鬼猪一体の弾丸と化したヒイロの骨剣が輝き、猪型のオーラを形作った。

 ハラーラはヒイロに直撃したが、軽い火傷を負わせただけで、逆に弾き飛ばされてしまった。

 何とかタイランは斧槍で防御しようとした。

 それは間に合った……が、威力はヒイロとボタンが上回った。

 斧槍が青空に舞い、骨剣がタイランの胴体を薙ぐ――。


「わわっ!!」


 ――直前、その身体が割れ、ヒイロの骨剣は盛大に空振った。


「うわあっ!?」


 全身全霊を込めた一撃だっただけに、ヒイロの身体は泳ぎ、そのままボタンの身体から振り落とされてしまった。


「えっと……す、すみません」

「今のはずっこくない!?」


 タイランが、両手をヒイロに向けていた。

 その手には、精霊砲の光が宿っていた。


「そこまで!」


 フィリオが声を上げ、タイランは手を下ろした。

 ヒイロの肌が褐色に戻り、ボタンも火を鎮めた。

 戦いの高揚感が、朝の空気に溶けていく。

 ううむ、とシルバは唸った。


「勝負としてはヒイロの勝ちだけど、試合としてはタイランの勝ち……かな? いや、あるいは逆か」


 悩ましいところだった。


「むー……リベンジしたいところだけど、とりあえずはタイランの勝ち、だよねえ、今のは」

「ブモウ」


 腕組みをして渋い顔をするヒイロに、次は勝つと唸り声を上げるバレットボアのボタンであった。

フィリオ氏による総評は次回。

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