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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
第三層の古代遺産
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遺跡の奥に残ったモノ

「ににに……」


 リフは小さく唸り、過去第一層で出会った、冒険者パーティーのことを思い出そうと努力していた。

 シルバの使う精神共有『透心(シンツ)』を経由して、周囲の仲間達にもその記憶が投影される。




 自分のいる場所はカウンター。

 そして、三人の冒険者と向かい合っていた。


『わぁ、可愛い店員さん。二人もそう思わない?』

『いいえ、貴方の美しさには敵いませんよ、**さん』


 豪奢なマントを羽織った、金髪紅眼の眼鏡青年が柔和な笑みを浮かべていた。

 名前はリフが思い出せないのか、雑音となっていた。

 もう一人、黒髪の青年も名前を呼ばれていたが、やはり雑音だ。

 たった一回、わずかな交渉の間だけ会った、冒険者パーティーの記憶だ。

 容姿が鮮明なだけ、上出来というべきだろう。




 リフの記憶が解けると、シルバとカートンは顔を見合わせた。

 そして二人揃って、ため息をついた。


「間違いなかった……」

「ノワちゃんだよ……」


 カナリーも、苦虫を噛み潰したような顔になっていた。

「……こっちも間違いない。クロスだった」


 もう一人、黒髪の青年には誰も見覚えはなかった。


「絶対の確証はない。けれど、彼はここにいた。女性冒険者達に失踪について聞く必要はあるね」


 カナリーは髪を掻き上げながら、言った。


「……そのクロスってのを捕まえるのは手伝うとして」

「……ノワちゃんが絡んでるのかぁ。何て因縁なんだか」 


 は、とカートンは今の子供の姿には相応しくない、力ない笑みを浮かべた。

 シルバも気が重い。

 前のパーティーとの喧嘩別れの原因とはいえ、かつての仲間である。

 とか、そういう話ではなく、単純に面倒くさい。

 相手にしたくないのだ。


「手伝うか、カートン?」

「冗談。あの子と会ってからオレの運、ガタ落ちなんだぜ。もー、関わるのはゴメンだね」

「そうか。ま、こっちはそういう訳にはいかなさそうだけどな」


 シルバはグロッグを見た。


「地上に戻ったら、この三人の手配書を用意して欲しい」

「そりゃ構わねえが、どういう理由でだ? ここに奴らがいたっていうことですら、証拠がないんだぜ? 髪の毛が残っていました、なんてのじゃ話にならねえだろ」

「いや、別に証拠なんてなくていいんだよ」

「え」

「むしろ、相手が騒いで抗議してくれた方が、好都合だ。居場所が分かるんだから。でまあ証拠云々っていうけどさ、ここで死んだ冒険者達はめぼしいモノ、根こそぎ奪われてるだろ?」


 シルバの指摘に、グロッグは一つしかない目を大きく見開いた。


「ああ、そうか。どこかで売り捌く必要がある!」

「ダンジョンの中で、死んだ冒険者を発見した場合、登録証と持てるアイテムを回収してギルドに届けるのは、生きている冒険者の義務だ。それを怠って、死体から身ぐるみを剥ぐのは、冒険者以前に人としての倫理に反する。違うか?」

「聖職者らしい堅苦しい意見だが、間違ってねえ。そういうことなら手配書も出せるだろう」

「よろしく頼む」




「さて」


 グロッグが天幕に戻っていくのを見送り、シルバは部屋の奥を見た。


「問題はこれだな」

「これですねえ」


 敢えて手をつけなかった、古代遺跡の施設だ。

 まあ、『墜落殿(フォーリウム)』自体そもそも古代遺跡なのだが、それと比較してもさらに古い。

 既に、グロッグ達が調査済みだというが、シルバ達も見てみることにした。

 ノワ達が、ここに手を出さないはずがないのである。


「見えないところよりも見えるところに気をつけろ。そういうところは警戒が薄れるから、むしろあからさまに罠が張ってあっても気付かなかったりするんだ」

「に」


 小さい金髪少年のアドバイスに、小さい獣人の子供は熱心に頷きながら、罠の確認を済ませていく。

 グロッグ達が出入りしたという時点で、危険はほぼ無いといってもいいだろう。

 だから、シルバ達も安心してカートンにリフを預けることができた。

 さらに先行する形で、クロエが離れた所で施設を見回している。


「ま、遺跡ん中はほとんど空っぽいけどなー」


 トラップのチェックに余念のないリフを眺める金髪少年、カートンはボリボリと頭を掻いた。


「根こそぎか」

「いんや、シルバ。そもそも金になりそうなモノが少なそうな臭いっつーか……重要なモノは。数点。その数点がなくなったって感じ? ま、勘だけど」

「お前の勘はこういう時、洒落にならないからなー。何かの工房か……」


 シルバは、石造りの施設を眺め回した。

 相当に広い……はずなのだが、今はもう『死』んでいる石製の実験装置の数々がとにかく雑然としていてどこか手狭な印象を受ける。


「シ、シルバ殿。そろそろ某達は動いてもよろしいか」


 後ろで待っていたキキョウが、遠慮がちに声を掛けてきた。

 シルバとカナリー以外は、念のために後ろで待機してもらっていたのだ。


「ん、ああ、悪い。問題ない」

「お金になりそうなモノはホント、なさそうだなー。まああっても、ノワちゃん達が持っていってるんだろうけど」

「にぃ……」


 ひょいひょい、とカートンとリフは軽い足取りで施設の奥へ奥へと進んでいく。

 その後ろをシルバ達はついていった。


 やがて、シルバ達は、何だか手術室をイメージさせる場所についた。

 石製の寝台に、照明だったとおぼしき装置群。

 傍らには文字の刻まれた、一抱えほどもある大きな石板が設置されていた。


「……うん、何かの説明書か?」

「読めるのか、シルバ殿」

「先生に仕込まれてる、その関係で少しだけな。でも、カナリーに任せた方が……んー……」


 眉をしかめるシルバに、タイランも横から石板を覗き込んできた。


「……これ、ちょっとまずいモノかもしれませんね、シルバさん」

「お。タイランも読めるのか」

「は、はい……父の研究にはそういうモノも含まれていましたから……」

「それで、まずいとは?」


 キキョウの問いに、シルバは難しい顔で頷いた。


「うん。ここは人造人間の工房だったみたいだけど……その、何だ。問題があって、起動見合わせてるとかなんとか……駄目だな。こういうのは、素人が中途半端に解読しても、ロクな事にならない」


 シルバの隣で、カナリーも肩を竦めた。


「読むだけなら僕達でもどうにかなるけど、学習院(アカデミー)で古代語専門の学者に解読してもらった方がよさそうだね」

「先輩。メモ取るより、直接持って行った方がいいんじゃない?」


 石板は、何かに固定されていた訳ではなかったらしく、あっさりとヒイロが持ち上げた。


「っておいヒイロ。お、重くないか?」

「へーきへーき。それに台車もあるし、問題ないでしょ?」

 (オーガ)族の膂力では、ラージシールドほどある石板も、それほど大した重量には感じられないらしい。

 ただ、シルバとしては、割れないようには気をつけて欲しいなと思う。


「ま、持って帰れるかどうかは、ここを仕切ってるグロッグの許可次第だな」


 一見するとそれほど価値もなさそうだし、大丈夫だろうと踏むシルバの背後で、何やら唸り声がしていた。


「むうぅ……」


 振り返ると、キキョウが腕を組みながら何か考え込んでいた。


「どうした、キキョウ」

「某の役に立てる仕事がない……」


 シルバが問うと、へにゃり、と耳と尻尾が垂れ下がった。


「いや、ここに来るまでで充分役に立ってるし、帰りもあるし」

「……」


 シルバのフォローにも、納得がいっていないのか。やはりキキョウは元気がなかった。

 ……地上に戻ったら、ちょっとフォローがいるかな、とシルバは考えた。





 地上への帰還は、それほど難しくなかった。

 また何度かの休憩を挟んで『墜落殿(フォーリウム)』を出たシルバ達は、冒険者ギルドに寄った。


「報酬は微々たるモノですが……」


 クロエから、金袋をもらう。

 仕事が一段落し、キキョウ達は大分浮かれている。

 これから市場によって食材を買い、家で宴会になるだろう。


「ま、あの石板次第だな」


 冒険者ギルドの喧噪の中、シルバはカウンターに横たわった石板に視線を向けた。

 グロッグや冒険者ギルドでも、やはりこういうのは学習院(アカデミー)に預けた方がいいという意見だった。


「アレに、それほど価値があるようには思えませんけど」

「どうだろうな。案外、モノになるかもしれないぞ」


 コン、とシルバは石板を叩いた。

 その音は、鉱物に詳しい山妖精(ドワーフ)が聞けば「ほう」と頷くいい音がしていた。

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