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ヒイロとキャノンボア

 ……土煙の中から木々を踏み潰す音が続き、まるで無傷のキャノンボアがノソリと姿を現した。

 戦意に満ちた瞳が、ヒイロを凝視している。

 一瞬退きそうになったヒイロだったが、その場で踏ん張った。

 そして、骨剣を構えた。


「先輩、前言撤回。どーも、狙いはボクみたい」




「うぉいっ!?」


 ヒイロとキャノンボアが相見えようとしている、その上空。

 シルバはカナリーに掴まったまま、ヒイロに突っ込んだ。

 シルバと手を握ったまま、カナリーは唸っていた。


「……ヒイロとキャノンボアとの間に、どんな因縁があるんだろうね?」

「考察してる場合かよ!? ああでもしょうがない。……ヒイロがやる気になってるっていうんなら、相手になってもらおう。言っとくけど、死ぬなよ!?」


 頭の中で、戦術を組み立てながらシルバは叫んだ。

 そして指示を『透心(シンツ)』でそれぞれに与えていく。


『はーい。んじゃあ、キキョウさんも気をつけて』

『うむ』


 ヒイロを助太刀しようと、抜刀の構えにあったキキョウの姿が消える。

 今のままでは、ヒイロたちの戦いに巻き込まれてしまうからだ。

 代わりに、上空からシルバが着地した。


「まあ、いい加減驚いてばかりなのも飽きてきたしな。反撃といこうか」

「まったく同意だね。シルバも、無茶しないように。って言っても無駄だと思うけど」

「なるべく気をつけるけど、保証できないからな」


 戦場から遠ざかっていくカナリーを、シルバは見送った。




 キャノンボアの鼻息は荒い。

 おそらく先ほどの一撃で、こちらの陣営をまとめて弾き飛ばすつもりだったのだろう。


「さてさてさて……やっぱあれかね、昨日ボクが身内を仕留めたからかな! でも勝負は勝負。恨みっこなしだよ、あんなのは……!」


 ヒイロの褐色肌が、徐々に濃さを増していく。

 (オーガ)族に伝わる戦意向上の能力『凶化』である。

 攻撃する力は大幅にアップするが、その分防御への意識が削がれてしまうという、諸刃の刃だ。


「ブル……ルルルゥ……!」


 赤い聖光を全身にまといながら、キャノンボアが後ろ脚を何度も蹴り上げる。

 小細工なしの真っ向勝負、突進してくる気でいるのは明らかだ。

 一方、ヒイロの身体も同じく赤い聖光に包まれていた。


「おっ……さすが先輩、分かってくれてる!!」


 ヒイロは喜色を浮かべた。

『凶化』によって攻撃一辺倒になったヒイロには、本来防御力を高める『鉄壁(ウオウル)』の祝福を与えるのが、正しいのだろう。

 けれど、キャノンボアの分厚い毛皮は生半可な攻撃が通用するとも思えない。

 そもそもヒイロに防御なんて選択肢もない。

 その意思を、シルバは何も言わず汲んだのだ。

 これは、負けられないね……!

 ヒイロは牙を剥いて笑った。

 ヒイロとキャノンボアの戦意が同時に限界に達した。

 大量の土砂を巻き上げ、キャノンボアが突撃を開始した。


「ブルルラアァァァッ!!」

「来いやああああぁぁぁ!!」


 同時にヒイロも駆け出した。


「おおおおお……っ!」


 ヒイロに迫る、キャノンボアの巨大な鼻面。

 このまま激突すれば、ヒイロが吹き飛ぶのは必至だ。

 故に、残る数瞬の内に、どこかで攻撃モーションに移る必要があった……が、ヒイロはそのまま加速し続ける。


「ここっ!!」

「ブルッ!?」


 ヒイロは、目を見開くキャノンボアの鼻面のすぐ真下を潜り抜けた。

 キャノンボアはその巨体故に、隙間も大きい。

 とはいえ、鼻面と地面との間は一メルトもない。

 最も危険だったのは、この潜り抜ける瞬間であった。

 そしてその先にあるのは、キャノンボアの無防備な腹部である。


「ふうぅ……っ!」


 ヒイロは両腕の中で骨剣を引き絞った。

 そして、それを斜め前へと突き出した。


「やあっ!!」

「ブホオッ……!?」


 一瞬、キャノンボアの後ろ脚が大きく浮き上がった。

 けれど、転倒させるには至らず、キャノンボアは突進の勢いそのままに、十数メルト進み、そしてヒイロに向かって反転した。

 ……ちなみにシルバは両者が突撃を始めた時点で、とっくに脇へと避難を完了している。

 一方、ヒイロも強引な攻撃だったせいもあり、何度か地面を転がった。

 攻撃が成功したのはヒイロのはずなのに、どちらかといえばこちらの方が土だらけだ。


「ちぇっ、今ので仕留められなかったかぁ……ならもう一回だね」

「ブフゥ……!」


 ヒイロが骨剣を構え、キャノンボアも後ろ脚で地面を蹴り始める。

 そのキャノンボアを守るように、三体の大柄なバレットボアがヒイロの前に立ちはだかった。


「ブル……!」

「ブルルルル……」


 何やら揉めていた。

 群れの長は邪魔されたくないようだが、それは困るというのが手下達の意思なのだろう。


「まあ、別に一対一なんて約束はしてないけどさ……ちょっと面倒だよねぇ」


 キャノンボアとの戦いに水を差され、ヒイロも少し興を削がれてしまう。

 そこに、パァン、と大きな音が響いた。


「っ!?」


 思わずヒイロも、キャノンボア達も音の方角を見た。


「先輩!?」


 そこにいたのは両手を叩き合わせたシルバだ。

 ヒイロたちの周辺、数十メルト四方を、虹色に輝く(ライン)が囲んでいた。


「これで多分、もう援軍が来ることはないぞ、ヒイロ」


 シルバが顎をしゃくった。

 見ると、キャノンボアの援軍に来たバレットボア達が、慌てている。

 光の(ライン)を嫌っているようだ。


「まあ、()に入ってきた分はしょうがないから、倒してくれ。俺はこの結界を張るので割といっぱいいっぱいだ」

「うん、ありがと、先輩。助かる!」


 ヒイロは改めて、骨剣を構え直した。




 虹色の(ライン)の外。

 森の中を、リフが疾走していた。


「ににににに……!」


 その速度に、バレットボア達は対応できない。

 リフはバレットボアとすれ違うたびに、豆を蒔いていた。


「ブモッ……!?」


 その豆から蔓が伸び、バレットボア達の脚に絡みついていく。

 拘束するには至らないが、動きを妨げるには充分だ。

 バレットボア達は鬱陶しそうにそれを取り除こうとするも、獣の脚では難しい。

 そしてその間にタイランや狐面を装着したキキョウが距離を詰め、倒していっていた。


「リフちゃん、助かります!」

「うむ、これならば某達は攻撃に専念できるのである。それにしてもこの結界は……どうにも、心地のよいモノではないのである」


 キキョウは、虹色の(ライン)に顔をしかめた。


『僕は特に何も感じないけど、どういったモノなのかね? ……どうやらシルバには、応える余裕もなさそうだ』


 遠くから轟音が響く。

 虹色の(ライン)で囲まれた広場を挟んだ反対側、空から雷撃魔術を放っているカナリーだ。


「某は、以前聞いたことがある。ゴドー神は様々な権能を有しているが、その中でも特に豊穣神・医神としての面が強い。これはその豊穣神としての力の一つであろう」


 豆まきをするリフによって、動きを妨害されているバレットボアを仕留めながら、キキョウは答えた。


『豊穣神……? 作物に豊かな実りを与えるという奴だよね』

「左様。即ちこの結界は、獣を遠ざける結界なのである……もっと直接的に言えば『獣除け』の結界である」


 次々と、森の中に散らばるバレットボアを戦闘不能へと追い込んでいく。

 最初は驚いたが、敵方の大体の手札は見た。

 油断はできないが、機動力を削いでしまえば、最大の武器である突進も威力が激減するのだ。

 それに加えて、もう一つキキョウ達に有利な理由があった。


「にう……この結界じたいに害はない。でも、跨ぎにくい。つよい獣のなわばりに、よわい獣ちかづけない。それに似てる」


 リフも、あまり近づきたくはないようだ。


『じゃあ、バレットボア達にとっては、見えない壁があるようなモノか。そういうことなら、心置きなくヒイロは戦いに集中できそうだ。……勝てれば一番いいんだけどね』


 キキョウも、ヒイロとキャノンボアの対峙に、視線を向けた。


「それが一番であるが、そうでなくても、キャノンボアの意識を集中してくれるだけでも助かるのである。……何しろその間、周辺のバレットボア達は、支援を受けられぬのであるからなぁ」

『なるほどね、シルバがヒイロに任せた一番の理由はそれか』


 キャノンボアは例えるなら、神官戦士である。

 戦士である事を優先すれば、神官としての務めを行なうことができない。

 そこを、シルバは突いたのであった。

一日遅れになりましたが、鬼は外福は内。

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