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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
人造人間を追って
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交渉は噛み合わない

 そしてシルバは、学習院(アカデミー)でのブルース先生の話を、彼らに伝えた。



「――という訳なんだ」


 すべてを話し終えると、全員が静まり返った。

 幸いな事に、(オーガ)族の冒険者パーティーは大人しく、シルバの話を聞いてくれていた。

 下手をすれば爆発するような存在が目の前にいる、と聞けば、さすがに戦闘を中断するぐらいの判断はできるようだ。

 いや、その間に気絶した仲間を回収し、クロスに魅了された女戦士を正気に戻している。

 中々に強かだ。

 そしてノワ達はというと。


「罠だね」

「罠ですね」

「罠だ」

「……はんだんふのう」

「お前らを罠に掛ける理由なんて、どこにもねーだろが!? こっちはホント、お前らなんかに関わりたくないんだよ!? 知っちゃったから伝えに来ただけだ!」


 予想通りだったとはいえ、突っ込まざるを得ないシルバであった。

 言ってから、そういえば一応罠に掛ける理由はあるにはあったな、とクロス・フェリーを見て思い出したが、ほぼまったくの別案件だったので、とりあえず置いておくことにした。


「どうしてシルバ君がそんなことするの? ノワ達のことなんて、放っておけばいいじゃない」


 憮然としてたノワが、ハッと何かに気がついたらしい。


「あっ……も、もしかして、シルバ君、ノワの事!?」


 何やらすごい勘違いを始めたようだ。

 ちなみに放っておけばいいじゃないって辺りは、シルバ的には割と賛成だった。


「ダ、ダメだよー? 気持ちは嬉しいけど……敵同士だし」


 赤らんだ頬に両手を当て、ノワは恥ずかしそうに首を振った。

 上目遣いの笑顔は、例えそれが演技だとしても、何にも知らない並の男ならコロッといきそうなほど可憐なモノだった。


「シ、シルバ殿!?」


 そして、ぶわっと尻尾の毛を立てて焦るキキョウ。

 シルバは、おそろしく長い溜め息をついた。


「キキョウも落ち着け。……ノワ、言っとくけど、ホントそういうのじゃ全然ないから。常識で考えてありえねーから。これは別に親切でも何でもなくて、単に街中で大爆発起こったりして死人が出たら寝覚めが悪いからに過ぎない。知っちまったからには、伝えとく必要があった。ただ、それだけだ」


 頭痛を堪えながら、シルバはノワを見据えた。


「その笑顔が、どんな男にでも通じると思うなよ」

「……! ま、まさかシルバ君……男の方が」


 ショックを受けたようなノワの視線が、シルバの隣のキキョウに向けられる。


「違うわっ! どうしてそう、いちいち俺の想像の斜め上をいくんだテメエ!?」




 ……ちなみに後日、シルバがこの話を酒場でカートンに話してみたところ、


「でもお前、それに関しちゃ自分トコのパーティー顧みてみろよ。ノワちゃんじゃなくても、誤解受ける要素充分すぎるぜ?」


 とオムライスをもしゃもしゃ食べながら、言われたという。





 閑話休題。


「理由は単純だ。世界は広くてノワよりずっといい女が存在する。んで俺はそれを知ってるっつーだけの話だ」

「だ、誰の事!?」

「教えると迷惑掛かる……か? いや、姉ちゃんいるしそれはないか。どっちにしろ遠いしノワとは一生縁のない相手だから、その点は安心しろ。あとキキョウ、何か怖いんですけど」

「……某には、後で教えるように」

「お、おおう……了解」


 予想外からの敵意に、ちょっとシルバは動揺した。


「あと、お前らが俺の話を信じないのは想定済みなんでね。そこのインテリ眼鏡」

「うん? まさかそれは、僕のことかね?」


 不愉快そうに眉根を寄せるクロスに、シルバは懐から取り出した手紙を投げた。

 飛来したそれを、クロスは二本の指で受け止めた。

 シルバは内心、ホッとした。

 投げつけてから、雷撃の術で迎撃されたらどうしよう、とちょっとヒヤッとしたのだ。

 ともあれ、無事に手紙が渡ったので、それを説明することにした。


「さっきの俺の言葉の裏付けだ。学習院(アカデミー)のブルース先生に、例の遺跡の文字を翻訳してもらったモノだ。そこに全部書いてある」

「クロス君?」


 ノワに肩を竦めてみせてから、クロスは手紙をひっくり返した。


「……なるほど、この封蝋は紛れもなく学習院(アカデミー)のモノ。本物のようですね」

「悪いが、内容が内容だからな。冒険者ギルドの方にも既にこの件は通達済みだ。その人造人間を連れ回すのは、やめとけ」

「そんなのひどいよ!」


 突然、ノワが叫んだ。


「あ?」


 目を瞬かせるシルバに、ノワはさらに言葉を重ねる。


「せっかく起きたこの子を、また眠らせるって事でしょ!? そんなの残酷すぎるよ! シルバ君はそれでも、人の心を持ってるの!?」

「……そうですね。ええ、確かに、シルバ氏の言葉には一理あると思います。しかし、ノワさんの言う通り、人の情けというモノに欠けますね」

「……非情」

「ヴィクターもやだよね!?」

「おれ、のわさまにしたがう」

「ほら、みんなこう言ってるよ!」


 シルバはチラッと振り返った。

 キキョウは諦めた顔で、首を振っていた。

 アクミカベ達、(オーガ)族パーティーからは、心底同情に満ちた視線を向けられていた。

 荒っぽい外見とは異なり、幸い常識的な感性の連中のようだ。


「……いや、お前らが勝手に目覚めさせたんじゃん」


 もうやだコイツら。

 クロスから人の情けなんて言われた辺りが、地味に一番きついシルバである。

 その肩を、キキョウがポンと叩いた。


「……シルバ殿が関わりたくないと言った気持ち、某も充分痛感した。なるほど、実害がなくてもこれは関わりたくない人種である。それでシルバ殿、如何すればよい?」


 キキョウは、騒ぎ立てるノワ達にうんざりしているようだった。

 もっともそれはシルバも同じだが、キキョウと違うのは一応次の手を打ってあるという点だった。


「……一応こんな風に騒ぐと思ってたから、先も考えてる」

「……本当に、お人好しであるなぁ、シルバ殿」


 感心すると言うより、むしろ呆れたような声だった。


「いや、大体想定内の反応だし、ついでにな」


 もう何度目になるか分からない溜め息をつきながら、シルバはノワ達を見た。


「確実じゃないけど、停止させないで済むかもしれない方法もある」

「え?」


 それまで騒いでいたノワ達が、ピタリと黙った。

 もっとも、シルバの方法だってそれほど奇抜なモノではない。


「人造人間なら錬金術師の管轄だし、学習院(アカデミー)に預ければソイツに興味を持つ学者だって沢山いるだろう。何せ、古代文明の生きた遺産なんだからな」


 シルバは、黙って自分を見上げる人造人間――ヴィクターを見た。


「実験動物にしろって言うの!?」


 ノワが叫ぶ。


「人聞きが悪いこと言うな。学者の連中、錬金術師に医師、そういった連中ならもしかしたら、ソイツが抱えている問題点を調整、解決出来るかも知れないっていう提案をしてるんだよ」

「……理には適っている」

「むぅ」


 ロンが呟き、ノワが唸る。


「ただし、大きな問題が一つありますね」

「大きいか?」


 余計なことをとシルバは思った。

 どうやらノワのパーティーの頭脳であるクロス、彼が一番難物のようだ。

 だが、逆にいえば彼さえ説得できれば、話は丸く収まるだろう。

 ノワも興味を持ったようだ。


「何なの、クロス君」

「当然、今の提案に乗るには、僕達が彼をどのようにして手に入れたか、経緯を話す必要があります。……ここまでの流れから、当然貴方たちはそれをご存知と見ていいんでしょうね」

「まあな」

「……クロス君、つまり?」


 クロスは肩を竦めた。


「ヴィクターの身代と引き替えに、僕達に捕まれって言っているんですよ、彼は」


今回、完全に全部立ち話ですみません。

次でちゃんと動くんで、お待ちください。

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