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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
『アンノウン』の待機時間
151/215

早朝のそれぞれ

「ひゃっはーーーーーっ!! 突き進めボタンーーーっ!!」


 早朝の、エトビ村『月見荘』の裏手にある農園――をさらに奥に進んだ空き地を、首に太い綱を巻いた猪に乗った(オーガ)族、ヒイロが駆け回っていた。

 ボタンというバレットボアの名は、ヒイロが付けたモノだ。


 ――結局、騒動の後もシルバたちはまだ、エトビ村に滞在することになった。

 色々と後始末もあったし、関係者となったシルバ達も辺境都市アーミゼストに戻るより、こちらにいた方がいいだろうと判断したからだ。

 アーミゼストには、シルバ達のパーティー『アンノウン』の拠点となる邸宅もあるが、こちらの管理はカナリーが部下を派遣してくれることになった。

 部屋の清掃などプライバシーに触れることはそれぞれの了承を、ということになったが、シルバは特に見られて困るようなものもなかったし置いてもいなかったので、頼むことにした。

 他、たとえばヒイロなどがどういう判断をしたのかは、シルバは知らないし、聞いてもいなかった。


 結局ヒイロに懐いたボタンは、そのまま飼うことになった。

 世話は当然ヒイロが担当することになり、基本的には『泉の瓢箪』内で暮らしてもらっている。

 一頭で寂しくないのかとシルバは心配だったが、かといって増やすわけにもいかない。

 ただヒイロがいうには、同じく中に棲むことになった灼熱の精霊と、そこそこ仲良くしているらしい。

 ……敵対していたはずなのだが、和解したようだ。

 まあ、瓢箪の中で暴れられても困るので、それならそれでいいか、とシルバは納得することにしていた。


「ブルゥッ!!」


 ヒイロに応え、力強く四肢を動かし、ボタンが加速する。

 まさに猪突猛進。

 都市に戻ったら、ヒイロは鞍を買うといっていた。


「元気だなぁ……」


 木の切り株に腰掛け、シルバはそんなことを呟いていた。

 そんなシルバの後ろに、人の気配があった。

 影の形は人の形をしていたが、狐の耳と尻尾もついていた。


「元気のないヒイロとか、こっちの調子が狂うのである。……まあ、少々はしゃぎすぎではあるが」


 振り返ると、シルバの予想通り、キキョウだった。


「お、キキョウ。ヒイロのアレに付き合うのか?」


 む、とキキョウは口元をへの字にした。


「付き合わぬ。シルバ殿は某を何だと思っているのか」

「……いや、でも狐系だし、散歩は大事かなと」

「あれは、散歩レベルではないのである。ほとんど乗馬ではないか」


 バカラバカラと土を蹴って疾駆するボタンとその背中に乗るヒイロを、キキョウは指さした。


「乗馬というか乗猪(じょうちょ)というか」

「一度、うちのブラックライトニングと競わせても良さそうだねぇ」


 少し遅れて、カナリーがやってきた。

 早朝の畑には少々ミスマッチな、いつもの礼服にマント姿である。


「ブラックライトニング?」

「ウチで飼っている馬だ。とても速く力強い」


 シルバの問いに、カナリーは得意げだ。

 一方、キキョウは腕組みをし、不思議そうに首を傾げていた。


「……吸血鬼は空も飛べるのに、馬にも乗るのであるか?」

「それを言ったら人間だって、二本の足があるのに、馬に乗るだろう? 空を飛ぶのだって労力はあるんだ。馬に乗ることだってあるさ」

「なるほど。それでそのブラックライトニングであるか。名前が長いと思うのであるが」

「うん、実はそれはちょっと悩みどころではある。とはいえ、ブラライもブライトも、馬自身がお気に召さないんだ。ブラックライトニングとちゃんと呼ばないと機嫌が悪くてね……ってそんな話をしてても、しょうがない。キキョウ、シルバへの挨拶はその辺にして、そろそろ行こう」


 カナリーが指さした先を追って、シルバは二人の目的地を理解した。


「シルバ殿も如何であるか? クロス・フェリーの邸宅と、マルテンス村周辺の探索なのだ」

「……さすがに、人間の足で行くには、ちょっとハードだろ、それは」


 クロス・フェリーの方はまだともかく、その足でマルテンス村へ向かうのは少々酷だ。

 行けないことはないが、何となくで行くにはちょっと遠い。

 ふむ、とカナリーは『月見荘』を振り返った。


「ウチから引っ張ってきた馬を貸してもいいけど……いや、ヒイロ達の監督を任せた方がいいだろうね。子ども扱いしたら怒るだろうけれど、僕達の誰かが見ておいた方がいい」


 それは分かる、とシルバも思った。


「で、あるな……仕方がない。カナリー行くとするのである」

「じゃ、シルバ。みんなの世話を頼んだよ」

「……いや、犬や猫じゃあるまいし」


 手をブンブンと振るキキョウとそれを促すカナリーを、シルバは見送った。

 ふぅ、と息を吐くシルバの後ろで、何やら騒がしい気配がした。


「ちょっ、ストップ、ボタン! 木、木は薙ぎ倒しちゃダメ! 叱られるよ!」


 バキバキバキ、と小さな森の木々が倒れていっていた。

 どうやらテンションの高まったボタンが、そのまま森の中へ突っ込んだようだ。


「っていきなりかよ!?」


 シルバは切り株から立ち上がり、森へと駆け出した。




 被害はといえば森の中の何本かの木程度であり、それらに激突した程度で負傷するヒイロとボタンではなかった。

 とはいえ、被害は被害である。

 落ち着いたヒイロ達を連れて『月見荘』のメナに謝りに行くと、倒した木の後片付けを条件に許してもらえ、ホッとしたシルバであった。

 そして、再び宿の裏手の道を二人と一頭で歩いていると、同じく散歩をしていたタイランと鉢合わせた。


「……まったくもうヒイロ、ちゃんと手綱を握っていないとダメですよ」


 シルバから話を聞き、タイランは呆れたような声を上げた。


「えへへ、申し訳ない。ほら、ボタンも謝る」

「ブヒン……」


 ヒイロとボタンの謝罪に、シルバは肩を竦めた。


「まあ、倒した木を加工して、薪を割るのはヒイロの仕事な。ボタンも手伝うように」

「はーい」

「ブヒッ!」


 倒したばかりの木は、薪には適さない。

 乾燥させる必要があり、それはタイランに伴っている灼熱の精霊が手伝ってくれることになった。

 深青の大きな全身甲冑(フルプレートアーマー)が、黒い小さな竜巻と眩い光球を伴っているのである。

 夜中に見ればちょっと怖い光景である。

 黒い竜巻は混沌の精霊シエロ、光球は灼熱の精霊だ。

 まあ、早朝だし、そのインパクトから真っ先にエトビ村の住人から憶えてもらったタイランなので、今更驚かれることはなかった。


「そういえばタイラン、灼熱の精霊には名前を付けたのか?」

「あ、はい。ハラーラちゃんです。まんま熱って意味なんですけど……」

「……一応、性別はないんだよな」


 ちゃん付けに、一応確認をするシルバだった。


「ま、まあ、名前に引っ張られることとかはありますし……別に君呼びでもいいんですけど……」

「うーん、タイランには二体の精霊、ヒイロに猪……カナリーにも従者が二人いるし、何か変なところで充実してるよな」

「ですねぇ」


 メンバーは六人なのに、登録されていない戦力が着々と増えている冒険者パーティー『アンノウン』であった。


「つまり次は、先輩かキキョウさんかリフちゃんのターン!」

「ならねえよ」


 ヒイロの宣言に、即座にシルバは突っ込んだ。


「にぅ?」


 て、て、て、と急いでいる風でもないのに速い速度で駆けてきたのは、リフだった。

 帽子から出た虎耳がピクピク動いているのは、ヒイロ達との会話が聞こえていたからだろう。

 さらにその後ろを、ゆっくりと平服姿の父親フィリオがついてきていた。


「お、噂をすればリフちゃんだ。今日はどこの温泉入ってきたの?」

「に、ちょっと離れた、泡がボコボコでてるやつ。きもちよかった」


 ヒイロの問いに、リフは頷いた。


「うむ、悪くなかった」


 追いついたフィリオも同意する。

 ヒイロはフィリオを見、そして改めてリフを見た。


「混浴だった?」

「に? 男女べつ。人、いなかった。判子、もらった」


 シルバも、フィリオを見た。


「何だ、その視線は」

「……いや、何でも」


 フィリオの問いに、シルバは言葉を濁した。

 リフを見る。

 ……外見年齢的に、何というか親子が一緒に入るにはちょっとギリギリのような気がする。

 リフが仔虎形態だったらまあ、セーフかなと思うシルバであった。


「しかしこの調子だと、都市に戻る前に全部埋まりそうだな、そのスタンプカード」

「にぅ、景品もらう」


 リフは首から提げたスタンプカードを誇らしげに掲げたのだった。


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