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キャノンボア戦、決着

 広場では、ヒイロとキャノンボアの戦いが続いていた。

 距離を取ったかと思えば全力疾走からのぶつかり合い、近接戦闘になったかと思えば骨剣と太い牙が激しい火花を散らす。

 キャノンボアを助けようとしていたバレットボアたちは既に戦闘不能に陥り、そこらに引っ繰り返っていた。

 そこに、シルバの『透心(シンツ)』が流れ込んできた。


『まずいぞ、ヒイロ。このままじゃ勝てなさそうだ』

「ちょっ、今戦ってる人に対してモチベーションガン無視発言やめてくれるかなっ!?」


 ヒイロは攻撃の手は休めないまま、思わず叫んでいた。

 そんなことは、ヒイロも重々承知の上なのだ。

 ヒイロはシルバが『回復(ヒルタン)』を、同じくキャノンボアも同じ回復を行なっていたが、精神的な消耗までは癒やされない。

 それにどちらも、無限に回復する訳ではない。

 特にヒイロは、キャノンボアに深手を負わせられずにいるのが、何気に効いていた。

 どう打ち込んでも倒れない相手と戦い続けるのは、かなり辛い。


『あくまで()()()()ならって前提の話だ。理由はいくつかあるが、最大の要因は攻撃力が足りない』

『だねっ!! 先輩の支援で底上げしてもらってこれだもん!』


 何十合目だろうか、骨剣がキャノンボアの太い牙に弾かれる。

 そのたびに、軽量のヒイロは身体ごと持っていかれそうになっていた。

 それでも耐えられるのは、ヒイロ自身の戦闘センスのたまものだ。


『コイツを倒すには今以上の攻撃力がいる。方法はある。ただし、二回目からは絶対に警戒されて、通じなくなる。最初の一回でケリを付けろ』

『そういうの、大好きなんだけど』


 キャノンボアの口元に骨剣を突き込もうとしたが、下顎でいなされた。

 このキャノンボア、見かけによらず相当な技巧派なのだ。

 ヒイロの身体の赤い聖光が、点滅を始めていた。

 攻撃力を高める『豪拳(コングル)』が切れかかっているのだ。

 ……と思ったら、即座にその点滅が止まり、再び赤い聖光はヒイロに定着した。


『よし、なら方法を教える』


 シルバから、逆転の秘策がヒイロに授けられた。

 だが、それは少々正気を疑うモノだった。


『……マジでやんの、それ?』


 ヒイロは思わず一瞬、動きが止まりかけた。


『ヒイロの反射神経次第だな』

『なら、やる。一番勝算高そうだし。先輩も、タイミング頼んだよ』

『任せろ』


 ヒイロはシルバの斜め後ろに控えていた。

 下手をすればキャノンボアの突進がそちらに向いてもおかしくない立ち位置なのだが、それはないと不思議とヒイロもキャノンボアを信頼していた。

 少なくとも今のキャノンボアは、ヒイロを倒すまで他の人間には目もくれないだろう。


「ったくもー、先輩ってば無茶言うなあ!」

「ブルッ!?」


 ヒイロは大きく後ろに飛び退き、そのまま駆け足と変わらない速度でどんどんと後ろに下がっていく。

 一瞬キャノンボアは驚いたが、ヒイロの意図に気付いたのだろう、自身も同じく後ろに下がった。

 次の一撃で勝負を決める、そのための助走距離が必要なのだ。

 ヒイロは腰を落とし、力を溜めた。

 キャノンボアも、後ろ脚を何度も蹴り上げる。


「さあ、ケリを付けようか……!」

「ブルルルル……!」


 ヒイロが笑い、キャノンボアも牙を剥いた。


「いくよ!!」

「ブルァッ!!」


 一人と一頭は同時に駆け出した。

 走りながら、ヒイロはシルバの指示を思い出していた。


『――ヒイロの『凶化』に俺の『豪拳(コングル)』。それでも足りない。けれどもう一つ、足せる力がある』

 それは? と問うヒイロに対し、シルバは答えた。


『――キャノンボア自身の攻撃力。即ち、カウンターだ。もちろんヒイロも何度か試しただろうが、これからやるのは今までのとはちょっと違う』


 何度かぶつかり合った時、キャノンボアの勢いも借りて額に骨剣を叩き込んだこともある。

 通常のヒイロの攻撃よりは、確かに効いた手応えはあった。

 けれど、血は流せど、倒すには至らなかったのだ。

 だから、これから行なうのはそのカウンターとは違う。


「ブルルララァァ……!!」


 目前に、キャノンボアの鼻面が迫ってくる。


「ここっ!!」


 ヒイロは骨剣を振り上げ、大きく跳躍した。

 狙いは、変わらずキャノンボアのやや傷ついた額。

 しかしキャノンボアもそれは織り込み済みだったのだろう、むしろ落下してくるヒイロを骨剣ごと、弾き飛ばした。


「……っ!?」


 キャノンボアの瞳が大きく開いた。

 まるで、思ったほどの手応えがなかったことに、違和感を覚えたかのようだ。


「ぐうっ……きつっ!!」


 ヒイロはキャノンボアによって弾き飛ばされた。

 半分は正しい。

 けれど、残り半分はぶつかる直前に、ヒイロ自身が両足でキャノンボアの額を蹴ったのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()


『――奴のぶちかましを敢えて食らえ、ヒイロ。そしてそのまま弾き飛ばされろ』


 シルバの指示通り、ヒイロは真後ろに弾き飛ばされた。

 このままいけば、森の中に突入してしまうだろう。

 けれど、それより前に。


「――『大盾(ラシルド)』!!」


 シルバの放った青い魔力盾が出現する。


「せーの……っ!!」


 ヒイロは空中で姿勢を整えた。

 そして、身体を反転させたヒイロは両足で、『大盾(ラシルド)』を踏んだ。


『――自分の装備を思い出せ。そのブーツは反魔コーティングされているだろ。魔術を()()できるんだ』


 ヒイロの反魔コーティングされたブーツは、正しく作用した。

大盾(ラシルド)』がまるでゴムのように大きくたわんだかと思うと、ヒイロは凄まじい速度でキャノンボアに弾き返されたのだ。

 その勢いは、キャノンボアに弾かれた時の比ではない。

 キャノンボアに、それを回避する余裕などなかった。


「おおおおおりゃあああぁぁぁっ!!」


 ゴギンッ!!


 キャノンボアの額の骨が砕ける音が、森に響き渡った。

 その一撃で、キャノンボアは白目を剥き、泡を吹いて倒れ込んだ。

 大地が揺れる。

 ヒイロも今の一撃で力尽きたのだろう、そのまま地面に落下する……直前。


「『小盾(リシルド)』」


 シルバの放った青い小さな魔力盾が、地面に叩き付けるのを阻止した。


「……あの、先輩。ここは先輩がボクを助けるために両腕とか背中で受け止める流れなんじゃないかな?」

「アホ抜かせ……そんな走るだけの余力、ある訳ないだろ」


 シルバはヒラヒラと手を振った。


「まあでもとにかく……」


 シルバが言うと、ヒイロは頷いた。

小盾(リシルド)』から降りて、骨剣を持った右腕を持ち上げる。


「ボクらの勝ち!!」


 大きな声で、ヒイロは勝利宣言をした。

ゆで理論。

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