表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秋の空と終わり  作者: くりふぉと
1/4

1.カフェシーン

短編執筆企画向けに書いた作品となります。


規定・お題

・1000~4000文字以内の短編

・秋

・女神

・リンゴ飴

 秋は好きだ。

 理由は複数ある。過ごしやすい気候、ほどよい大気の涼しさ、か細い自分の身体を誤魔化せるファッション、紅葉、哀愁感。


 上手く説明できないけれど、なんだか秋は自分にとって心に余裕が持てるような。

 そんな気がするのだ。


 逆に冬は嫌いだ。

 寒いし、着替えが面倒だし、朝は起きるのが億劫だし、体調を崩しやすいし、そういった自分の弱さに直面することになる。そして陰鬱な気分になる。


 春夏秋冬の一番最後。終わりというのが何より嫌なのだ。


 そういえば、何でこんなに終わりを嫌ってたのだろう?


 いや。

 もうその自己分析は終えていたはずだ。

 先日の件のせいで、うっかり忘れていた。


 小学生の頃。

 大好きな父親がいた。


 職業はジャーナリスト。

 笑顔を向けてくれていたことは間違いないが、どこか疲れた表情も幼いながら感じていた。


 そして死んだ。

 いっときの幼い頃に楽しい時間を提供してくれていた父が急にこの世界からいなくなった。お父さん、と呼ぶと喜んで頭を撫ででくれた父が。


 あの時から、僕の中の世界観ががらりと変わったと思う。

 どんなに楽しい時間を過ごしても、親しい中になっても必ず終わりが来る。


 そんな、悲しい事実を知り、葬式を行なった冬を過ごしてから、冬は嫌いになった。

 逆に、秋はそれが来るまでの猶予期間のように好むようになったのだった。


 とはいっても、笑うことを忘れたように、それ以降ずっと一人で過ごす日々が続いた。本やPCモニターの前で知識を吸収することは楽しかったし、知的欲求を刺激できたが——ただ、それだけなのだ。


 いくら知識・情報をインプットしたところで、それを活用できなければなんの意味もない。父が死んだ原因を追い求める中で、この世界のことも深く知るようになったわけだが——知れば知るほど自分は無力で、なんの取り柄もない非力な学生である事実が突きつけられるだけだった。


「ふぅ」


「今日のブラックコーヒー」を飲み干す。

 茶色を基調とした某カフェチェーンの内装、流れるクラシックピアノのBGM……そんな空間で愛読本を読むこの時間は至福のひとときだ。


「さて」


 ここで過ごす時間の終わりが来た。

 椅子を後ろに引いて立ち上がる。


 この後のことを、しっかりと記憶に刻もうと決心する。

 店員すら存在しない、無人のカフェを後にしながら————

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ