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廃墟のただ中でお話なんてありえないわ。byケレス

Ⅷ.



 エリナの放ったその問いを聞いて、セラフィムは妹たちが魔王とか呼ばれてるという話を思い出した。たかだか数時間程度前のことなのにころっと忘れていたことを恥じるも、使徒との戦闘があったし仕方いなよねと自己弁護。

 そんなことを後ろで思っているセラフィムは置いてといて、ケレスは大きくため息を吐いた。


「この街を壊滅させたのはわたしたちではないわ。と、言うよりも。貴女はどの時点のことを言っているのかしら? 廃墟になった時のこと? この街の住人の殆どがモンスターと入れ替わっていた時点でのこと? それとも、領主が使徒になった頃のこと?」


 どこか呆れ気味に言われた事実に、エリス以外の全員が息を飲んだ。


「……どういうこと?」


 ランディルとエリナに比べればまだ受けた衝撃が少なく冷静なセラフィムが説明を求めた。


「そのままの意味よ。そうね、お姉さまは勿論、そちらの二人も寝耳に水と言った感じみたいだし、順を追って説明してあげるわ。……けど、エリス」

「ん? あ! なるほど」


 セラフィムにもたれ掛かって退屈そうにしていたエリスにケレスが短く声をかけると、その意味を察したエリスが長杖をコールした。

 いきなり武器を取り出したエリスに一瞬、ランディルとエリナが身構えたが、そんなことにはまったく気づかずにエリスは詠唱を始めた。


「『とおりゃんせ、とおりゃんせ。

 これは何処への扉かしら。

 あしあと辿る扉かしら。

 いきはこわいがかえりはよいよい』」


 しゃらんしゃらんと長杖を振り回すたびに、水晶が音を弾ませる。

 エリスの謡うおかしな拍子の詠唱に併せ、五人の足元に光り輝く魔法陣が描かれていく。

 動揺するランディルとエリナだったが、二人を無視するように最後の一句が紡がれる。


「【回帰門リターンゲート】おーぷんっ!」


 瞬間。一瞬の浮遊感と眩暈にも似た不快感が全員を襲う。

 その不快感はややもせず薄れ、意識を外に向ければ。


「「なっ!?」」


 驚きの声はランディルとエリナの二人から。

 そこは既に先程までいた廃墟のただ中ではなく、燭台を光源とし、必要最低限の調度品を高品質のものであつらえた上品な部屋の中だった。


「ここは?」

「わたしとエリスが仮の宿としている領主の城の一室よ。奇跡的に無事だったスペースを改装してみたの」

「あれ? 二人の生産職系のレベルってそんなに高くないよね?」

「ああ、それは……。そうね、話すと長くなるから追々。その前に話すべきことがあるし。エリス、とりあえずそこで呆けているお客様を座らせてあげて。わたしはお茶の準備をしてくるから」

「はーい。それじゃあ、おにいさんおねえさん。こっちのソファーへどうぞ」


 ケレスは言うだけ言うと部屋を出ていった。エリスはそんなケレスを見送ると、言われた通りにランディルとエリナに声をかけて二人がけのソファーへ案内し座らせる。受けた衝撃が大きかったのか、すんなりと二人は従った。エリナはともかく、ランディルは非常に窮屈そうだが。フルプレートを脱げばいいのに、と思うものの、何かしらのこだわりか事情があるのだろうとセラフィムは言葉を飲み込んだ。

 それで仕事は済んだと見たのか、エリスはセラフィムの手を取って二人を座らせたソファーの対面にある一人かけの椅子に座らせると、自分はその膝の上にちょこんと腰かけた。


「すごい自然に座ったね」

「だめだった?」


 苦笑しながら言うセラフィムに、エリスはしゅんとなって上目づかいに問いかける。

 セラフィムは返答の代わりにエリスを軽く抱き締めるようにして、自分の胸元に寄りかからせた。エリスは表情をころりと変えて、心の底から嬉しそうに笑みを浮かべる。


「あらあら、またなのかしらお姉さまにエリス。さっきからちょっと贔屓が過ぎるのではなくて?」


 和んでいる姉妹二人の背後から、そんな言葉が降ってきた。

 あ、やべ。とセラフィムが振り返ると、案の定、こめかみの辺りをヒクヒクさせているケレスがティーセットを乗せたトレーを手に立っていて。


「は、早かったねケレス」

「ええ、慣れておりますもの。それより、早いとなにか不都合が?」


 トゲトゲしい言葉にセラフィムは慌てて首を横に振る。

 これ以上ケレスを不機嫌にさせるのはよくない、とセラフィムは断腸の思いでエリスを膝から降ろそうとするも、当のエリスがセラフィムの腕をホールドして降りることを拒否している。


「お姉さま、ケレスの淹れるお茶はとっても美味しいのよ」


 あげくエリスはそんなことを言う始末。セラフィムがおいまじかこの娘、と空気が読めてないことに戦慄するも、よく見るとエリスはケレスの方を見ないように努めている様子。どうやら先程の台詞はエリスなりのフォローのつもりらしい。


「ええそうね。美味しいでしょうね。わたしを出し抜いてお姉さまのお膝の上で味わうお茶は」


 トゲが増した。どうやら火に油を注いだようだ、とセラフィムとエリスは思うものの後の祭りである。

 それでもケレスは、ソファーと椅子に囲まれたテーブルの上に、言葉通り慣れた手つきで人数分のカップを置いてお茶を淹れていく。


「お姉さま、プラス1よ。それとエリスあとで覚えてなさい」


 ケレスはそんなことを二人の耳元で囁いて、空いている椅子に腰かけてカップに口をつけた。

 プラス1とはそのまま願い事の数が増えたのだろうと予測したセラフィムは、どうかそのお願いが無理難題で無いようにと誰にともなく祈った。

 そしてエリスは冷や汗をかきながらも、セラフィムの膝の上から降りるつもりはないようであった。


「さて。それじゃあ一息ついたことですし、お話をしましょうか」


 その言葉に一息つけてない、と特にランディルとエリナは声を大にして主張したかったが、グッと我慢して頷くに留めた。いい加減話を先に進めたいのだ。

 まず口を開いたのはやはりエリナだった。


「それじゃあ、順を追って説明してもらえるかしら? この都市はなぜ“こう”なったのか」

「ああ、そんな話だったわね。いいわ。お姉さまがお世話になったそうだし、その恩返しに聞かせてあげる。そうね、そう、まずは――――」


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