金色の髪からたどる手がかり
皆で話し合っていると、静かに赤いドレスの従者ヴァーミィがカナリーに近づいた。
「うん、どうしたんだい、ヴァーミィ」
ヴァーミィは両手で金色の糸のようなモノを何本か持っており、それをカナリーに差し出した。
受け取ったカナリーの手元をのぞき込んだキキョウが、わずかに鼻を鳴らした。
「糸であるか? いや、金髪であるな。わずかに香水の匂いがする……カナリーのそれとよく似ているのである」
「……ふーむ。ヴァーミィ、ハンカチ広げて」
カナリーが命じると、ヴァーミィは主の言葉に従い、純白のハンカチを広げた。
カナリーは金色の髪を指でつまむと、そこに雷撃を流した。
当然ながら髪は黒焦げになり、ボロボロになったそれはカナリーの手の中で小さな灰の山になった。
「あ、何をするのか。せっかく、ヴァーミィが持ってきてくれたモノなのではないか」
「そうさ。だから、役に立てるんだよ」
キキョウの抗議を聞き流しながら、カナリーはその灰をヴァーミィの持つハンカチに吹き付けた。
純白の生地を黒い灰が汚し……。
「ぬう……っ!? こ、これは人の顔……!?」
キキョウが声を上げた。
そう、カナリーが吹き付けた灰は、端正だが冷たい印象を持つ青年の顔をハンカチに映し出していたのだ。
「吸血鬼は灰になっても甦る。……つまりこれは、灰にしてからの復元力の応用だよ」
まあ、誰にでもできるって訳じゃないけどね、とカナリーは皮肉っぽく笑った。
「カナリーさん質問」
シュタッとヒイロが手を上げた。
「はい、どうぞ。質問を認めよう、ヒイロ。何かな」
「カナリーさんも焼いたら、灰から復活するの?」
恐ろしいことを思いつく、ヒイロであった。
「……多分できると思うけど、試したいとは思わないね。焼かれた経験はないし、できればやらないに越したことはないだろう」
頬から一筋汗を流しながら、カナリーは答えた。
気を取り直し……それはそれで、気分の重い、カナリーであった。
「これはまた、厄介なのがきたね……」
ハンカチに映された顔に、カナリーは心当たりがあった。
ここで出てくるとは、という思いであった。
「あれぇ、なんかどっかで見たような気がする」
「スミス村ですよ、ヒイロ。確か、カナリーさんの腹違いの兄弟で、半吸血鬼の……確か、クロス・フェリーさんです」
タイランが、ヒイロに説明した。。
「さすがタイランはよく憶えているね。そうさ、現在ホルスティン家が追っている人物だ。都市内で発生している、女性の失踪事件にも関与している疑いがある」
「女性の失踪……」
シルバが顔をしかめた。
その件は、教会もホルスティン家と協力して調べているのだ。
そしてもう一つ、思い当たることがあるのだ。
「そうさ。ここでも、女性冒険者達がいなくなっている。……これは、偶然かな? 僕はそうは思わない。セルシア」
カナリーがパチンと指を鳴らすと、青いドレスの従者セルシアが、隻眼の冒険者グロッグを引き連れてやってきた。
「ちょっ、お、おい、一体何だよこの嬢ちゃんは! メチャクチャ力強ぇじゃねえか!?」
「ああ、ご苦労様。すまないね、ウチの従者が少々強引なことをしてしまったようだ」
全くすまないとは思っていない、カナリーであった。
「少々どころじゃなかったんだが、それで一体何なんだよ」
グロッグは一息つくと、カナリーを睨んだ。
「似顔絵のリストに一人追加だよ。この男も、調査団に混じっていたらしい。心当たりはあるかい?」
「いや、知らない顔だな」
ヴァーミィがハンカチの似顔絵を見せるも、グロッグは首を振った。
もっとも、辺境都市アーミゼストは鍛冶屋通りや温泉街があったりと、かなり広い。
冒険者ギルドの支部も、都市内にいくつか存在するのだ。
同じ冒険者をしていてもグロッグが知らなくても無理はないし、クロス・フェリーがかなり目立つ風貌だとしてもそれを隠す手段はあるのだ。
「まあ、認識阻害ぐらいは使うだろうね」
「認識阻害? 何だそりゃ」
カナリーの呟きに、グロッグが眉根を寄せた。
「言葉通りの術だよ。会った人間の印象をかき消す術でね、どんな顔をして、どんな声をして、どんな会話をしていたのかも思い出せなくするのさ」
「何だそりゃ、恐ろしい術だな」
「ああ、地味ながら効果的な術さ。さて、グロッグさん、貴方に来てもらったのはリストを見せてもらいたいからなんだ」
「リストって、あれか? 大したもんじゃねえぞ? 誰それの死因がどうとか、そういうのを書いただけの奴だ」
グロッグはベルトに差した巻物を引き抜いた。
「そう、それを見えて欲しい。ちょっとした力になれると思うんだ」
「そういうことなら、構わねえけどよ」
巻物を紐解き、中身を広げる。
そこには調査団に参加した人間の名前と、目立つ傷跡、致命傷と思しきモノの記述が連ねられていた。
カナリーはサッとそれに目を通した。
電撃系の魔術で倒れた冒険者が、かなりの数に上っている。
次に多いのが、獣の爪、剣や槍といった斬撃刺突と続き、打撃系は鈍器よりも拳によるモノが多いというのが意外だった。
「……ふん。これは、三分の一ぐらいはアイツの仕業かな。キキョウとリフ。このリストを見て欲しい。感電死の方は、僕の方で心当たりがある。獣の爪らしい致命傷が目立つんだが、どう思う?」
カナリーから、キキョウが巻物を受け取った。
それを下からリフがのぞき込む。
「む、動物とは違うのではないかな?」
「にぅ、牙をつかってない。動物は牙をつかう」
「それに、その爪の攻撃も上半身に集中している。動物の多くは人の足を狙うのだ。おそらく獣人の類であろうな」
というのが、狐獣人と虎獣人ということに表向きしている二人の解答だった。
「半吸血鬼に獣人のコンビか」
ふん、とカナリーが鼻を鳴らした。
相性がよすぎる。
実に気にくわない。
「に!」
唐突に、リフが声を上げた。
「どうしたのだ、リフ」
「こっちの人、思い出した。前に見たことある」
リフが指を指したのは、白いハンカチに作られた、クロス・フェリーの似顔絵だ。
「スミス村の人相書き?」
「ヒイロ、その時リフはまだいなかっただろ」
コテン、と首を傾げるヒイロを、シルバが訂正した。
「あ、そっか。じゃあ、別の所?」
「に。前に他のみんなといっしょに訓練した時。お客さんで来た」
青銅級や黒鉄級の冒険者達との合同訓練でのことだ。
リフは『ツーカ雑貨商隊』というパーティーと、ダンジョン内での臨時商店を開いた。
その時に訪れた客の中に、このクロス・フェリーという青年がいたのだ。
「それは確かだったかい、リフ?」
「クロス、呼んでた。他、ロンっていう男の人と、ノワっていう女の子。ちょっとこわかった」
「ノワちゃん!?」
「……うへえ」
リフの答えに、カートンは驚愕し、シルバはうんざりした顔になっていた。
心の底から嫌そうにしながら、シルバはリフに尋ねた。
「人違いだと思いたい。リフ、そいつらの詳しい容姿憶えてるか?」
「に……絵、かくの、好きだけど、へた……」
リフは恥ずかしそうに、尻尾を垂らした。
「問題ない。リフは第一層で出会った時のことを思い出せばいい。『透心』を使って、そのイメージをみんなに伝えればいいんだ」
「にぅ、それならできる」
シルバの提案に、リフは元気を取り戻した。
「グロッグ、アンタとも『透心』の契約しとこう。その方が話が早い」
「お、おう。何だかよく分からねえけど、頼むぜ」




