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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
人造人間を追って
111/215

分断

「――ともあれ、助かったのであるシルバ殿」


 キキョウは袖から取り出した狐面を、顔に嵌めた。

 ふわふわの尾が二本に増え、高ぶっていた戦意が、静かで鋭いモノへと研ぎ澄まされていく。

 距離の開いたキキョウとロンであったが、ほぼ同時に互いへと駆け出していた。


「ロン君、その人絶対倒して! そのお面、すごく高いよ!」

「……やれるだけのことはするつもりだが……っな!」


 妖狐の刀と狼男(ライカンスロープ)の爪が、ぶつかり合う。




 ノワが、キキョウの狐面に気を取られた隙を、シルバは見逃さなかった。

 前衛の大鬼ヤコフと鬼女イブキと相対しているのは、ヴィクター。

 厄介なのは一歩退いた位置にいて、仲間の支援を行っている半吸血鬼(ダンピール)のクロス・フェリーであるが、逆にいえば彼さえどうにかすれば、ヴィクターを捕らえられるかもしれない。


「アクミカベ、チャンスだ」

「みたいだな。おい、アイツ賞金は出てなかったが、大丈夫なんだろうな」


 アクミカベの問いに、シルバは自分を親指で指した。


「ゴドー教会の司祭。上司は司教」


 冒険者ギルドでも、ヴィクターのことはまだ詳しくは出ていない。

 けれど、学習院(アカデミー)で分かったことを伝えれば、高い賞金が掛けられるだろう。

 もしそれより前に捕らえてしまい、支払いで揉めるというのなら教会で持つ、というのがシルバの答えだった。

 もちろんその辺りの責任はシルバではなく、上司のストア・カプリスの判断になるのだが、普通に請け負ってくれるだろうと、シルバはストアを信頼していた。


「よーし、頼むぜ。ヤコフ、イブキ、やれ!」

「お、おおおぅ!」


 前衛の二人の(オーガ)族の身体が、禍々しいオーラを放つ黒いモノへと変色していく。

 そして熱気にも似た戦闘本能の高ぶりは、シルバの肌にも伝わってきていた。

 (オーガ)族に伝わる種族特性、理性と引き換えに戦闘力を高める『凶化』である。



「やっぱり凶化(アレ)使えるんだな」

(オーガ)族の冒険者なら、普通に必要だからな。テメエもしっかりアレを牽制しろよ!」


 二人の(オーガ)族戦士と共に、アクミカベもヴィクターに集中するつもりだ。

 そうなると彼のいうアレ、すなわち指揮官でもあるクロス・フェリーの相手はシルバが行うことになる。


「そりゃ、もちろん」


 シルバは空に向けて、左手に嵌めた鱗の籠手をかざした。

 そして、水の飛沫をクロスに向けて放った。

 細かい水の粒が、場違いな虹を生み出していた。


「チッ……! 小賢しい技を使いますね……!」


 クロスはマントで己の身を守りながら、水を浴びないように後ろへと下がった。

 クロスが立っていた場所に降り注いだ水は、ただの水ではない。

 聖水だ。

 吸血鬼にとっては汚水に近い。

 生理的に受け付けないのだ。

 何にしても、ヴィクターとクロスの距離は開いてしまった。


「今だ、捕らえろ!」


 アクミカベが叫び、風の魔術を放った。


「う、お……!?」


 ヴィクターの身体に風が巻き付き、その動きを拘束する。


「これでも、食らえ……っ!!」


 凶化で強まった大鬼ヤコフの巨大な骨剣が、ヴィクターの脳天に叩き付けられた。


「が……っ!!」


 これにはたまらず、ヴィクターも声を上げた。


「こっちもいくよぉ……!!」


 首、肘、手首、胸、腰、膝、足首と踊るような動きで、鬼女イブキの二つの刃が斬り付けた。


「あだだだだ……」

「ヴィクターしっかり! 少しだけ、我慢して!」

「おう、おれ、がんばる」


 一瞬揺らいだヴィクターだったが、ノワの声に応えて青い光が包み込む。

 ヴィクター自身の使う、回復術だ。


「これでも倒れないなんて、マジ……!?」


 イブキは悔しげに、顔をゆがませた。

 さっきの攻撃は、会心の一撃だと思ったのだ。

 大抵の相手は、その場で倒れ伏していただろう。

 その横で、ヤコフが太い縄を用意していた。


「イブキ、手、貸せ……!!」

「しょうがないねえ!!」


 ヤコフの投げつけてきた縄の端を受け取り、イブキはヴィクターの側面に回り込んだ。

 そのまま二人掛かりで、あっという間にヴィクターの身体に縄を巻き付けた。


「おおお、ふといこれ、つよい……」


 ヴィクターは何とかそれを引きちぎろうとするが、両腕を身体と共に縄で縛られてはそれも難しそうだ。


「ドラゴン捕縛用の縄だよ! そう容易く千切れたりするもんかい!」


 イブキが笑う。

 しかし、内心はそれほど余裕はない。

 ヴィクターの力は、凶化した鬼二人の力でやっと、何とか制しているという状態なのだ。


「ぬううううぅ……!」

「よし、今眠らせる!」


 アクミカベが、眠りの魔術を練り始めた。




 一方、目にもとまらぬ動きと共に鋭い連撃を加えてくるロンに、後ろからノワが加勢をしようとしていた。


「一対二であるか。だが、そう容易く倒せるとは思わないことであるな」


 狼男(ライカンスロープ)の攻撃は確かに速い。

 けれど、ここにノワが加われば逆に、その身体が妨げになり、むしろキキョウとしては楽になるという読みであった。

 ただ……シルバから『透心(シンツ)』で伝えられたもう一つの可能性もあり、キキョウは決して油断はしなかった。


「ふふん、それはどうかなっ! ロン君、お願いね!」

「……ああ」


 キキョウの思惑に反し、ノワは攻撃に参加してこなかった。

 代わりに腰の道具袋から取り出した、丸い球を投げつけてきた。

 キキョウに届く前に、その球は破裂し、濛々とした煙が周囲に広がった。


「っ、煙幕……!? ()()()()()()()()()……!」


 煙に紛れて、ロンの手がキキョウの顔に迫る。

 それをキキョウは刀を垂直に立てて、受け止めた。


「コイツ……!?」


 目を瞑ったロンが、慌てて距離を取った。

 ロンはノワが何をするか分かっていたので、事前に目を瞑っていた。

 狼男(ライカンスロープ)の持つ鋭い嗅覚で相手の位置を探り、攻撃をする。

 コンビネーションとしては、完璧だったはずだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……お主と同じことを、某ができぬと思ったか?」


 目を瞑ったまま、キキョウが刀を振るった。




 シルバはもう一度、鱗の籠手から聖水を引き出し、空へと放った。

 量としてはさほどではないが、霧雨のような水滴がクロスへと降り注いでいく。

 倒すには至らない。

 そもそもシルバのそれは、相手を傷つけることができない。

 けれど、(オーガ)族の時間稼ぎと嫌がらせとしては、充分だ。


「んじゃ、そっちはよろしく頼む」


 シルバは煙の中へと駆け出した。


「おい、お前が前に出るのかよ!?」


 後ろから、眠りの魔術を唱え終えたアクミカベの、慌てたような声が掛けられる。


「ああ、このままだと、キキョウがヤバいからな」


 今はキキョウが有利のようだが、何だかんだで一対二、というのは危険だ。

 シルバは煙幕の中、キキョウの元へと急いだ。


今回で決着をつけようと思いましたが、間に合いませんでした。

すみません。

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