気になっている点について
「大体終わったな」
「ええ、お疲れ様でした」
広間の騒ぎも大分落ち着き、シルバはクロエと一緒に部屋の壁沿いを歩いていた。
冒険者の数も、かなり減っている。
休息を終え、復路に就いたパーティーも多いからだ。
当然その分、布に包まれた遺体の数も減っている。
シルバ達も本来なら、復路に就くパーティーの一団に含まれるはずだったのだが、グロッグの頼みでまだここに留まっていた。
理由は主に、シルバが鎮魂を行える数少ない司祭であったこと、キキョウとカナリー、それにカナリーの従者二人という、ここを訪れた冒険者達の『癒し』になる存在が強まったからであった。
シルバ達『アンノウン』は別に構わなかったのでクロエに聞いてみたところ、こちらも別に構わないという話だったので、全員で居残っていたのだった。
「……にしても、どう思う? 今回のこの惨状」
「そうですね。取り分を巡っての仲間割れ……らしいんですけどねぇ。どうも、状況が酷く曖昧というか……まだ、断定はできなさそうですね」
「うん。一応はそういうことになってるんだけど、妙に不自然な感じがするんだよなぁ」
冒険者達の話に、おかしな所はない。
何かを隠している様子もない。
……が、どこか引っ掛かるモノをシルバは感じていた。
そしてそれは、グロッグも同じらしい。
でも、それはしょうがない。
何せここに居るのはみんな、冒険者。
警吏ではない。
大量の死体があり、皆が武装していて、各々の武器で傷つけ合った痕跡がある。
こんな状況では、そういう結論ぐらいしか出せないのだ。
ただ、それでも引っかかる。
たとえば、死体が足りていないこととか。
たとえば、仲間割れをしてまで取り合ったお宝はじゃあどこにいったんだ? とか。
んー、とシルバは唸った。
「女性冒険者達がいなくなっていることについては?」
死体が足りない、最たる例はこれだ。
運搬にやってきた冒険者達の中には、ここで倒れた冒険者達の知人だっていた。
話を聞けば、女性冒険者の何人かがいるはずなのに、ここにはいない、ということだった。
遺体として発見されていないのならば、ここまでの途中で倒れたかさもなければ、ここから生きて去ったかのどちらかということになる。
「おそらく無事だった女性達がパーティーを組んで、一足先に脱出したんじゃないかと」
「でも、それだと普通、ギルドに連絡が行くよな?」
シルバは、クロエの推測に一応、反論してみた。
「生きて脱出できていればの話ですけどね?」
「そりゃもっともだ」
死んでたら、連絡もへったくれもない。
冒険者なのだから、確かにここから出た後、その途中で倒れたという可能性だって充分にある。
「もしくは、人さらいが女性だけさらっていったという線はどうでしょう。何だか聞いた話だとみんなそれなりに美人だったそうですよ?」
「こんな場所に人さらいが現れるか? どれだけ腕利きなんだよ。冒険者として活動した方が、よっぽどいいぞ。少なくとも法で裁かれることはない」
「言われてみれば、不自然ですね」
「でも、美人だけ消えるってのも、何だかなあ……」
「気になってます?」
「当然」
シルバは正直に頷いた。
男としては、美人と聞けば興味を抱くのは、当たり前である。
ちなみに、行方の知れない女性冒険者達は、クロエが話を聞いて似顔絵を作成している。
実際、いなくなった女性冒険者達は皆、そこそこ見目を惹くであろう美人揃いだった。
……まあ、タイランやカナリーには負けるけど、とシルバは内心で付け加えていた。
「自分のパーティーでは、あまりそういうこと言わない方がいいですよ、シルバ」
笑顔のままのクロエの指摘に、ちょっと顔が引きつるシルバであった。
コイツ、どこまで勘づいてやがる。
「だーからー、一応ウチのパーティーは全員男だと」
「シルバがどう言おうと、不機嫌になる人がいるのは確かですからねえ」
「……」
シルバは、それ以上突っ込むのはやめることにした。
これは、下手に続ければ、シルバの方がボロの出る類の内容だと悟ったからである。
「……シルバのパーティーを見ているのも楽しいですが、さて。仲間割れを起こした彼ら、彼らを発見した冒険者達、そして私達」
クロエは一旦言葉を句切った。
「他の可能性はどうでしょう。つまり、ここで起こった惨状を見つけて救援を呼んだ冒険者が訪れるより前に、誰かがこの広間に入り、取れるだけのモノを取っていったっていうことは?」
「っていうか、高価な装備やアイテムが奪われている点からも、充分妥当だよな、それは」
「うん。自業自得ですけどね」
シルバ達が一番不自然に感じた点は、まさにそれである。
当然ながらグロッグや他の冒険者達だって考えただろう。
けれど、一体誰が、となると首を傾げてしまうのである。
「まあ、装備やアイテム取っていった連中の倫理観もどうかと思うけど、あまり同情は出来ないよなぁ……これ、被害届って出るの?」
一応、辺境都市アーミゼストには街の治安を守る警備隊が存在する。
犯罪の被害者達はここで被害届を出すことができる。
もしも犯人が見つかれば、法の裁きと共にその被害を幾分かは取り戻せることもあるのだ。
「被害届は出ないでしょう。出せる人間がみんな、死んじゃってるんですから」
「だよなぁ……でも、俺達でも、その盗んでいった奴の目星は付けておいた方がいいと思う。あまり感心できる手段じゃないしな」
「ですが、どうやって? 装備やら何やら奪ったと思しき者……いえ、者達は、普通に考えて自分達の痕跡を消しているでしょう。あ、ちなみに複数にしたのは、一人で死体を剥いで持ち去るには、少々量が多いと判断したからです」
「うーん……それなんだよなあ」
二人揃ってしっくりと来ないのは明らかなのに、その先となると行き詰まってしまう。
などと眉をしかめ合っていると、盗賊小僧のカートンが近付いてきていた。
「つーか、二人して何の話してるのさ」
「おう」
「えらく、そっちの狐耳のサムライが気にしてたみたいだぞ」
カートンは少し後ろで様子を伺っていた、キキョウを指差した。
聞こえていたのか、ピンと尻尾を立てて、駆け寄ってくる。
「そ、そそそ、某はそんなつもりはなくてだな。ただ、二人して難しい顔をしていたから、何の相談をしているのかと……」
「それを、気にしてるって言うんじゃねーか」
シルバは言い合う二人に、事情を説明した。
すると何事かと、他の面子まで集まってきた。
この広い空間に四人も集まって話し合っているのだから、それも無理からぬことであった。
「そういうことなら、オレ達も話に混ぜろよ。盗賊が三人もいたら、何か手掛かりが分かるかも知れない」
「に」
ちなみにカートン、リフ、もう一人はクロエである。
「そういう事なら、僕らも話に参加させてもらうかな。ねえ、ヒイロ、タイラン」
「だねー。何も分からないかもしれないけど、もしかしたらって事もあるし」
「は、はい……何かお力になれるかもしれませんから……」
「んじゃまあ……もう一回説明するのも面倒だし、『透心』で情報をまとめようか」
シルバは全員に、クロエと話し合った内容を共有してもらうことにした。




