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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
第三層の古代遺産
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お水をどうぞ

あけましておめでとうございます。

明日から通常更新に戻りたいと思います。

今年もよろしくお願いいたします。

 気晴らしの散歩から戻ったシルバは、一通りの鎮魂を済ませた。

 まだ残っているらしいが、それはまたある程度、揃ってからということになったのだ。

 なので、シルバはここまで来るのに頑張ってきた冒険者の世話を見ることにした。

 といっても、大したことではない。

 鱗の籠手から水をくみ出し、身体を休めている彼らに配っているだけである。

 こういう場所だと水は貴重だ。

 なので、大変ありがたがられた。


「仕事ですから」


 あまり、司祭らしくない返しをしながら、眼鏡を掛けたシルバは精霊達にも囁きかけていた。


「……ああ、うん、そうそう。もうちょっといい感じに踊ってくれると暖まるかなあ。疲れたら、俺の持ってる水飲んでくれて構わないから」


 そんなことを呟きながら、シルバは適当に練り歩く。

 しばらくすると、冒険者の何人かがウトウトし始めた。

 それと、仲間の冒険者が見咎める。


「おい、いくら何でもダンジョンの中だぞ」

「疲れてるんなら、休めばいい。ここに集まってるのは、そういう連中なんだから」


 シルバは言って、まだ起きている冒険者達に水を配った。


「ありがてえ。……まあ、正直、妙にこの辺りの居心地がよくて、俺も眠っちまいそうなんだが」

「そうそう、空気がやけに暖かくてなあ……」


 言っている彼らも、次第に船をこぎ出していた。

 怪我人の数も大分落ち着いてきたらしい。

 ならば、後は体力の回復だ。

 そういう意味では、睡眠は実に効率的なのである。

 シートの周囲をノンビリ歩いていると、何だか見覚えのある小柄な鬼っ子が早足で動いているのを見つけた。


「……俺、ヒイロにも休んどけって言ってたような気がするんだけどなあ」


 重なった粥の器の載ったお盆を運んでいるヒイロを、シルバは呼び止めた。

 一応戦闘には参加していたが、割と自重してもらっていたはずだ。

 ……いや、むしろだから、体力が有り余っているのだろうか。


「だってさー、みんな働いてるのに、自分達だけ休憩って何だか落ち着かないんだよ」

「ま、働きたいんなら助かるけどな」


 言って、シルバはヒイロの髪をガシガシと掻き混ぜた。


「うん。あははくすぐったい」

「ほんじゃま、しっかり仕事してこい」

「うん!」


 軽く背を叩くと、ヒイロは駆け出した。

 ……こけたりしないだろうな、とシルバはちょっと心配になる。

 そんなヒイロの背中を見送っていると、不意に後ろに気配を感じた。

 振り返ると、キキョウが少し弱った顔で立っていた。


「シルバ殿。某にも何かできることはないだろうか」


 不安そうに、尻尾をゆらゆら揺らしながら訊ねてくる。

 どうにも、手持ち無沙汰なのが落ち着かないようだ。


「……ウチのパーティーは働き者揃いだなぁ」

「うむ。実際、すっかり回復してしまい、どうしたモノかと困っていたのだ。仮眠まで取ってしまい、いよいよすることがなくなってしまった」

「うーん」


 シルバは、キキョウにできそうな仕事を考えた。

 それからふと、前にキキョウが言っていたことを思いだした。


「じゃあ、これ」


 シルバは水の入ったコップを乗せたお盆を、キキョウに渡した。


「ふむ、水であるな」

「うん、ただの水」

「これをどうしろと?」

「女性冒険者達に『ご苦労だった。復路もよろしく頼む』って微笑め」


 シルバはグッと親指を立てた。

 これには、キキョウも苦笑いだった。


「……いやいやいや、シルバ殿。それはさすがに」

「笑ってるけど、多分普通に効果あると思うぞ?」


 割とガチで、と思うシルバであった。

 お盆を両手に持ったキキョウが、天井を見上げて唸った。


「ぬぬぅ……シルバ殿がそういうのならば、仕方あるまい。もとより仕事をくれと言ったのは某であるしなあ」

「うん、じゃあ頼む」


 しかし、キキョウはその場を動かなかった。


「うん?」

「や、シルバ殿。その、某の頭も撫でてもらえると、さらにやる気が出るのだが……」


 赤い顔をして言うキキョウに、シルバは唸った。

 ……どうやら、ヒイロにしていたのを見ていたらしい。


「……ちょっとだけだぞ」

「う、うむ」


 キキョウと一緒に広間の隅に移動する。


「じゃあ、頑張って仕事行ってきてくれ」

「う、うむ」


 嬉しそうに耳と尻尾を揺らす、キキョウだった。


「……何やってるんだい、君達は」

「わひゃうっ!?」


 いつの間にか近付いていたカナリーが呆れたように言い、キキョウは文字通り跳びはねた。

 そして、すごい勢いで走り去っていった。

 残ったのは、手ぶらになったシルバとカナリーである。


「よし、カナリーもやろうか」

「今の怪しげな儀式をかい」

「そうじゃなくて、お水の配給」


 シルバの要請に、カナリーは目を細めて呆れた顔をした。


「……君ね、貴族である僕にウェイターの真似をしろというのか」

「俺としては、期待には応えるべきじゃないかと思う。……というか、なんかあっちからの圧がすごいんですけど」


 シルバは、休憩を取っている冒険者達を見た。

 数人の女性冒険者がこちらをジッと見ているのだ。

 いわゆる『カナリー派』である。

 そしてまさか、カナリー本人に頼む訳にもいかないからだろう、シルバに圧が向けられるのは仕方のないことなのであった。


「まあ、人数なんてしれてるからいいけどさ」

「あ、ついでにヴァーミィとセルシアも貸してくれないか」

「男ってのは、単純だねえ」


 やれやれ、とカナリーは首を振った。

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