部屋割りの話し合い
「そして残る問題は一つ」
メンバーの間に、小さく緊張が走った。
「……うむ」
「……そうだね」
「で、部屋割りだ」
テーブルに広げられた用紙には、二人部屋が三つ、書かれていた。
つまり、誰と誰が一緒になるか。
とても、重要な事だった。
全員の荷物こそ適当に部屋に置いてはきたものの、これはまだ決まっていなかった。
理由は単純、全員が何だか長引きそうだ、と感じたからである。
「あ、あのー……それなんですけど」
大きな手を挙げたのは、タイランだ。
おや、とシルバは思った。
「珍しいな。タイランが一番の意見なんて」
「あ、は、はい。私は……ヒイロと一緒でいいです。付き合い長いですし……」
遠慮がちにいうタイランに、あっさりとヒイロは賛意を示した。
「あ、そだね! じゃ、ボクはタイランと相部屋でー!」
「……まあ、妥当なところであるのだ」
キキョウが軽く息をつく。
「に」
次に手を挙げたのは、リフだった。
「はい、リフ」
「リフはお兄といっしょがいい」
「ぬぅっ!?」
「こ、これはストレートな……!?」
リフの発言に、キキョウの尻尾が逆立ち、カナリーの尖った耳が激しく上下した。
「で、でもリフ。さすがにそれはどうかと思うんだ。もし何らかの間違いが起こったら、君のお父上が都市を丸ごと一つ焼きかねない」
「にぅ……」
カナリーの忠告に、シルバも思い出す。
この旅行の前、保護者としてリフに同行すると強硬に主張していた、父親フィリオであった。
学習院の講義がなければ、絶対に参加していただろう。
シルバが思いにふけっている間にも、リフはキキョウとカナリーを交互に見ていた。
「でもこのままだと、お兄より二人がこまる」
「ぬ……!?」
「……」
動揺するキキョウに対し、カナリーはしばし考え。
「……なるほど、心遣い痛み入るよ、リフ。君はいい子だ」
頷き、リフの頭を撫でた。
「にぃ……」
カナリーは考える。
三人の誰もが、シルバと同じ部屋になる可能性があった。
しかし、カナリーは自分が女性である事を、シルバに知られている。
淑女としてそうした事態は避けたいところであった。
かといってキキョウ。
こちらもカナリーには察しがついているが、やはりシルバと同室では困る事情が存在する。
何がややこしいといって、キキョウの場合は同室になって喜ぶのはいいが、その直後にうろたえてしまうのが容易に想像がついてしまうのだ。
絶対、ややこしいことになる。
だから、シルバに妹分として見られているという自覚のある、リフが立候補したのだろう。
カナリーはリフの行動をそう察した。
……それは、いち早く一歩引いたタイランも、似たようなモノだ。
タイランの場合は、タイラン自身のためではなく、ヒイロのためといってもいい。
シルバと同室にするとまずい事情に、おそらくタイランも気付いているのだろう。
まったく興味深いな、とカナリーは思う。
「ただ、問題が一つあるね。リフ、君のお父上がシルバと同室にしてはならないと、釘を刺していた件だ」
「に。リフが説得する。問題ない」
「……まあ、おっかないけど、俺も説明はするよ。さすがにリフ一人にそんな真似、させられないだろ。部屋は三つあって、最終的にこうなったって話す。さすがに、いきなり噛み殺されることはないだろ」
「噛み殺されないと、いいねえ」
「ちょ、マジやめてくれるかカナリー!?」
クックックと笑いながら、カナリーはキキョウを見た。
「まあ、そういう訳でよろしく頼むよ、キキョウ。相部屋とはいえ、僕はプライベートな空間を尊重する主義だ。なるべく君の行動を妨げるような真似はしないつもりだし、安心していいと思う。何なら間に仕切りを用意してもいい」
「む、むぅ……」
案の定、尻尾を弱々しく振っているキキョウに、カナリーは手を差し出した。
「……いや、うむ。カナリー、こちらこそよろしく頼む」
その手をキキョウは握り返し、それからへにゃりと尻尾を垂らした。
「……残念やら、ホッとするやら、微妙な気分だ」
割り振った自分達の部屋に荷物を置くと、シルバは宿常備の軽い布の服に着替えた。
前でボタンを留めるタイプの簡単な服装だ。
「という訳で風呂だ」
「に!」
そしてリフは、真っ白い仔虎の姿になっていた。
会話自体は『透心』で行えるので、直接リフが宿の主人と話すことでもない限りは支障はない。
この宿は、小さい使い魔なら持ち込みは可能ということなので、あとで宿の主人であるメナに今のリフを見せれば問題は無いだろう。
「うん、そっちの姿だと俺も助かるぞ、リフ」
……さすがに、シルバとしても小さな女の子と一緒に風呂に入る訳にはいかない。
『に。リフは元々こっちがホントの姿』
尻尾を軽く揺らしながら、リフにも不満はなさそうだ。
「使い魔入浴可の温泉が多いのは助かったな。そうじゃなかったらちょっと厄介だった」
「にぃ」
シルバは自分のベッドの上に胡坐をかくと、エトビ村の地図を広げた。
リフもそのベッドに飛び乗る。
もちろんそれは、翌日に控えるモンスター退治のため……ではなく。
「……結構温泉多いな」
『に……全部はむずかしい』
温泉巡りのためだが、一人と一匹の表情は真剣だった。
「しかし、洞窟温泉は外せない、と」
『に。山の中だから、いい霊力あるはず』
「けどちょっと距離あるし、これは回復も兼ねて明日の仕事が終わってからだな。とりあえず今日の所はこの宿の露天風呂にしとこう」
「に」
リフも異存はないらしく、二人は露天風呂に向かう事にした。
脱衣所で服を脱ぎ、シルバは腰にタオルを巻いた。
脱衣所には人気が全くない。
「……やっぱり、ちょっと人が少ないな。元々が隠れ里ってのと、あとは例の猪連中が原因か」
「にぃ……」
頭の上で、リフも鳴く。
「ポジティブに考えると、貸し切り状態だが」
『に。およぎほうだい』
「それはマナー違反」
などと言い合いながら、シルバ達は露天風呂に踏み込んだ。
「うお、でけー」
『にぃ、でけー』
やや日の傾きつつある露天風呂。
うっすらと白い湯煙の立つそこは、左右の仕切りを見た限りでは大きなホールほどの広さだろうか。
しかし、正面は。
「……湯煙で遠くが見えない」
ジーッとシルバは目をこらしてみたが、やっぱり無理だった。
どれだけ広いのか、ちょっと見当もつかなかった。
『に。探検』
シルバの頭の上で、リフがきりりと言う。
「……ポジティブだな、リフ」
『ちがう。あくてぃぶ』
「……地形効果・温泉か。ま、いいや。とりあえずは身体洗ってから、奥の探索と行こう」
「にぃ」
シルバ達は、洗い場に向かった。




