キャノンボアの正体
「ゆくぞ皆!!」
キキョウの凜とした掛け声が響き、幾つもの足音と武器を振るう音、まだ戦意の衰えていないバレットボア達の怒号が入り交じり、シルバの頭上をカナリーの雷が迸っていく。
シルバも負けてはいられない。
「キキョウとリフは周囲を警戒! 追撃の可能性があるぞ!」
『カナリー、ヴァーミィとセルシアで後ろの見張りを頼む!』
シルバは起き上がりながら、声と『透心』を同時に使い、指示を送った。
残っているバレットボアが一頭だけだが、まだ戦うつもりのようだ。
が、これはヒイロとタイランで充分だ。
休む間もなく、次から次へとバレットボアが襲いかかってくる。
だが、とシルバは思う。
それでも、相手の戦力は本来よりも減っているのだ。
戦いの中には、縄が巻き付いていたり矢が刺さって動きを鈍らせているバレットボアも混ざっていた。
ヒイロやリフが仕掛けた罠に引っかかった猪がいるのだ。
ということは、罠はしっかり作動している。
何割かは、それで足止めを食らっているとみていいだろう。
それにしても……。
「一体、どれだけいるんだよこの猪共は!」
思わずシルバは叫んでいた。
波のように押し寄せてくる猪達を迎撃している内に、シルバ達のパーティーはいつしか開けた場所に出ていた。
相当に広い。
まるで闘技場のようだな、とシルバは天然の円形広場を眺めて思った。
「に……」
シルバの傍らで、リフが緊張した。
見ると、その髪の毛や尻尾が逆立っていた。
「リフ?」
「来るよ本命!」
不意に、シルバ達を巨大な影が包み込んだ。
生存本能が、考えるより早くシルバ達の身体を動かしていた。
「うわあっ!?」
影から逃れるように、シルバ達は跳躍した。
直後、これまでのバレットボアとは比べモノにならない大きさの大猪が、シルバ達がついさっきまでいた位置に落下してきた。
大きく揺れる地面、巻き起こる土煙。
尻餅をつくシルバ達どころか、何体かのバレットボアもひっくり返っていた。
のそり、と緩慢な動きで起き上がり、相手はシルバ達をにらみつける。
見上げなければ全身の見えないその巨体は、リフの父親フィリオほどもあろうか。
そして彼の周囲に、バレットボア達が集まる。
バレットボア一体も、相当な大きさなのだが、それでも中央のボスと比較すると小柄に見えてしまうのが不思議だ。
キャノンボアの登場であった。
ひとまず、シルバ達はキャノンボア達とジリジリと距離を取った。
このまま乱戦になると、シルバ達後衛が危険だからだ。
この辺はいつもの戦闘と変わらない。
幸い、大猪達も動く様子がないので、数十メルトの間合いを取るのは容易だった。
「……んぅ?」
そのキャノンボアを見上げていたヒイロが眉をひそめているのに、シルバは気付いた。
「どうした、ヒイロ?」
「や……何か……いや、いいや。難しいこと考えるのは後回し! まずはやっつけちゃおう!」
少し悩んでいた風なヒイロだったが、首を振った。
「だな……!」
シルバもそれには同意し、ほぼ同時に周囲のバレットボア達も動き始めた。
戦いが始まりそちらに集中しながらも、シルバの頭の片隅には、嫌な予感が警鐘を鳴らしていた。
「ブモッ!!」「ブモッ!!」「ブモッ!!」
バレットボア達が身を寄せ合い、その背中にもバレットボアが乗る。
数段重なった擬似的な斜面をバレットボアの一体が駆け上がり、宙に浮いて雷撃魔術を放っていたカナリーへと跳びかかった。
「うぇっ!?」
「『大盾』!! カナリー、空中だから安全だと思うな! コイツらまともじゃないぞ!」
今更だけどな、とシルバは内心でバレットボア達を罵った。
「すまない! ヴァーミィ、セルシア守りを固めろ! 地上で迎え撃つ!」
「にぅ! リフもいっしょ」
「そうしてくれると助かるねえ!」
カナリーの周囲に、従者である赤いドレスの美女ヴァーミィと、青いドレスの美女セルシア、それにリフとシルバも集まる。
後ろの森からもバレットボアは現れるが、さすがにその数は減っていた。
従者達やリフで充分に対応が可能だろう。
けれど、シルバの中で嫌な予感がまだ続いている。
原因はもう、分かっている。
姿を現したというのに、未だに動こうとしないキャノンボアの不気味な存在感だ。
時折、鈍い声を上げながら、じっとこちらを見つめている。
何を考えているのか、サッパリ分からない。
周囲の手下を動かし、自分は……。
そこで、シルバは気付いた。
「まさか、俺達、観察されてるのか……?」
斥候に、威力偵察、さらに直に自分の目でこちらの戦力を確認って、どれだけ用心深いんだよ……。
シルバは前衛を確認した。
キキョウには、バレットボアの中でも大柄な数体が襲い掛かっていた。キキョウの攻撃は手数の多さが長所であり、その一方で一撃の威力ではヒイロに一歩譲る。
既にシルバはキキョウへ、攻撃力を高める『豪拳』の祝福を与えている。それでも倒れないのだから、相当に相手をしているバレットボア達はタフなのだろう。
「もー、コイツら厄介っ!」
ヒイロには逆に小柄なバレットボアが何体も、飛び掛かっていた。ヒイロの攻撃力は『アンノウン』でも随一だが、巨大な骨剣の一撃はほとんどが単発だ。小柄なバレットボア達は機動力に優れ、ヒイロの攻撃は中々当たらない。ヒイロは拳や蹴りも駆使するが、バレットボアの分厚い毛皮はその衝撃を緩和してしまう。
弱ったバレットボアは後ろで休み、その間に別のバレットボアがやはり複数でヒイロを襲う。単独では絶対に動かない。
そしてタイランは、標準サイズのバレットボア達によって、足止めされている。盾としての役割は果たしてくれているが、他のフォローをする余裕がないのは明らかだ。
シルバはカナリーに『透心』を飛ばした。
『カナリー、埒があかない。デカいのが一つ必要だ。狙いは――』
『キキョウが相手をしているデカいの、だね。的も大きくてやりやすい!』
さすが、分かってらっしゃる。
シルバは笑いながら、印を切った。
「――『豪拳』!!」
「『雷雨』!!」
赤みを帯びた雷雲が一瞬空に浮かんだかと思えば、直後無数の雷がキキョウの相手をしているバレットボア達に降り注いだ。
「ブモオッ!!」
それまでほとんど動いていなかったキャノンボアが、突然吠えた。
同時にバレットボア達の身体が、青い光に包まれる。
降ってきた雷がバレットボアの身体を貫いたが、何割かは弾かれていた。
「ブルルアァァァ!? ……ォ……ブモッ……?」
「ブオオオオ!」
戸惑うバレットボアに、キャノンボアが吠える。
慌ててバレットボア達は、キキョウへの攻撃を再開した。
「ぬうう、これはまさか……!」
キキョウが唸る。
もちろん、シルバとカナリーも気付いていた。
シルバがずっと感じていた、嫌な予感の正体も、やっと分かった。
「今のを見たかい、シルバ! 今のあれは……『鉄壁』だ!」
「見たよ! そうか、そういうことかよ! でも、そんなのありかよ!」
最早、隠すことをやめたのだろう。
何体かのバレットボアの身体が、赤く輝きだした。
念には念を押すやり口、後ろに控えて支援に徹するスタンス……誰かに似ているような気がしたのだ。
「『豪拳』……あのキャノンボア、俺と同じ、聖職者かよ……!」
バレットボア達の信仰する神って、やっぱり猪神とかなのかね……と、シルバは引きつった顔で、考えるのだった。
明日と明後日の更新はお休みさせていただきます。
『生活魔術師達~』の方の書籍化作業の方は終わったのですが、まだちょっと言えない色々(お察しください)がありまして、そちらに専念したいと思います。
えらいところでお待たせさせてしまうことになりますが、よろしくお願いします。




