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秋の空と終わり  作者: くりふぉと
4/4

4.終わりの空

「後悔しているのか?」


 そうだな。やらないで後悔するより、やって後悔した方がいいという言葉があるけれど——やはり、その説には賛同できない。


「よく考えてみろ。人間である以上、いつかは肉体的な死を迎える。結局、人々・世界に記憶を残す為の装置のようなもの。


 記憶・経験・知識の積み重ねでしかない。人間の時間感覚に準ずるなら果てのないように感じるかもしれないが——この星だって、そこに住む生命だっていつかは終わる。


 それだったら、人生何をしても無意味なこと、などとお主は思うのか? 最後に残念な結末になろうとも——挑戦したことは何かしらの形で残るのだ。


 物語は残る。誰かに語り継がれる。決して無駄ではないのだ」


 慰めのつもりなのだろうが、何も慰めにならない。あるのは——苦い後悔という感覚のみ。


 ◆


「さて。そろそろ、だろう。中々楽しかったぞ」


「……確かに、刺激的ではあったかもしれないな」


 輪郭から、黒い破片が漏れ出す。

 さらさらさら、と。


 もう戯れの時間は終わりだ。


 ウイルスプログラムの起動。

 その場での消失は免れたが、結局ケルビムによる剣には、時限ウイルスのプログラムが刷り込まれ――それを結局解除することが出来なかった。


 ここはサイバー世界で、VRゲームの世界のようなものだけど、唯一違うのはセーブポイントからのやり直しが効かないこと、と言っていいかもしれない。


 痛みはない。不快感もなにもない。

 どうせ、存在自体無くなってしまうのだ。


 今更取り乱すことなんて、面倒くさい。

 それはもう十分したのだから。


 秋晴れに、紅葉。

 肌に当たる風が心地よい。


 秋は好きだ。

 もうすぐやってくる、「終わり」の1つ手前のステージであり、それが来るまでは不安を忘れさせてくれる。


「あ」


 がくん、と膝を折る。

 足元に力が入らない。

 ばた、とうつ伏せに倒れる。


 彼女も同じく伏せている。

 もっとしぶといかと思ったら、思いの外あっさり死んだようだ。


 僕をまた一人にさせて……相棒だと勘違いした僕が馬鹿だった。

 ああ……。


 でも自分は、まだ終わりたくない。

 終わりは怖い。


「せ……」

 せめて。


 精一杯、力を振り絞って。

 仰向けになる。


「はあっ」


 息をするのも一苦労。


 だがよかった。

 最期にどうしても見たかった、秋晴れの空が見ることができた。


 冬の一歩手前の秋という季節を象徴するこの光景は。

 まだまだ、未来を見据えてもよい、と言ってくれるような。

 そんな感じがした。


 秋の空に対して、こんな感性を持つのは多分、自分くらいだろう。


 ……だが、永遠は結局存在しない。

 終わりの時間だ。


 視界が徐々に白に染められる。

 まるで雪が視界を侵食するよう。


 終わりが来た。

 終わりが来た。

 終わりが来た。


 ……身体が寒い。

 もう、この身は生命としての機能を取り戻せなくなるほどの崩壊の段階に至ったのだろう。


 冬は嫌いだ。

 ただ、終わりを迎えるのだから。


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