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夜の宴

ちょっと短めです。

 ヒイロとタイランに作られたキャンプファイアーが燃え、その周りをバレットボアたちが回っている。

 いや、あれは踊っているのか。

 タイランは沼地に手をかざし、水面に写っている月から、次々と光の精霊を生み出していた。

 ヒイロはひたすらに、食べて飲んでいた。

 さすがに沼の水は飲めないので、カナリーが『泉の瓢箪』から汲み出してきた湧き水である。

 そのカナリーはといえば『泉の瓢箪』に熱心なようで、今は通りすがりのバレットボアに声を掛けて、一緒に入れるかどうかを試しているようだった。

 そんな様子をシルバは少し離れたところで、眺めていた。

 猪たちの取ってきた食べ物が少々、飲み物はカナリーがストックしていた葡萄酒を、収納能力のある道具袋から取り出していた。

 さすがに夜も大分更けてきており、リフはシルバにもたれかかり、うつらうつらしていた。


「宴もたけなわといったところであるな」


 森の闇の中から、キキョウが出てきた。


「お、おかえり、キキョウ。冒険者ギルドの方、どうだった?」


 キキョウはシルバの頼みで、一足早く、村に戻っていたのだった。


「夜勤の者がいたのである。……一応、現場を見てからということになり、朝になってからこちらに来ることになったのだ。まあ、さすがに某達の話だけでは判断がつかぬということであろうな。あと、都市の方からも調査専門のギルド職員が派遣されてくるらしいのである」

「ま、そりゃそうだろうな」

「ピギ?」


 何の話をしているのか気になったのだろう、トコトコと、うり坊姿の猪神がシルバ達に近づいてきた。


「あー、この辺り一帯の縄張りの扱いの話です。冒険者が討伐に来たら、面倒でしょう? だからここには、人の言葉を理解できる生き物がいるってことを、村とか冒険者ギルドに知ってもらっとこうって伝えてたんです」

「足の速さならばリフの方が向いていたのであるが、説明するとなると、外見年齢的に信じてもらえるか、少々疑わしかったのでな……」


 キキョウが、半分眠っているリフを見下ろした。


「にぅー……」


 視線に気付いたのか、リフは目をこすり、姿勢を正した。


「ピギィ……?」


 猪神の鳴き声に、リフは耳をひくつかせた。


「にに、問題ない。最近ギルドでは、遠い距離でも連絡できる手段、ある」


 リフの返事から察するに、どうやら猪神は、人が来ることではなく、都市とどうやって連絡を取ったのかが気になっていたらしい。


「ピグ?」

「例えばここから廃村まで、遠話機っていう声を伝えられる魔道具が存在するんですよ。キキョウ、アーミゼストの教会にも伝えるよう、頼めたか?」

「そちらも特に問題なく。シルバ殿の師匠殿なら、空を飛んで来られるのではなかろうか」


 キキョウは、都市のある方角を見た。

 もちろんそちらには森があり、距離的にも都市が見えるはずがないが。

 それよりも、別の問題があった。


「……空は飛べるんだけどな。問題は、方角を間違えないかどうかなんだよ」

「ああ、その問題があったであるか」


 シルバの師匠であり、ゴドー聖教の司教であるストア・カプリスの方向音痴は、凄まじいモノがあるのだ。

 下手をすれば、まるで見当違いの方角にある海に向かっていてもおかしくない。


「に……!」


 急にリフが立ち上がった。


「ピギ!?」


 わずかに遅れて、猪神も空を見上げた。

 不意にシルバたちの周囲に影が差したかと思うと、巨大な剣牙虎が空から降下してきた。

 わずかな風以外、重さを感じさせない動きで、剣牙虎は着地した。


「うおっ!?」


 剣牙虎――リフの父親であるフィリオはジロリとシルバを見、すぐ隣に立つリフの姿を確かめると、目を細めた。


『姫よ、ここであったか。ふむ……あの者たちの祈りから生じた、新たな神だな』


 フィリオは念話を放ちながら、小さく震える猪神を見下ろした。


「ピグゥ」

『怯えずともよい。我が名はフィリオ。遠く東の地にあるモース霊山に棲む、剣牙虎の長である』

「ピギピギ」


 猪神は顔を上げ、逆にフィリオは伏せの姿勢を取った。

 大きさ故に、その姿勢でもフィリオが見下ろす形にはなるが、一応は対等の目線である。


『ふぅむ……小さくとも神ということか』


 感心したように、フィリオは呟いた。

 互いの挨拶らしきモノが終わると、フィリオは再び身体を持ち上げた。

 その視線がまた、シルバに向けられた。


『それで、小僧』

「は、はい?」

『……姫とは何もなかっただろうな?』

「あー、いや、それがその……」

『何だ?』

「に、宿の部屋、リフといっしょ」

『!?』


 リフの言葉に、ガン、とフィリオの目が大きく見開かれた。

 そして、ギギギ……と軋むような音が立ちそうな動きで首を傾け、シルバを睨む。


『……小僧。我は確か、事前にこう言ったはずだ。同室は許さぬと。どういうことだ?』


 シルバが答えようとしたが、それよりもリフの返事が早かった。


「にぅ、部屋割りの結果。お兄は悪くない」

『いや、しかしだな』

「でも、他にも一応選択肢はあった」

『む?』

「リフだけ、野宿する」

『いや、それはこの小僧がすればよいだろう?』

「そうすると、みんな野宿」

『ぬ、うう……』


 ……まあ、リフが野宿でも、みんな同じようにしてただろうけどなーとシルバは思ったが、黙っておいた。

 下手に口を挟むと、また揉めそうだったからだ。

 そして娘の意見に負けたのか、フィリオは不機嫌そうに尻尾を揺らしながらシルバを睨んだ。


『こ、これで勝ったと思うなよ!』

「子どもか」

「そもそも、勝負すらしていないのである」


 思わず素で突っ込むシルバと、追撃するキキョウであった。


『ああ、あと貴様の師匠も連れてきておいたぞ』

「え?」

『そろそろ、追いついてくるだろう』


 フィリオが、夜空を見上げた。

 すると、黒い点がやがて翼を生やした白い女性の姿になった……ゴドー聖教の司教、ストア・カプリスであった。


「フィリオさん、速すぎですよー」

『貴様が遅いだけだ。これでも、加減はした。そうでなければ、もっと早くここにたどり着けたのだぞ』


 それだけ言うと、フィリオは沼に向かって歩いて行った。

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