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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
【番外編】神様は放浪中
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魔法使い

 目を細めたまま、リュウは青年をにらんだ。


「どちら様ですか? 安っぽい正義感で動いているようですが、私と先生、どちらが正しいか、理解できていないでしょう? これは先生と私の問題です。部外者は口を挟まないでくれますか?」

「あ、危ないです! アレは……おそらく量産型とはいえ、ただの精霊じゃないんです。早く逃げて下さい!」


 いくらここがシトラン共和国――世界中の情報の集約地点であり、最も近代的、精霊の力の弱い国であっても、それでもリュウの率いる人工精霊達は破格の性能を誇る。

 それは、かつて自分が作ったモノだからこそ、分かることなのだ。

 しかし青年は構わず、二人の間に割って入ったまま動かなかった。


「いや、うん、オレはアンタらの事情は理解してない。そりゃ確かだ。けど、どっちが気にくわないかはよく分かっているつもりだぜ」

「い、今の術……『神拳(パニシャ)』ですよね……?」

「ああ、昔知り合った小僧(ガキ)から対価に受け取った攻撃力でね。まあオレ、祝福系はこういうのしか取り柄がないんだけど」


 他の術は封印してるし、この辺信者少ないしねー、とよく分からないことを言う。


「……貴方、ゴドー聖教の信徒ですね。しかし、あの程度の攻撃で、私の研究を倒せると思っているなら、浅はかとしか言いようがありませんよ? 軽挙妄動は慎むべきでしょう」


 リュウは顎をしゃくった。


「先生は逃げられないように、ほどほどに痛めつけてしまいなさい。もう一人は邪魔なので『排除』しましょう」

「――了解」


 精霊達が同時に応え、リュウは自信に満ちた表情で、手を高らかに挙げた。


「『豪拳(コングル)』、それに『加速(スパーダ)』!!」


 味方を強化する青い聖光が四体の精霊を包み込み――不意にその光が消失した。


「!?」


 初めて、リュウの目が見開かれた。

 それはコランも同様で、青年の肩がクックッと笑いに震えていた。


「……何を、したんですか。『封声(チャック)』ではないようですが……」

「教える義理があるのかい? ったく、ウチの信者のくせに、ロクでもないな。言っておくけど……んん……ああ、うん」


 青年は空を見上げたかと思うと、まるで何か啓示でも受けているかのように、何度か頷きを繰り返した。

 そして、改めてリュウを見た。


「リュウ・リッチー。グリンマ王国の精霊学者。寄付もそれなりに、ゴドー聖教の敬虔な信者ではあるみたいだが、世話になった師匠を売った動機は、嫉妬と強欲。それから生来から傲慢と、こうこられるとオレも黙っていられねー。お前の祈りはここから全部キャンセルな」

「意味の分からないことを、言わないでもらえますか? つまらないトリックを弄して全能の神を気取るなんて、それこそ神に対する傲慢ですよ」

「当たらずといえど遠からず、だな。コラン・ハーヴェスタ先生よ」

「は、はい!?」


 突然、足下が頼りなくなる。


「う、わ……」


 見ると、自分の足が地面からわずかに離れていた。

 犯人は――目の前の青年だ。

 同じように、彼も足下が軽く宙に浮いていた。


「せっかくだしアイツら、新しい()()の練習相手にさせてもらうぜ。先生も、胸の部分にある()だけ気をつければ、死なないから安心していい。『あたり判定』はそれだ。ただ、地面や壁に当たるなよ。そっちの方がやばいから」

「貴方は一体何者ですか!」

「聞けば全部教えてもらえると思うなら、世間を舐めてるとしか思えねーな。まあいいや。名前は……そうだな、シルバ・ロックールとでも名乗っておこうか! そして職業は――魔法使いだ!!」


 青年は高速で人工精霊達に迫ると、その手の中にある魔力弾を放った。


「娘達、迎撃なさい!」

「――了解しました」


 四体の人工精霊達は自律型ではなく、基本的にリュウの指示によって動く。

 絶対的な命令遵守はある意味、強みでもある。

 彼女達の姉に当たる試作型人工精霊タイランの持つ、『感情』という弱みがないからだ。

 しかも各精霊の火力は一体ずつでも相当に強力であり、人間一人どころかこの都市の一区画でもほんの数秒あれば壊滅させることが可能だ。

 しかし、問題点がない訳ではない。


「遅ぇ!」


 シルバ・ロックールの放った光線が、火の精霊と水の人工精霊を同時に貫いた。


「――!?」

「――想定外の速度……っ」


 問題点の一つは、自律型でないという点だ。

 彼女達はリュウの指示に従う分、コランの娘である人工精霊タイランのような『自己判断』ができない。

 代案としてリュウがもしも、ゴドー聖教に伝わる念話の祝福『透心(シンツ)』を使える司祭であったならば、かなりの脅威となっていただろう。

 けれど、彼は『透心(シンツ)』が使えなかったし、もしも習得していても長髪の青年が言った通り、現在何故か使用は不可能な状態にあった。


「食らいな」


 シルバは、足に出現した光の球を下方にいた土の精霊めがけて蹴り飛ばした。


「――あ」


 光球が土の精霊の頭に触れたかと思うと、強い発光と共に爆発が生じた。

 ……二つ目の問題点として、彼女達は属性が明らかであるという点。

 これでは精霊にわずかでも詳しい者ならば、彼女達一体一体の攻撃方法と弱点が自ずと読めてしまう。

 しかも内の一体は地属性であり、宙に浮いている青年やコランには、有効な攻撃が限られてしまっていた。

 土の人工精霊は、身体のあちこちに穴を空けながら、地面に倒れてしまった。

 今や、シルバは『魔法』によって、ただですら空戦のエキスパートと化している。

 いくら精霊達が空を飛べるといっても、それらはあくまで空『も』飛べる程度であって、空『を』駆け抜ける青年との性能差は明らかであった。

 いや、四体の人工精霊の中にも、空中戦のエキスパートは存在していた。

 唯一残っていた、風の人工精霊である。


「――貴方の速度は把握しました。私の方が、速い」

「そいつは、どうかな?」


 シルバ・ロックールは一切容赦しなかった。

 速度を二段階上げて更に機動力を高め、指先から放たれた波動は、復活しようとした人工精霊達の身体もまとめて貫通し、幻影が四体出現し本体と同じ攻撃を模倣した挙句、正面からの攻撃は魔力障壁によって完全に防御する。

 いくらかコラン・ハーヴェスタも流れ弾に巻き込まれたが、青年の『魔法』が効いているのか、無傷であった。

 シルバは、人工精霊との戦いの最中、地上のリュウにも魔力弾で爆撃するという徹底ぶりであり……。


 ――要するにフルボッコであった。


 ちなみにリュウ達はまとめて、川に叩き落とされた為ため捨て台詞の一つも吐けないまま、下流へと流されていった。


「火の精霊の娘が死なないことを祈るぜ。ナムアミダブツ」


 世界観と宗教を完璧に無視した祈りを捧げるシルバであった。

 それを見守っていたコランの身体が、フッと重くなった。

 緩やかに地面に着陸する。

 どうやら『魔法』が解けたようだ。


「あ、ありがとうございました」


 コランは、何十歳も年下の青年に、頭を下げた。


「いいさ、別に。オレもアイツが気にくわなかったからな。ところで先生、この国で美味い飯屋知らね?」


 シルバの妙な質問に、コランは戸惑った。


「ご、ご飯ですか?」

「うん、ウチの信者が少ないから自己修練には打ってつけだし、何より情報に関しては最先端なんだが、とにかく飯がまずくてなー」


 シルバは腕を組み、唸った。


「……何でレシピの数は世界一なのに、あんなにまずく飯が作れるんだここの連中。グルメ雑誌なんてモンもあったけど、記者の舌がこの国基準なモンだから、ロクでもねえ。いっそ、自分で作った方がマシだっつーの」

「……ああ、ちょっと分かります。それで釣りをしてたんですね」


 シルバの釣り竿に、納得のいったコランであった。

 何かお礼になる情報を……と考え、コランは思いついた。


「それでしたら昨日飛び込んだ、『門凝庵(もんごりあん)』という酒場は悪くありませんでしたよ。羊の焼き肉が名物なのですが」

「旨いモノなら何でもいい。よし、感謝だ。礼に何かして欲しい事はあるか?」

「い、いえ、助けてもらっただけで、僕は充分なんですが……」


 むしろ、アレだけのことをしてくれた礼が、飯屋の情報一つでは、コランの方が申し訳ない気分になっていた。


「遠慮することねえのに」


 そう言われると……コランとしては、気になる事を聞いてみる事にした。


「じゃ、じゃあ一つ……シルバさんが自身や僕に使ったような魔術、見たことも聞いたこともないんですが、どこで学んだんですか?」


 一応、コランは錬金術師であり、魔術に関しても一通りの知識はある。

 だが、シルバの使っていた魔術は明らかに、従来の魔術とは異なる未知のモノだ。

 自在に空を飛び、手からは魔力弾や光線を放つ。

 分身に魔力障壁……これらが複数の魔術の組み合わせではなく、一つの魔術なのだ。

 学者としての知的好奇心が刺激されるのも、仕方がない。

 コランの問いに、シルバは苦笑を浮かべた。

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