人造人間の取り扱い方法
その日、シルバとキキョウは学習院を訪れた。
「ようこそ、我が偉大なる研究室へ」
古代語を専攻する学者ブルースは、浅黒の肌を持つ二枚目の中年男だ。
彼は大仰に両手を広げて、二人を出迎えてくれた。
数日前に、迷宮から持ち帰った石板の解読を依頼し、これが二度目の訪問となる。
「今日は二人だけかな?」
「ええ。訓練とか色々予定がありまして」
カナリーは、本家の人間と話があると別行動を取り、ヒイロ、タイラン、リフの三人はそれぞれ訓練に精を出していた。
その話を聞くと、ブルースはガクリと肩を落とした。
「そうか。あのヒイロ君にはなかなか興味があったのだが……待て待て。ドン引くな。最後まで話を聞きたまえ。俺が興味があるのは鬼族の言語だ。決してやましい意味があって言ったんじゃない」
実際、シルバとキキョウは、ブルースからやや距離を置いていた。
「そ、そうですか。あー、ビックリした」
「そ、某もだ。言っては何だが、本当に大丈夫なのだろうな」
「はは。彼や、あのリフという子がもしも女の子だったら、俺もやばかったかもしれないがね」
笑って言うブルース。
対照的に、シルバ達には緊張が走る……!
「キキョウ。この研究室に、決してヒイロとリフを近づけるな……!」
「承知……!」
「というか、この人に女っ気がない理由が、ちょっとだけ理解出来たような気がする」
言いながら、シルバは勧められるまま、ソファーに座った。
その隣にキキョウも座る。
「まあ、あの二人が来れないのは残念だが、いいだろう。例の石板の文字だが、解読出来たぞ」
茶を出しながら、ブルースが言う。
「助かります」
「気にしなくていい。他ならないカプリス先生の頼みでもあるしな。そしてあの石板に書かれていたのは、君らの推測通り、施設にあったと思われる人造人間に関する説明書だ」
「人造人間っていうと、錬金術師の管轄ですね」
「ああ。大昔の錬金術師の工房だったのだろうね。量産体制に入る前の、試作品だったようだな。ただし、起動は見合わせられていた。危険という理由でね」
茶を飲もうとしていた、キキョウの手がピタリと止まった。
「……危険ですと?」
「……すごく嫌な予感がするぞ」
同じように、シルバも固まっていた。
「その前にあの人造人間が造られた目的から話そう。オルドグラム王朝があった頃は、労働力の多くは、所有者に絶対服従する、人造人間の奴隷でね。これもその一つだったと思われる」
香茶を一口啜り、ブルースは頷く。
「同時に人造人間は娯楽でもある。闘技場で戦わせたり、夜の供にされるケースも少なくなかったという」
「よ、夜の供……」
その単語に、キキョウは顔を赤らめた。
「報告では、寝台は大きかったそうだな。……実に……実に残念だ」
本気で落胆するブルースに、シルバはこめかみを揉みながら話を促す。
「先生の性的嗜好はどうでもいいんで、話を続けて下さい」
「解読した限りでは、そこにあった人造人間は日常の世話係兼、娯楽用だったようだ。さっき話した、闘技場で戦わせる為のね」
「つまり、戦闘用でもある訳ですね」
「ああ。それで問題点なんだがまず一つ目」
「一つ目?」
聞き咎めるシルバに、ブルースは指を三本立てた。
「出血大サービスで、何と三つもある」
「……あまりいい話じゃ、なさそうですね」
「そりゃ、問題点だからな」
「……人造人間を持ち出した連中の心当たりはあるんで、先生の方から伝えてもらえませんか?」
「冒険者ギルドの方には伝えてもいいさ。危険だからな。けど、お前達にも聞いてもらうぞ。ここに持ってきたのはお前らだからな」
「……分かりました。お願いします」
まあ、聞かなければ、それはそれで後悔しそうな気もするので、シルバは頷かざるを得ない。
「一つ目はパワー面の制御の問題。色々とやり過ぎてしまうらしい。しかも、この人造人間のパワーは相当にあるようだ。おまけにタフで壊れにくい」
「モノを壊しやすい?」
「そういう面もあるだろうな」
そして、とブルースは言う。
「二つ目に、闘技場用の戦闘モード。普段は日常モードだが、一度戦闘スイッチが入ったら、戻らない」
「おいおい」
「問題どころか、欠点ではないですか。明らかにその戦闘モードとかいう単語、物騒でありますぞ?」
さすがに二人は突っ込んだ。
「ああ。だから、普段に使う分には問題はないんだ。その状態で戦うことだって一応は可能だしな。しかし、戦う為だけに特化した闘争本能にスイッチの入った戦闘モード。これになると、もう戻る事が出来ない。エネルギーが切れるまで、動くモノを破壊し続ける暴走状態だ」
「……それ、迷宮から持ち出したと思しき連中が、把握してると思います?」
「分からんよ。だから、冒険者ギルドには報告するけど、君らも動けって話さ。キーワードは『バトロン』。古代語でいうところの『戦闘モードロック解除』に当たる。うっかり契約者が使ったら最後、もう止まらんぞ」
「……聞かなきゃよかったです」
「諦めろ」
ブルースの話によると、人造人間の契約者以外が言った所で、効果は発揮しないらしい。
似たような単語があるとすれば、『支援者』だろうが……ノワ達の誰かが使うかどうかとなると、シルバにはちょっと判断がつかない。
「最後に三つ目。これが一番厄介だ」
「……二番目以上に厄介なんですか?」
もうお腹いっぱいなんだけどなぁと思うシルバだった。
しかし、ブルースは非情にも三つ目の問題とやらを説明し始めた。
「その人造人間、精霊炉が試作品らしくてな。長時間駆動させると、中に宿る炎の精霊が熱暴走を起こすらしい。おや、どうした二人とも? 遠い目をして」
「……いえ、何というか酷い既視感を覚えておりまして」
「……シルバ殿。某、クスノハ遺跡以来の激戦になりそうな予感が、既にするのであるが」
特に精霊炉、という辺りが何ともいえず懐かしい。
「これも、身の回りの世話レベルならば、大した問題じゃない。しかし何だ。戦いに参加したりすると、日常モードでも動力炉の負担も大きくなる。騙し騙し使えば問題はないだろうが……最終的に炉が限界を迎えると、広範囲の大爆発を引き起こす」
「ば、爆発!?」
「ああ。だから、さっさと起動停止の忠告をした方がいい。本来は、眠ったままなのが一番いいんだが……ま、悪い方に考えておいた方がいいだろうな」
実際、人造人間は持ち出されているのだ。
楽観的に考えるのは、さすがに脳天気にすぎるだろう、というのがブルースの意見だった。
「ま、その三つさえ解決すれば、契約を結んだ相手に絶対服従する実に素晴らしい人造人間が出来あがるだろう、という話さ」
「一つ目はまだともかくとして、他二つがやばすぎないか」
キキョウの問いに、ブルースは頷き、解読済みのレポートを開いた。
「だから、開発者も起動を自重したんだろう。うん、最後にその開発者の名前が記されてある」
「一応聞いときましょう。そんな大昔の人間の名前を聞いても、何の参考にもならないと思いますが」
とりあえずこの香茶を飲んだら、すぐに動かないといけないな、と思うシルバだった。
隣を見ると、同じようにキキョウも考えているらしい。
「ああ、ここだ。錬金術師ナクリー・クロップがここに記すとある」
「「ぶぅーっ!?」」
シルバとキキョウは同時に香茶を吹き出した。




