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瓢箪の中

 青みの強い虹色にほのかに光る空。

 湯煙がほのかに漂い、気温は()とほとんど変わらない。

 周囲は森に囲まれており、シルバたちの前には泉が広がっていた。


「おー……」


 蓋を抜いた瓢箪を手に持ち、自分の名前を念じたシルバが次の瞬間転移したのは、そんな光景だった。

 ここは、泉の精から送られた瓢箪の中にある、温泉の亜空間である。

 泉の奥には壺を担いだ泉の精の像があり、その壺から湯が泉へと注がれている。

 そして、泉の縁には、一足先に転移していたカナリーがしゃがみ込んでいた。

 何かを調べているようだ。

 同じく先に転移されたはずのリフは……右手の森の辺りに、後ろ姿が見えていた。


「お……」


 カナリーに声を掛けようとしたシルバだったが、法衣の裾をクイクイと引っ張られ、そっちの相手を見た。


「先輩先輩、泳いできていい!?」


 目を輝かせ、鼻息も荒いヒイロが、湯気を漂わせている泉を指さしていた。


「却下。タイラン、ヒイロを押さえつけといて」

「わ、分かりました」


 瓢箪の入り口にはどうやら魔力とは別の法則が働いているのか、甲冑姿のタイランも無事転移できたようだ。


「うわっ、タ、タイランの裏切り者ぉ!」

「と、特に裏切った覚えはありませんし、お風呂で泳ぐのは禁止ですよ、ヒイロ……!」

「……まったく、干し肉食った途端これだよ……思ったより、広さがあるなあ。これなら、休憩もできそうだ」


 ちなみに、ヒイロが食べた干し肉は三つである。

 あのまま放っておいてもよかったのだが、せっかくの新しいアイテムなのだ。

 ちゃんと意識を戻してもらい、ヒイロにも参加してもらう事となったのだった。

 シルバは、揉める二人から、周辺へと視線を移した。

 森の木々の間隔はそれほど狭くはなさそうだ。

 足下は短い草が伸びており、所々に花も生えていた。

 シルバたちが立っているのは、石でできた円形の転移陣の上だ。

 すぐ隣に、外から転移してきたキキョウが出現した。


「シルバ殿、言われた通り振ってみたが、如何であった?」

「いや、まったく問題ない。なあ、ヒイロ、全然揺れなかったよな?」

「あ、うん」


『泉の瓢箪』は腰に引っかけられる程度の大きさで、ほとんど重さもない。

 もしもこれを装備して動いた場合、中の空間と人間はどうなるのか。

 それを調べるため、キキョウには外に残ってもらい、試しにゆっくり振ってもらっていたのだ。

 事前に泉の精から大丈夫とはいわれていたが、もしかすると予想外の問題が生じるかもしれない。

 一応用心して試してみたが、どうやら本当に大丈夫のようだった。


「あとはひっくり返した時の検証ですけど……それは私がここに残って試した方がよさそうですね。風属性なら、万が一のことがあっても、宙に浮いていられますし」


 タイランは、青みの強い虹色の空を見上げた。


「じゃあ、それはタイランに頼もうか」

「は、はい……あ、ヒイロどこに行ったんですか……!?」


 ふと手元を見ると、タイランが押さえつけていたヒイロがどこかに消えていた。

 泉の方を見たが、特に誰かが飛び込んだとか、泳いでいるという気配はない。

 ならまあいいか……と、シルバはとりあえず、ヒイロのことは諦めた。

 それよりも、考えるのはこの亜空間のことだ。

 泉の精から四つの選択肢を提示され、六人の意見は一発でまとまった。

 しかし、もしも他のどれかを選んでいたら……とも、考えてしまうのだ。


「……シルバ殿、他の選択肢を考えていたのであるかな?」


 ヒョイとキキョウが覗き込んできたので、物思いにふけりそうになっていたシルバは思わず仰け反った。


「うぉうっ!? ビックリした……いやまあ、その通りなんだけど。あと、この選択肢も、間違ってはいないって信じちゃいるけど、やっぱり一つ目と二つ目はなぁ……」


 武具は真っ先に除外した。

 水属性や氷属性は付与されていたが、武具自体はシルバ以外、全員持っているのだ。

 だから、シルバが考えたのは、体力が増える加護か、致命傷を回避する加護だった。


「特に二つ目であるな」


 キキョウの指摘に、シルバは頷いた。


「うん。致命傷がなしになるっていうのは特に、前衛にとっておいしい。どれだけ警戒しても、不意打ちや罠はあるし、当たりどころってのもあるしな」


 それを踏まえた上で、シルバは『泉の瓢箪』を選んだ。

 理由は単純で、体力は鍛えればいいし、致命傷は警戒を強めればいい。

 けれど、このアイテムは、努力しても手に入らないからだ。


「この瓢箪は破格なのである。某には従姉妹に時空魔術の使い手がいる故、尚更であるぞ」

「ああ、この道具袋の作り手な」


 キキョウの話に、シルバは腰の道具袋を軽く叩いた。


「うむ。亜空間自体は問題ないとは思うが、そこに異なる世界を用意するというのは、なかなかに難しいのである」


 そういえばここに、脱いだモノを入れる籠やら何やらは持ち込めるのだろうか、とシルバは考えた。

 まあ、その辺りは要検証である。

 その思考を中断したのは左手から、誰かが駆けてくる足音がしたからだ。


「あれ?」


 森の中から駆けてきたのは、ヒイロだった。


「ヒイロ、何してるんだ?」

「や、森の中がどうなってるのかなーって思って歩いてたら、戻ってきちゃった」


 ヒイロは後ろを指さし、そしてシルバの後ろを指さした。


「ああ、空間が循環するようになっているのであるな。この空間に『壁』を設けておらぬから、向こうとあっちが繋がっているのだ」


 つまり、行き止まりのない空間なのである、とキキョウは説明した。

 ヒイロは地面の石を拾った。


「え、じゃあ向こうにこの石投げたら、後ろから飛んでくるってこと?」

「してはならぬぞ!?」


 騒ぐキキョウたちを置いて、シルバは泉の縁にうずくまるカナリーに近づいた。


「……それで、カナリーはさっきから、何をしてるんだよ」


 ちょうど水面から頭を出すように、掌大の石の玉が据えられていた。

 石の玉には、複雑な文様が浮かび上がっていた。


「うん、これだ。どうやら湯の管理システムのようだね。手を置くことにより、水量や温度を操作することができる。魔力を使うようだけど、この程度ならヒイロでもまったく問題ないだろう。この玉に刻まれた文様から察するに、古代オルドグラム王朝時代の技術を流用したモノではないかなと思うんだ。……研究室に持ち帰って、解析したいなあ、これ」


 さっきのヒイロとは別の意味で、目を輝かせている、カナリーだった。


「……絶対壊さないって保証があるならいいけど、せっかくのもらい物をいきなり台無しにするのもどうかと思うんだ、俺」

「くっ……! じゃあ、やっぱりここで調べるしかなさそうだ」


 悔しそうに、カナリーは拳を握った。


「調べることは、調べるのな」

「それはもう当然さ」


 ビッと親指を立てる、カナリーだった。

 ……となると、残るは森の中を歩いては立ち止まる、リフである。


「リフは、何してるんだ? 植物の調査か?」

「にう。ぜんぶ、本物。虫とか鳥がいないのに育つの、不思議」

「食べられそうな木の実が生えてる木とか、ないか?」

「にに……そういう木はちょっとない。でも、キノコとか生やしやすそう。あと、土の質がいいから薬草とか。あと、泉の精の石像の裏にも石の玉がある」

「そうなのか?」


 リフの案内で、湯を注ぐ泉の精の像の裏側に、シルバは回った。

 するとなるほど、裏手にも小さな泉が存在していた。

 ふと、シルバの頭に閃くモノがあった。


「……もしかして、飲み水用か?」

「に、冷たいし、多分そう」


 泉の精の説明通りだと、本当にただの水なのだろう。

 けれど、飲料水だとすれば、ありがたい話であった。


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