儀式魔術
一旦『透心』の部分を()にしましたが、あまりに反対意見が多いので『』に戻しました。
ちょっと文量少なめです。
バレットボア達の猛攻は止まらない。
おまけに、支援職までいるのだ。
今はまだ、キキョウ達が耐えてくれているが、何より数が違いすぎる。
『コイツは一筋縄じゃいかなさそうだな……』
『それは、ここまでの相手の動きを見れば、大体分かるのであるが……少なくとも、まともな獣の攻め方ではないのは確かなのである。むしろ対人戦に近いのだ』
「タイラン、ヒイロ気を引き締めよ! ここから強化されたバレットボア達が来るのである! 厳しくなるのである!」
キキョウは刃を振るいながら叫んだ。
「は、はいっ!」
「らじゃりのすけ!」
「だから、お主は一体どこでそういうのを憶えてくるのだ!?」
キキョウはヒイロに突っ込んでいた。
『それにしても、どう考えてもまともじゃないね、彼らは。山の奥に知恵の実でも生い茂っているのかな』
一方、後衛。
カナリーが肩を竦めていると、リフが小さく首を振った。
「……にぃ。この土質だと多分生えない」
「冗談だよ、リフ」
シルバの傍で、そんな軽口を叩く、リフとカナリー。
さて……今シルバがやらなければならない問題は、幾つもあるが。
その中でも最たるモノは、まだシルバが感じている嫌な予感の正体だ。
キャノンボアが、聖職者クラスだとして、それは間違いなく脅威だ。
他に、まだ何か見落としているのか……?
『シ、シルバさん、残り三十数体といったところです!』
最前線に立つタイランから、『透心』を通して報告が来た。
その敵の数は、タイランの後方、つまりシルバやカナリーの視界も借りての状況把握である。
明らかに屈強なバレットボア数体が、タイランやキキョウ、ヒイロに突進し、やや小柄なバレットボアはシルバ達へと向かってきているが、リフやカナリーの従者達が凌いでくれている。
だが、それにしたって数が少なすぎる。
周辺の、十数体が動いていない。
待機状態でこちらの様子を伺っているのか……? と最初シルバは思ったが、違う。
適当に集まっているのではなく、ほぼ等間隔でこの戦場を囲んでいる……。
「カナリー!」
「シルバ、これは!」
どうやらシルバと同じくカナリーも気付いたようだ。
「に! お兄大変!」
リフの声に、シルバは絶句した。
タイラン達に突進しているバレットボア達を、緑色と青色の魔力光が包み込んだのだ。
それも、全員同時にだ。
効果は『加速』と『鉄壁』。
「ブラララァァァ……!!」
祝福を与えたのは、キャノンボアだ。
けれど、このバレットボア達に施すには、大量の魔力が必要になる。
その肩代わりをしているのが、周囲の小さなバレットボア達なのだろう。
「じ、『陣形』による魔術効果だって……!? いわゆる儀式魔術じゃないか!」
カナリーが額を押さえた。
「……つまり、周りにいるのは魔術師か」
まあ、斥候に戦士職、聖職者がいるのなら魔術師だっているよな、とシルバは思った。
感心している場合ではない。
ここまで後手に回りすぎている。
なので、シルバは考えた。
……キャノンボアは、味方の防御を整えた。
なら、次に打つ手は何か。
自分ならどうする?
……シルバは考え、『透心』を通して全員に指示を送った。
「ブモオオオオオオオオオオオ!!」
それとほぼ同時に、これまでとは比べモノにならないキャノンボアの雄叫びが上がった。
思わずシルバの身体が強張ってしまいそうな、迫力だ。
轟、と大地が揺れ、わずかに地面を宙に浮かせた超巨大な大猪が突撃を開始した。
『まあ、そう来るよな!』
シルバの予想通り、ここで自分達の中での最強最大の攻撃力の投入だ。
シルバ側なら、『豪拳』で強化したヒイロの物理攻撃か、カナリーの『雷閃』を使っていただろう。
巨大猪の突撃である。
こんなモノ、いくらタイランでも受け止められないし、盾職が吹き飛ばされれば後ろのヒイロやキキョウもただでは済まない。
食らえば、である。
「に、ににに、逃げます……!!」
「うわああああっ!? あ、危なななな危なーーーーーっ!?」
「ヒイロ掴まるのだ!」
シルバの指示が間に合い、いち早くタイラン達も回避に動いていた。
巻き込まれて困るのは、バレットボア達だって一緒だ。
タイラン達を妨げる敵は、真正面から迫る大質量以外には存在しなかった。
タイランは甲冑の背中やふくらはぎ、足の裏の部品に切れ込みが生じ、そこから大量の風が噴き出した。
とても重装兵とは思えない速度で、左へとスライドする。
ただ、制御がまだ不慣れだったせいか途中から、転がり吹っ飛ぶような避難になってしまっていた。
一方ヒイロは、キキョウが腕に抱え、右へと逃れることに成功していた。
そうなると、残るは後衛のシルバ達だったが、リフはカナリーの従者二人と共に、普通にタイランと同じ方向に避難を完了していた。
「シルバ」
「悪い、カナリー! 『飛翔』!」
さすがにカナリーも、人一人を抱えて飛ぶとなるときつい。
シルバは自身に宙に浮く魔術を施し、その上でカナリーに空へと引っ張り上げてもらった。
直後、唸りと突風を撒き散らしながら、キャノンボアがシルバの足下を通り抜けていく。
森の木々を押し倒しながら、遠くで地響きが鳴った。
「……さすがにヒイロでも力試しする気にはなれないよなあ、あれ」
シルバが呟くと、ヒイロから『透心』が飛んできた。
『いくら何でも死んじゃうよ!? ほとんど飛ぶような突進だったんだよアレ!?』




