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岡部涼音 朗読シリーズ 涼音色~言の葉 音の葉~

失われし恋、甦りし心

作者: 風音沙矢

01

恋を失って、道しるべも無くした。

僕は、どこへ向かえば良いのかな。

君と生きて行くことが、夢だったのに。

笑っちゃった。

今頃気づいたよ。

儚いって、人の夢って書くんだね。

ほんとだ。儚い恋だった。


呆然と立ちすくむ僕に、

誰かが言った。

傷ついた心は、いつか、きっと再生される。



02

「恋って、しんどい。」

ぽつりと、君が言った。

「世界中の人に、愛されたいわけじゃないのに。」

ぼくは、うんと声にならないまま、頷いた。

「たった一人でいいのよ。」

膝を抱えて、今にもこぼれそうな涙を浮かべて、

「あの人に、愛されたかったのに………」


思わず抱きしめそうになる手を握り締めて、ぼくは、心の中でつぶやく。

「たかがそれだけのことが、むずかしいんだよな。」



03

「今日の夜空は、曇っていて、

  きれいな星は見えないけれど、それでもいいじゃない。」

「きれいな星は、いつでも雲の向こうにあるのよ。」


「そうですね。」

貴女は、僕が何に落ち込んでいるのか知らない。

貴女が、失恋をした相手だとは知らずに、

呑気に、でも、やさしく、励ましてくれる。

「きっと、見れる時がくるわよ。」


良かった。こんな夜で。

貴女が夜空を見上げながら励ましてくれる横顔を、

せつなそうに見つめる僕のことを、

通りすがりの人にさえ、見られたくない。

-畜生! 俺はこれからも、後輩のままか!-


もう一度、空を見上げた。

そう、貴女が見上げているから。



04

金曜日の夜、赴任先から帰ってきた。

昨年10月から遠距離に配属になって、

なかなか会えなくなっていた君に会いたくて、

最終の新幹線に飛び乗って、無理して帰ってきた。

駅から走って、息を切らしながら、君の部屋のドアホンを鳴らす。


「まだ帰っていないのか。」

諦めて、帰りかけた時、エレベーターのほうから君の声がした。

「えっ、誰?」

君の隣にいるのは?

驚きで、声も出ない。

でも、バカなプライドだけは、こんな時でも働くらしい。

「君は、寂しくなかったんだね。それなら安心だ。まあ、元気でいてくれ。」

精一杯の作り笑いで、エレベーターへ向かう。


マンションを出て、駅へ向かう途中の公園で、缶コーヒーを買った。

一口飲んで、天を仰ぐ。

目に飛び込んできた、月明かりの下、満開の桜。

「俺、何にも見えていないんだなあ。」


そう、この時期、桜は満開だと言うことも、彼女のことも。

これじゃあ、しょうがないか。

苦笑して

缶コーヒーをいっきに飲みほし、駅へと歩き出した。



05

「せつない」

忘れてた。

そんな気持ちを。

こんなに、胸が痛くなることを。

ぎゅっと、誰かに心臓を鷲掴みされて、息が苦しい。

水の中に沈んでいくような感覚。


何時からだっけ、君を好きになったのは?

そして、いつからだっけ、自分の気持ちに封印したのは?


この間、仕事帰りに、久々にやつから「会えないか?」てLINE来て、

「いいよ」ってかえしたけど、

まさか君もいっしょだったなんて。

「なんだよ、改まって二人で、何の報告?」

いやな予感がしたから、ほんとは、知りたくなかった。

「あのさ、10月に結婚することにしたよ。おまえに最初に報告したくてさ。」


その後、裕人と君が、楽しそうに話ていても、声は耳に入ってこない。

時折、ちょっと照れているやつを見ながら、うれしそうに話している君が幸せそうだ。

それは判るが、なにも心に届かない。

ぼんやりと、二人を見ていると、

「どうした?」

裕人が、俺をのぞき込む。

「えっ?」

「スピーチだよ。お前にスピーチ、頼みたいの。」

「………。」

「良いだろ? お願いします。」

やつが照れ笑いとともに、頭をさげた。

おれは、反射的に、

「だめだ!だめだよ。」

「どうして?」

「どうしてって、ダメだよ。ごめん、お前たちのこと祝福できない。」

二人が顔を見合わせている。

「そうだよ。おれは、聡美が好きなんだよ。昔から、そして今でも。」


店を飛び出した俺に、神様は味方してくれない。

降り出した雨が、容赦なく肩を濡らす。


「せつない」

忘れてた。

そんな気持ちを。

いい年してさ、笑っちゃうよ。

こんなに、胸が痛くなるんだぜ。

ぎゅっと、誰かに心臓を鷲掴みされて、息が苦しい。

水の中に沈んでいくような感覚。

雨の中、後悔でどろどろと渦巻く自分の気持ちを持て余しながら歩く。

はやくアパートに戻りたいと思っているのに、ただただ、歩いた。

気が付いたら、国道の陸橋の真ん中で叫んでた。

「ばかやろうー!」

「俺は、何をやっていたんだー!」

ビュンビュンと走り抜けていく車の騒音は、

心の傷も、怒鳴り声も、かき消してくれた。


気づけば、雨がやんでいる。

何もしてこなかった自分が、笑える。

これからもずっと、良い人を続けるくらいなら、これで良かったんだ。

あいつなら、

「最大の誉め言葉だよ」って、笑ってくれるさ。


裕人に「ごめん。スピーチ、やらせてください」そう、LINEして

見上げた空は、都会には珍しく、星が瞬いていた。



失われし恋、甦れ、心。

傷ついた心は、いつか、きっと再生される。

そう、信じて、歩き出せ。


最後まで、お読みいただきまして ありがとうございました。

よろしければ、「失われし恋、甦りし心」の朗読をお聞きいただけませんか?

涼音色 ~音ノ葉 言ノ葉~ 第7回 失われし恋、甦りし心 と検索してください。

声優 岡部涼音が朗読しています。

よろしくお願いします。


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