なりゆき共闘戦
「ひどい! シルバ君、そんなにノワ達を陥れたいんだ!」
「陥れるも何も自業自得っつーんだよ、これは! 真っ当な入手方法なら、追われる訳ねーじゃねーか!? 自分たちが何やったか分かってんのか!?」
「あんなの、お宝を手に入れるのは早い者勝ちじゃない!」
ノワの断言に、ロンも同意した。
「……あれに関しては、隙だらけの連中が悪いと俺も思う」
「そういう正当性を、俺の前で話してもしょうがないだろ。然るべき場所に訴えてくれ。とにかく伝えるだけ伝えたからな」
「ちょっと待ってください、シルバ君とやら」
手紙に目を落としていたクロスが、顔を起こさないまま言った。
「何だよ」
「ここの一文だけ、抹消されているのはどうしてですか?」
クロスは、解読された古代文書の一点を指差していた。
シルバにも、それがどこのことかは見当がついている。
「……そんなに、人造人間を暴走させたいのか? 戦闘モードのキーワードなんて知った所で、何一つ益にはならないだろうが」
「確かにその通りですね」
「……」
あまりにあっさり引き下がるクロスに、シルバは逆に不安を覚えた。
「何ですか?」
特に敵意も見せない、紳士的な笑顔を向けるクロス。
だからこそ、むしろシルバは警戒した。
「……まさか、そこんトコは手がかり持ってるとか、ないよな?」
「ハハハ、まさか」
「それからついでだ。俺の方からも一つ。クロス・フェリーとかいったな、半吸血鬼」
「そうですが、何か」
「女冒険者達の失踪に関わってる疑いで、ホルスティン家が召喚状を用意してる。下手に逃げるより、ネグラで大人しくしておいた方がいい」
「そうですか。誰が使者になるか、分かりますか?」
「心当たりはあるけど、教えない。アンタ、何か性格悪そうだし闇討ちされたら敵わない」
「フフフ、それはお互い様でしょう」
クロスは銀縁眼鏡をクイと直した。
「とにかく急ぎ、ヴィクターの身体を調べる必要がありますね……彼らを排除してからですが」
やっぱり、そうなるよなあ、とシルバは内心で嘆息した。
「まあ、シルバ君達と一緒に行くってのは普通にないよねー……クロス君的にも」
「はい。罠にしては手が込みすぎていますからね。……ですが、今すぐヴィクターが暴走するという話でもない」
「……もしそうなら、とっくに俺達は死んでいる」
「そういうことです」
ロンの呟きに、クロスは頷き返した。
「悪いねっ、シルバ君☆ ……ところで、その籠手と眼鏡、結構いい感じだったりする?」
ノワは、斧を構え直した。
完全に、やる気だ。
「……結局、やることになるのかよ」
シルバは深く嘆息した。
会って伝えるべきことを伝えたら、さっさと逃げるつもりだったが、現実はそうもいかないようだ。
シルバの横に、小柄な鬼の魔術師アクミカベが並んだ。
「おい、司祭。話聞いた感じ、手ぇ組めそうじゃないか。賞金をもらえるなら手伝ってやってもいいぜ」
シルバとしても願ってもないことだった。
戦いが避けられないのなら、敵は少なく味方は多い方がいい。
「是非頼む。賞金なら全額やる」
シルバの言葉に、アクミカベはヒューと口笛を吹いた。
「マジかよ。よっぽどアイツに恨みでもあるんだな」
「逆だ。可能な限り、関わりたくないんだよ。とにかく話聞いてたら分かると思うけど、最優先はあの一番デカいのの確保だが……」
「ま、全部倒しちまえば、一緒だな。ま、冒険者らしく、口じゃなく腕で示そうや。行くぜ野郎ども!」
こうして、朽ちた酒場前の戦いが始まった。
シルバは互いの戦力を数えた。
こちらは前衛にキキョウ、鬼族の男女戦士。
後衛にシルバとアクミカベという小柄な鬼の魔術師。
バランスは、悪くない。
一方ノワ陣営は前衛がヴィクター、ロン、ノワ。
後衛にクロス。
これもまた、それなりにバランスが取れている。
遺跡に残っていた資料では、ヴィクターは回復能力もあるというのだから、性質が悪い。
と、そこまで考えたところで、身体に不可視の何かがまとわりついてきているのをシルバは感じた。
例えるなら蜘蛛の糸だ。
これは……。
シルバは不快感の正体を悟り、勢いよく両手を叩いた。
パァンと澄んだ音が、周囲に響き渡り、皆がハッと目を見開いた。
聖職者として叩き込まれる技術の一つ、『浄音』である。
本来は周囲の魔や呪詛を祓う音を放つ技だが、昏睡や混乱といった状態異常にも通用する。
「全員、しっかり気を持て。『鑑定』されてるぞ!」
「もー! シルバ君邪魔しないで……きゃあっ!」
身体を狙って飛んできた短刀を、ノワは横に転んで回避した。
放ったキキョウは既に動き始めていた。
「シルバ殿、指示を頼むのだ!」
「ああ! キキョウ、誰を相手すればいいか分かるな!?」
「無論、承知しているのだ……!」
ノワを守ろうと太い腕を振るおうとするヴィクターをスルーし、キキョウは斜めに駆け抜けた。
鞘から抜いた刀を振り抜いた相手は――黒ずくめの男、ロン・タルボルトだ。
キキョウの刃を、ロンは腕に嵌めた黒い籠手で受け止めていた。
「……お前が、俺の相手か」
「見れば分かる。お主がおそらく、一味の中で一番速い」
一呼吸で複数の斬撃を放つキキョウに対し、その攻撃をすべて両腕で捌くロン。
どちらも尋常な技術ではない。
キキョウにロンを任せたシルバは、次に鬼族の前衛に指示を送った。
「デカいの、正面の人造人間の相手をまともにできるのはアンタしかいない。頼むぞ!」
「おう」
一本角の大鬼が、巨大な骨剣を構えてヴィクターへと突進していった。
ヒイロの上位互換みたいだな、とシルバは思った。
すばしっこさならヒイロの方が上だろうが、総合的な戦闘力ならおそらくこの大鬼の方が高い。
ここにいる五人の中で、一番ヴィクターと相性がいいのは間違いなく、彼だろう。
ロン、ヴィクターと来れば、残るはノワだ。
……となれば、その相手になるのはこちらも二刀流の鬼の女戦士だろう。
「確かイブキって言ったか? ノワを押さえてくれ。ただし、後ろの魔術師がまた魅了を使うから気をつけて。できるだけ俺もサポートする」
「え、わ、分かった」
戸惑った様子を見せながらも、鬼女のイブキはノワへと向かっていく。
「ちょ、おい、勝手にウチの連中に指示を送るんじゃねえよ!?」
勝手な指示を送るシルバに、アクミカベが怒るのは当然だ。
そんなことは分かっていた……が、戦闘の主導権を握るには、どうしても先手を打つ必要があったのだ。
だから真っ先にキキョウが動き、その指示をシルバに仰いだのである。
「悪かった。確かに指揮系統は一本化しておかないと、仲間が混乱する。でもアクミカベ、アイツらのことどれだけ知ってるんだ?」
アクミカベは反論しようと口を開いたが、すぐに悔しそうに額を自分の手で叩いた。
どっちが指示を送った方が適切か、アクミカベも理解したらしい。
「っしょうがねえな! 腑抜けた指示送るんじゃねえぞ!」
「さすが魔術師、感情よりも合理性を重んじるから、話が早くて助かる。大きいのの名前は?」
「ヤコフだ」
「じゃあ、クロスの牽制をメインで頼む。アイツは厄介だぞ。雷に乗せた精神異常系の魔術が得意だから、鬼族との相性は最悪だ」
「そりゃ三人犠牲にして、知ってるさ」
アクミカベは風の魔術を唱え始めた。
狙いはもちろん、一番遠くにいる半吸血鬼、クロス・フェリーだ。
一方シルバも、聖句を唱え終えていた。
「ヤコフ、思いっきりいけ――『豪拳』!!」
シルバは指を鳴らすと、ヴィクターに向かって骨剣を振るっている大鬼ヤコフの身体が、赤いオーラに包まれた。




