水上の決戦
「いきます!」
タイランは足下の水に沈んだ。
まだ水面の高さは膝の高さ程度だが、水属性のタイランには充分だ。
周囲の水と同化し、同時に太い水柱を発生させ、灼熱の精霊を下から攻めた。
『!?』
一瞬、灼熱の精霊の身体が強張り、短い蒸発音と共に周囲には大量の水蒸気が発生した。
白い湯煙の中から、先ほどよりも小ぶりになった灼熱の精霊が幾つも出現した。
それらが熱線をヒイロやキキョウに放ってくる。
「んん……っ?」
ヒイロは骨剣で熱線を受けると、眉をひそめた。
何だかさっきまでの熱線よりも、威力が弱まっているような気がしたのだ。
もっともそれは口にせず、攻撃に転じる。
「水蒸気が熱線を弱めているんだよ。気体になっているとはいえ、水だからね」
骨剣を振るうヒイロに、カナリーが説明した。
精霊は小さくなった分、動きが速くなっているようだ。
「そういうことなら!」
灼熱の精霊が鞭のような触手で襲ってくるが、ヒイロは構わず突進した。
幾つもの触手を鱗の籠手でいなし、骨剣を盾にし、バネのような全身で回避しながら、蒸気の霧の中へと駆けていく。
「……怖い物知らずだねえ」
迫ってくる灼熱の精霊を、カナリーは『雷閃』で迎え撃つ。
捌ききれない分は、リフが腕から生やした刃で切断していた。
そして力を失った精霊は、水面から湧き上がった水柱が取り込み、完全に蒸発させた。
タイランの仕業である。
「うん、助かるよ、リフ、タイラン。その調子でどんどんやってくれたまえ」
「に!」
「は、はい」
全身から棘を生やし、ウニのようになった灼熱の精霊が、キキョウへと迫っていた。
キキョウは腰を落とし、彼らが間合いに入るのを待ち受ける。
そして、激突の直前に、居合いの要領で鞘の中から刃を奔らせた。
キキョウへと突撃を掛けた灼熱の精霊は動きを止め、一瞬遅れてそのすべてが身体を両断されていた。力を失った精霊は、やはりタイランが回収していく。
さらに、湧き上がっていた水蒸気も二つに分かたれ、視界が開いた。
幾つもの灼熱の精霊の中心で、親玉的なそれが回転を続けていた。
「ぬううっ!」
跳躍したヒイロが大上段から骨剣を振り下ろし、灼熱の精霊はそれを高密度の熱線で迎え撃つ。
「えいっ……やあっ!!」
ヒイロの褐色の肌が濃さを増し、同時に赤いオーラが包み込む。
鬼族の種族特性、一時的に攻撃力を高める『凶化』と、猪神の加護の合わせ技だ。
拮抗していた二種の攻撃は一気に天秤が傾き、ヒイロの骨剣が熱線を叩き割り、そのまま灼熱の精霊も貫いた。
綺麗に二つに分かたれた灼熱の精霊だったが、二つの半球状になったそれは、すぐに二つの球体へと変化し、一つは再び高速回転を始めた。
そしてもう一つが、ヒイロの背中に襲いかかる。
「ヒイロ、危ない!」
しかし、ウニのようにとげを生やした灼熱の精霊の攻撃を、水面から出現した水の壁が阻んだ。
「おおっ、タイランありがと。助かった」
「気をつけてください。いくらその骨剣に力があるとはいっても、精霊に物理攻撃は効きづらいんですから」
水の中から上半身を出現させたタイランは水の壁を倒し、そのまま灼熱の精霊を水壁と水面とで挟み込んだ。ジュウッという蒸発音がし、灼熱の精霊は消滅した。
けれど、残っているもう一体の灼熱の精霊は健在だ。
高速で回転するその真下の水は蒸発し、むき出しの地面が見えていた。
そして回転が増すほどに、灼熱の精霊の大きさは増しているようだった。
「これなら、どうですか!」
タイランが水面から発生させた幾つもの水の槍が灼熱の槍を貫くが、わずかに動きを鈍らせるだけで回転自体は止まる様子がない。
さらに、小ぶりになった灼熱の精霊が幾つも出現する。
『――『回復』』
シルバの回復で、ヒイロの身体のあちこちにあった火傷の跡が癒える。
『単発の攻撃じゃ駄目だ。一気に叩き込まないと』
『同感だね。ちょっとでも残ってたら、ソイツが復活しようとする』
シルバの飛ばした『透心』に、カナリーが同調した。
『相手は間違いなく弱まっているんですが、消えるには至らないって感じです……』
さらにタイランが意見した。
『じゃあシンプルに、手数を増やそう。カナリー、ヴァーミィとセルシアを』
『承知した。ああ、でも『飛翔』は掛けてくれるかな。さすがに、膝まで水があるような状況では、あの二人も力を十全に発揮できない」
『そりゃごもっとも』
カナリーは水面を滑るように移動し、沼の縁に立つシルバの傍に着地した。
そして、影の中から赤と青の従者を出現させる。
水面上の戦いはこの間も続いており、特に沼の水と同化したタイランが、灼熱の精霊の増殖を抑えている。
「……一気に叩くとしてカナリー、アレは?」
シルバは、沼地に膝をついているタイランの外殻である甲冑を見た。
「タイランの指示があれば従うと思うよ。逆に言えばタイランにしか従わないんだけど」
「じゃあ、呼ぼう。タイラン、頼む」
『わ、分かりました……いきましょう、『シエロ』』
タイランが呼びかけると、中身が空であるはずの甲冑が立ち上がった。
そして斧槍を手に、戦いの中に割り込んだ。
膝まで水に浸かっているため動きは鈍いが、斧槍のリーチもあり、しっかり戦力となっている。
「――『飛翔』。まあ俺も、牽制ぐらいにはなるだろう」
同じくわずかに足を地面から浮かせた、ヴァーミィ、セルシアと共に、シルバは沼地へと向かう。
新たな戦力に荒ぶったのか、灼熱の精霊が光を強めた。
そしてさらにその身体を膨張させ、少ないとはいえ新たに小さな同族を生み出した。
「先輩、指示!」
骨剣を振るいながら、ヒイロが叫んだ。
「小さいのは手がある。大きいのをみんなで倒す。以上」
「単純だねえ」
シルバの横でカナリーが苦笑いを浮かべた。
「だが、まあ、そういう指示ならしょうがないね。ヴァーミィ、セルシア、二人とも前へ」
カナリーの指示で、ヴァーミィとセルシアも前衛に回った。
本来今回で終わらせるはずだったのですが、ちょっと色々あって次回決着です。
スッキリしないところで中断、申し訳ないです。
あと、明日と明後日、色々書籍化作業でお休みさせていただきます。
なお、その作業の内容に関しましてようやく発表できそうなので、昼ぐらいまでには活動報告に詳細を掲載いたします。
まあ、つまり本作、書籍化です。お待たせしました。
よろしくお願いします。




