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灼熱の精霊戦、決着。そして『シエロ』

 シルバは、『飛翔(フライン)』で沼の上を滑るように走った。

 分裂した灼熱の精霊が熱線を放つが、さすがにこちらの陣営も数が多く、シルバに迫るそれも数は少ない。

 せいぜい、二、三体といったところか。


「っと」


 勘が働き身を屈めると、すぐ頭上を熱線が通り過ぎていく。

 ……少ないとはいっても、攻撃はゼロではないのだ。

 油断は禁物だろう。

 一方、同じ追加戦力であるヴァーミィとセルシアはシルバと違い、積極的に灼熱の精霊を倒す方に回っている。

 シルバは、山の反対側に手を振った。

 すると。


「ブモオォォォ!!」


 勇ましい雄叫びと共に、森の中から巨大な影が姿を現した。

 包帯を巻いたキャノンボア、群れのリーダーであるメイジェルである。

 その後ろにも、幾つもの小さな影が見える。

 リーダーが突撃しているのだから、それが率いるバレットボアたちも当然ついてきていた。


「おおっ、来たね!」


 骨剣を灼熱の精霊に叩き付けながら、ヒイロが声を上げる。


「ブルウウゥゥ!!」


 メイジェルたちはそのまま沼地に突撃し、灼熱の精霊たちに襲いかかった。

 バレットボアはその身体の半分以上が水に浸かっているのに、ほとんどスピードを落とすことなく、精霊を駆逐していく。

 そのボスたるメイジェルの勢いは凄まじく、熱線が幾つも当たっているにも関わらず、まるで怯む様子がない。そもそも当たっても、分厚い毛皮をわずかに焦すだけな上、身体を横軸に転がせば沼の水が熱を鎮めてくれるのだ。


「ブルッ!」

「うん!」


 異種族同士通じ合うモノがあるのか、シルバが『透心(シンツ)』を使うまでもなく、ヒイロは跳躍し、メイジェルの頭に乗った。

 一方の灼熱の精霊は、回転しながら再び周囲の小さな同胞を取り込んだ。

 本能が、迫ってくる一人と一体が止まらないことを感じ取ったのだろう。

 その丸い身体自体が収縮を開始する。


「弱まってる……? いや、違う……」


 シルバは目を細め、灼熱の精霊の意図を推測した。


「向こうも、ギリギリまで力を溜めてるのか」

「皆、散らばれ! このままでは、巻き込まれてしまうのである!」


 キキョウが声を張り上げ、ヒイロとメイジェルの進む先を開いた。

 メイジェルの突撃は迂闊に近づけばそれだけで弾かれそうだし、小さく縮んだ灼熱の精霊はかなり離れたシルバのところまでその高い熱量を伝えてきていた。


「突、撃っ!!」

「ブラアァァァーーー!!」


 キャノンボアのメイジェルが加速し、それを迎え撃つ灼熱の精霊の正面は風景が歪むほどの熱の塊が生じていた。

 そしてその塊が弾けたかと思うと、メイジェルとヒイロめがけて極太の熱線が放たれる。


「いきます!」


 その熱線を阻むように、水面がいくつも壁状にそそり立った。

 沼と一体化したタイランの仕業である。


「――『豪拳(コングル)』」


 一方シルバは、ヒイロに力を与えた。

 状況から考えれば、『鉄壁(ウオウル)』か『大盾(ラシルド)』が正解なのだろうが、今回の場合はむしろ攻撃力を過剰なぐらい上乗せした方がいいと判断したのだ。

 ヒイロの身体を、赤い聖光が包み込む。

 直後、メイジェルと熱線が激突した。

 大量の水蒸気が発生し、高い波と水飛沫が生じた。


「『大盾(ラシルド)』! っていうか必要なのは俺の方かよ!」


 シルバは波を魔力の盾でやり過ごし、ヒイロらと灼熱の精霊の戦いを見届けた。

 メイジェルと熱線は一瞬拮抗していたが、後ろからバレットボアが数体駆け寄り、その尻を押した。

 さらに灼熱の精霊の頭上には、いつの間にかメイジェルの頭から跳躍していたヒイロがいた。


「これでも、食らえ!!」


『凶化』と『豪拳(コングル)』で強化され、さらに猪神の加護を纏った骨剣が灼熱の精霊めがけて振り下ろされた。

 球体状の精霊がひしゃげ、熱線の威力が目に見えて落ちた。


「ルルルルルァァァァ!!」


 額を焦しながら、メイジェルとバレットボアたちが灼熱の精霊へと迫り、そのまま激突した。

 一瞬、灼熱の精霊は強く光ったかと思うと、無数の粒子へと砕け散った。


「っと……」


 その頭に再び、ヒイロは着地していた。

 メイジェルらはそのまま沼を駆け抜け、やがて、スピードを落としていった。

 さすがに無傷というわけにもいかず、今の一撃でエネルギーを使い果たしたのだろう。

 けれど、戦い自体は終わっていない。


「お疲れ、ヒイロ! みんな! 大物は倒したけど、まだ小さいのが残っている。完全には終わってないぞ」


 シルバが呼びかけると、ヒイロたちの戦いを見守っていた皆も、我に返ったようで動き始めた。

 もっともほとんど残党処理に近い。

 大半は、タイランが水面から水柱を出現させ、小さな灼熱の精霊を取り込んでいる。

 その中でもシルバが視線をやったのは、タイランの外殻である重甲冑だ。

 本来のタイランの姿とは違い、目の部分や間接から黒い靄のようなモノが湧き出している。

 そしてその靄が鞭のように伸びては、手近な灼熱の精霊を巻き込み、その力を奪っていっていた。


『カナリー、あれが『シエロ』か?』

『うん。クスノハ遺跡で回収した、混沌の精霊だよ。ようやくタイランが手懐けられてね。精霊体のタイランが出た後も、あの甲冑を稼働できるようになったんだ』

『て、手懐けたとかそういうのじゃなくて……その、仲良くなっただけです』


 カナリーとの『透心(シンツ)』でのやりとりに、タイランが割り込んできた。


『まあ、解釈はそれぞれだね』


 カナリーは雷撃を放ちながら、肩を竦めていた。


『今度、ちゃんと紹介してくれ、タイラン』

『は、はい。でも……ちょっとまだ、気難しい子ですから……』

『あの、鞭みたいな靄で、ベチンってやられちゃうんだよねえ。あ、ちなみにタイランほどは動けないよ。精霊炉の出力が大きすぎて、あの甲冑を十全に扱うにはタイランクラスの精霊じゃないと、まともに駆動しないんだ』


 なるほど、カナリーの言う通り、タイランの外殻を動かしている『シエロ』の動きはかなり重い。

 その辺りは今後の課題だろう。

 それにしても、と思う。


「何か……悪役っぽいムーブだよなあ」


 黒い靄を纏い、灼熱の精霊を捕食する『シエロ』を眺め、シルバはそんな感想を抱くのだった。

『シエロ』のイメージは分かる人には分かる、まんまアレです。

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