話してはみたものの
「ノワさま、そこのろじ、だれかいる」
銀髪の青年が、シルバ達を指さした。
戦士が飛んできたことに一瞬気を取られていたシルバ達は、身を潜め損なっていた。
シルバと目が合うと、商人の娘・ノワは軽く微笑み、青年の陰に隠れてべーっと舌を出した。
「……んにゃろうめ」
久しぶりに会う知人に、小さく呟くシルバであった。
酒場からさらに二人、金髪と黒髪の青年が現れた。
「新手ですか、ノワさん」
「……確かに、二人分の匂いがする」
シルバは、ノワと酒場から出てきたその仲間を見た。
ノワ。
金髪紅瞳でこちらを見下したような顔をしているのは、クロス・フェリーだろう。
黒髪黒目に黒ずくめの服装をした、屈強な青年……これも、リフの情報にあった。
となると……消去法から、武僧のような巻布衣装をまとい、額に青い宝石の埋まった銀髪の巨漢――ノワが呼ぶヴィクターという青年が、件の人造人間なのだろう。
「先に言っておく。俺は別にお前と喧嘩しにきた訳じゃない。色々と言いたいことはあるが、用事が終わったら、すぐに帰る。過去の確執はなしだ。それでいいか」
シルバはその場から動かず、ヴィクターの後ろに隠れるノワに言った。
すると、ヴィクターは、後ろのノワに声を掛けた。
「あれも、やっつけるか」
「うんやっちゃって、ヴィクター☆」
「わかった」
ヴィクターという銀髪の巨漢は、右手を突き出した。
「シルバ殿!」
「って、人の話を聞けよ、おい!?」
シルバはキキョウのタックルを食らいながら、地面に倒れた。
直後、シルバがさっきまで立っていた場所を、ヴィクターの放った精霊砲の光が貫いていた。
シルバは起き上がりながら、銀縁眼鏡を装着する。
「よくも、シルバ殿を……」
既に立ち上がっていたキキョウは腰を落とし、臨戦態勢に入っていた。
「よせ、キキョウ。さっきも言った通り、俺は話し合いに来たんだ」
「しかし!」
「……あのでかいのを戦わせないのが、第一の目的。それ以外は全部我慢だ」
「……心得た」
渋々、といった感じに、キキョウは柄から手を離した。
もっとも、収まっていないのが、攻撃を仕掛けてきたノワの方だ。
「さっきから二人で何ブツブツ話してんのよ! 第一、会うなりお前呼ばわりなんて超生意気で失礼じゃない! そう思うよね、みんな?」
すると、ヴィクターの左右に、クロス・フェリーと、黒尽めの精悍な男が並んだ。
「確かに、ノワさんの言う通りですね。これは粛正が必要かと思います」
「同意だ。少々痛い目にあってもらう。だが安心しろ。殺しはしない」
「……やっつける」
ノワを守るように立ちふさがる三人のやる気は、充分シルバにも伝わっていた。
「ちょっ……何でそんなに血の気が多いんだよ、アンタらは。しかもなんか全員イケメンなのはどういうことだ!?」
「いや! シルバ殿も負けておらぬ」
「「「「いや、それはない」」」」
キキョウの断言は、言われた本人にまで突っ込まれていた。
「待てよ。俺達を忘れてもらっちゃ困るぜ」
酒場から新たに出てきたのは、頭に二本の角を生やした小柄な鬼だった。
丸いゴーグルにローブ姿だ。
「……鬼族の魔術師とは珍しいな」
思わず、シルバはそんな感想を抱いていた。
でも、ここで話に割り込んでくる彼らは一体何者なのか。
鬼族の魔術師は、ヴィクターにも負けない屈強な肉体を持つ骨剣を携えた一本角の大鬼と、髪をポニーテールにした同じく一本角の細身の鬼女を引き連れていた。
ふと思い出し、シルバは後ろを見た。
先程吹き飛ばされた戦士も、額に角が生えていた。
どうやら彼らの仲間らしい。
なるほど、ノワ達の味方かと少し思ったが、そうではないようだ。
「物事には優先順位ってモンがある。俺達が先に見つけたんだから、コイツらを捕まえる権利は、俺達にある。そうだろう?」
その台詞に、シルバはピンと来た。
「あ、もしかしてアンタ達、手配書を見たのか……?」
「何だ、知ってんじゃねえか。アンタらもその口だろう? 言っちゃ何だが、アンタら二人じゃコイツらをどうにかする事なんてできねえぜ?」
「そっちだって、やられた奴を合わせて四人じゃないか」
「四人じゃなくて六人な。いいんだよ。ソイツらは力を見る為の駒だから」
……なるほど、言われてみれば店の端に倒れているのが二人いるのが見えた。
しかし、倒れている彼らと比べても、鬼族のパーティーの三人はまず雰囲気や装備からして違う。
歴戦の強者といった雰囲気が感じられていた。
「シルバ殿……」
「……ああ、相当やる感じだ。だけど、戦われちゃ困る」
「で、あるな」
キキョウに、シルバは頷き返した。
「あ、まだいたんだ」
そして、ノワは相変わらず空気を読んでいなかった。
「ああ。ここからが本番だぜ?」
小柄な鬼の魔術師が、杖を構える。
「おい、ちょ、待てよ」
慌てて、シルバが間に割り込もうとした。
「あれもやっつけるのか、ノワさま」
「オッケー♪ やっちゃって、ヴィクター。あ、クロス君とロン君もそっちが先ね」
「……いいのか?」
ロンの肩に、クロスが手を置いた。
「ロン。ノワさんの意思が最優先ですよ」
「ああ」
そして、シルバを完全に無視して、戦いは始まった。
ノワのパーティーはヴィクターが最前に立ち、鬼の巨大な骨剣や二刀を、その屈強な肉体で受け止める。
ヴィクターの身体に血が滲むが、動ずる気配はまるでない。
傷はできているが、驚くぐらい浅いのだ。
「何だと……!?」
予想外だった鬼達を、そのまま捕まえようと腕を伸ばしてくる。
そんなヴィクターの様子に鬼達がわずかに怯んだところを、後ろから飛び出した吸血鬼達が逆に襲いかかった。
「食らいなさい……!」
クロスが、鬼女と視線を合わせる。
その途端、鬼の女は頬を赤らめ、クタクタとその場に跪いてしまった。
「イブキ、どうした!?」
「しまった、魅了の術……!」
ロンの相手をしていた大鬼の戦士が驚き、魔術師の小柄な鬼が叫んだ。
「今だよ、ヴィクター。やっちゃえ!」
「わかりました」
ヴィクターがロンと組んで大鬼に襲いかかる。
ノワはよほど自分のパーティーに自信があるらしく、戦う気はないらしい。
一方、問答無用で始まった戦闘に、完全に蚊帳の外に置かれてしまったのが、シルバとキキョウだ。
「シルバ殿、どうする?」
「どうするも何も……」
シルバはキキョウと顔を見合わせ、戦いのただ中へと飛び込んだ。
そして。
「喧嘩すんなっつってんだろうがーーーーーっ!!」
周囲の建物が揺らぐほどの大音量で怒鳴りつけた。
さすがにこれにはたまらず、キキョウも含めたほぼ全員が耳を押さえた。
キョトンとしているのは、ヴィクターだけだ。
「最初からこうしときゃよかったな……聖歌隊の肺活量を舐めんなよったくもー」
戦いは中断されたが、状況は好転した訳ではなかった。
むしろ、一触即発といった雰囲気だ。
臨戦態勢もそのまま、大鬼はヴィクターとロンと向き合ったままだし、小柄な鬼の魔術師は風の術が発動し掛けている杖を構えたままだ。
「……お前、そいつらの仲間か。俺はアクミカベ。敵対するというのなら、お前達ごとやらせてもらう」
「仲間……? コイツらの?」
シルバは唖然とした。
「違うのか?」
「いや、失礼なこと言うなよ?」
「ノワ、傷ついたかもー」
「そうか、よかったな。おめでとう」
ノワの非難を、シルバはスルーする。
「……俺はどっちの味方でもないし、争うつもりもない。いいか、俺は一言忠告しにきただけだ。そのヴィクターって奴だが、持ち出した部屋を調べたら、動力になってる炉がヤバいんだよ。それ以上、そいつを戦わせるな!」
戦闘のど真ん中にキキョウと立ち、シルバはノワに指を突きつけた。




