表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
人造人間を追って
105/215

シルバとキキョウ、昼飯を食べてからノワ達を探す

 シルバは上司であるストア・カプリスに挨拶と報告を済ませ、教会からもノワ達の捜索に人を割いてもらう事となった。

 そして二人は早足で学習院(アカデミー)を出た。


「それでどうするのだ、シルバ殿。この辺境都市一つとっても広いぞ。それに加え、彼奴等は冒険者である。となれば『墜落殿(フォーリウム)』も範囲に入ってしまうではないか」


 大通りを歩きながら、キキョウが尋ねてくる。

 シルバは頷きながら、キキョウの意見を補足した。


「さらに加えるなら、他の小さな遺跡の探索の為、他の街や村に移動しているかも知れない」

「うむ、その通りだ」

「もしそうだとしても、そのまま余所に行くってことはあまり考えにくいんだ。調査団の装備品を売り捌かないとならないだろう?」

「しかしシルバ殿。売り捌くというのならば、むしろこの都市以外の方がよいであろう? 余所の小さな村や街の方が足がつきにくい」

「キキョウ。それは、常識的な考え方だ」

「むむ?」

「この辺境は、西へ行けば行くほど辺鄙になる。村や街は小さくなるんだ」

「うむ」

「そんな田舎じゃ、買い取ってもらえるにしても限度がある。ブツを売り捌くなら、この都市が一番高く買い取ってもらえるんだよ。なら、アイツはこの都市内で売り捌く。常識なんか知らん。足がついたのなら、追ってきた奴を返り討ち。俺が知ってるノワ・ヘイゼルって女なら、絶対そうする。カートンにも聞いてみろ。同じ意見だと思うぞ」

「そ、そこまでであるか……」

「腹立たしいことに、分かっちまうんだよ。ったく……」


 シルバは、不機嫌に息を吐いた。


「何にしろ必要なのは情報だ。故買商を調べなきゃならない」

「となると……盗賊ギルドであるか?」


 キキョウは、横の通りに目を向けた。

 盗賊ギルドは、この先にある。距離は少々遠いが……。

 しかし、シルバはその通りをやり過ごした。


「普通ならな。けど、状況が状況だしもうちょっと効率よく行こうと思う。実は、ノワの居場所は、ある程度なら分かる」

「何……!?」

「だって俺、前のパーティーの連中と、『透心(シンツ)』切ってないからな。放置してただけで」

「な、なるほど……」

「まあ、向こうから連絡が来ても、繋がらないようにはしてたけど……お陰で、思い出したのもついさっきだったんだが」


 広場に入ったシルバは、屋台に足を向けた。

 いくつかの屋台が固まっていて、簡易的なテーブルとベンチも用意されている。

 噴水の縁に腰掛けて、食事を取っている市民も何人かいた。

 そういえば、まだ昼食も食べていないことを、キキョウも思い出したようだ。

 シルバの後ろをついてくる。


「いや、実は最初は、人海戦術で行こうと思ったんだよ。この都市と、『墜落殿(フォーリウム)』を探索している『透心(シンツ)』を契約してる連中と、一斉に接触する形でな。――すみません、チーズドッグのセット二つ」

「あいよ!」


 注文を受けた、屋台の親父が威勢のいい声と共にホットドッグを焼き始める。


「一斉に接触とは……なにやら聞いただけで死にそうな話なのだが。それは、シルバ殿は大丈夫なのであるか?」

「うん。精神強化する薬飲んでやっとって方法だから、その前にノワと繋がったままなのを、思い出してよかった。直接、精神接触しないで、居所だけを走査する。ちょっと試しに、リフでやってみるぞ」

「チーズドッグセット二つお待ち! 十カッドだよ!」

「あいよ」


 シルバは懐から財布を出して、小銭を親父に渡した。


「あいや、シルバ殿。ここは割り勘にするべきであるぞ」

「これぐらい、いいって。とにかく席に座って話を続けよう」


 シルバはトレイを持って、さっさと空いているテーブルに向かった。

 シルバが選んだのは、パラソルで日陰になった席だ。

 テーブルの中央に、都市の地図を広げ、キキョウと向かい合わせの席に座る。

 チーズドッグを頬張りながら、シルバは自分の額に指を当てた。

 リフの意識に同調するよう、精神を集中させる。


「うん。今、リフが盗賊ギルドでカートンから講義を受けてるな。それに何かすぐ傍で、フィリオさんが見守ってる。……ま、この辺の感覚は俺一人よりキキョウも直接感じた方が早いな。手繋げば共有しやすい」


 目をつぶったまま、シルバは手を前に出した。


「て、手であるか!?」


 キキョウは何だかわたわたしているようだった。


「……足でも構わないけど、歩けなくなるぞ?」

「こ、心得た」

「まあ、ちょっと目立つから、占いでもしている風にしようか」


 シルバは首から提げている聖印を外すと、左手に持ち地図の上に置いた。

 モノ探しのダウジングのように見えるが、単にそう見えるだけである。


「で、ではシルバ殿……これでよいのであるか?」


 ひんやりとした手が、シルバの手を握り返してくる。

 その手目掛けて、シルバは自分が感じているリフの位置を、送り込んだ。

 地図でいえば今、シルバ達がいる広場から少し歩いた、小路の中程にある酒場が盗賊ギルドである。


「……おおう」


 驚愕の声に、シルバは目を開いた。

 シルバの意識と同調したキキョウは、衝撃に目を見張っているようだった。


「ま、普通はやらない方法だ。プライバシーの侵害になるしな。けどこれなら、ノワの居場所ぐらいなら」


 さっきと同じ要領で、シルバは覚えているノワの意識の感覚を探り出す。

 自分を中心に精神の幅を可能な限り薄く広げ、周辺を探った。


「……おらぬな」

「この辺りにはな。いくつかポイントを絞って、走査したい。まあ、人造人間なんてのを連れてるなら目立つだろうし、あまり人の多い場所にはいないだろうな」


 シルバとキキョウは手を離し、地図を覗き込んだ。

 シルバの『透心(シンツ)』もさすがに、都市全域をカバーするとまではいかない。

 ノワ達が拠点としそうな怪しそうな場所を、ピックアップすることにしたのだった。


「いやしかし、確かクロスとかいう半吸血鬼(ダンピール)が認識偽装なる術を使えたのではなかったか?」

「使えるだろうけど、ずっとって訳にはいかないだろ? それに個別で行動することだってあるはずだ。ウチだとカナリーで当てはめてみたら、どうだ?」

「……となると、この辺りの、大きめの家屋も想定に入れるべきであるか?」

「うん。しばらく、引きこもるってことはあり得るな。でも、貴族の区画は後回しでいいだろう。そういう支援者がいるって話は今のところ、聞いていないしな」


 そんな話をしながら、二人は『透心(シンツ)』で探るポイントを検討しあった。


「じゃあ、行くか」

「うむ」


 シルバは、チーズドッグの残りを一気に口に放り込んだ。

 キキョウも手を合わせ、立ち上がった。




 シルバとキキョウは、大通りを歩くことにした。

 天気はよく、人や馬車の行き来も多い。


「こうやって二人で歩くのも、何だか久しぶりであるなあ」

「ああ、こういう視線も久しぶりだ」


 道行く女性達が皆、キキョウを見ては足を止めるのだ。

 そして、頬を赤らめ、隣を歩くシルバを見て、何だあれ? みたいな顔をするのである。

 今のパーティーを組む前、『プラチナ・クロス』の休息日には、よくあった状況である。


「……左様であるなあ」

「まあ、実害がある訳でもなし、放っておいてもいいだろ」


 以前と少し違うのは、一部の冒険者はシルバ達と目が合うと、軽く手を上げたりと挨拶をしていくことぐらいだろうか。

 シルバ達もそうして挨拶を返しながら、通りを歩く。


「こんなにのんびりしていて、よいのであろうか」

「回るポイントは多いからな。駆け足で巡っても、最後ヘトヘトになるだろ。どこで当たるか分からない以上、ペースを保った方がいいと思うんだ」

「ふぅむ、それもそうであるなぁ……しかし、こうも暖かだと、どこかで昼寝でもしたくなるのである」


 尻尾を揺らしながら、キキョウは目を細めた。


「さすがにそこまでする訳にはいかないけど、ボチボチ休憩は入れていこう。この先は商業区画だから、ついでに道具類も見ておきたいな」


 そんなのんきな話をしながら、二人は目的の走査ポイントを目指して、やや早足で歩くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ