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お姉ちゃんが本気出せばもっと速い。

Ⅲ.


 増加の傾向が見られるモンスターに備え、国家間の戦争が無期限停止となる条約が結ばれて二十年。

 頻発するモンスター被害に対抗するため。そんな理由を掲げた三大強国と呼ばれる王国、帝国、商連合の三つが周辺の国々を併呑してその領土を広げたのが八年前。

 三国は現在、共同歩調を掲げ、国家の枠に嵌まらない対モンスター専門戦闘組織『レギオン』の支部を国内の辺境に至るまで敷設し、モンスターに即応できるように配慮しているのだという。

 二人――ランディルとエリナもまたこのレギオンに所属しており、ある依頼から帰還する最中であったらしい。


 そんな話をしている三人は現在、馬でもちょっとその速さは出ないだろという速度で野を駆け山を駈け。

 件の都市へは早馬でも二日はかかるという話を二人から聞いたセラフィムは、そんなに待てないと主張した。そうは言っても距離と時間はどうにもならない。純粋な魔法職でないセラフィムは転移系の魔法スキルを所持しておらず、口ぶりからランディルは勿論、エリナも有していないとわかった。

 しかし、そこで諦め甘んじて二日という日程を我慢するセラフィムではない。

 ならば、と。セラフィムはその場で直ぐ様幾つものルーンを刻み、速力上昇やらスタミナ上昇やらなんやらかんやら。これでもかとバフを重ねに重ね、人間特急を完成させたのであった。


「いやぁ、しっかしこれだけ速く走れると気持ちが良いものですなぁ!」

「あんたなんでそんな暢気なの!? 馬鹿なの!? 死ぬの!? 死ぬわよ! コケたら死ぬわよこの速さ!」


 コケたくらいじゃ死なないでしょ、多分。とか思いながら、セラフィムはある意味でテンションが終始変わらない二人に苦笑していた。


「大丈夫ですよ、エリナさん。その為に幾つもルーンを刻んだんだから」

「おお、それですそれ。やぁ、自分は魔術師でないため寡聞にして知りませんが、ルーン魔術は不遇の謗りを受けたマイナースキルというのは誤りでしたな」

「そうよそれよ! なんでルーン魔術でこんなこと出来るのよ! 本来こんなレベルの強化は気功術とかの領分じゃないの! どういうことよ!」


 そんな風にキレ気味に叫ぶエレナは現在、ランディルに背負われていた。馬よりもよほど速く走る人間特急にオープンシートである。絶叫マシーンさながらの状況と、理不尽なセラフィムの術の効果にキレるのもさもありなんというもの。

 けれどセラフィムはテンション高いなぁ程度にしか受け取ってはおらず、苦笑しながら呈された疑問に答える。


「ルーン魔術は極めれば万能なんですよ。文字一つ一つに意味があり効果があり、それらを連ねて文を為せば、その効果や意味は飛躍し昇華されます」


 逆に言うと極めなければ万能にはほど遠く、その器用貧乏的な微妙さが不遇スキル扱いの理由でもあるのだけど。セラフィムはそんなことを内心で思いつつ。


「ほほぅ。ということは、セラフィム殿は極められた方である、と……。うーむ、その歳で……いや、亜人種の方はヒトよりも長命な者が多いという話ですし、セラフィム殿も実は……?」

「女性に年齢の話はマナー違反ですよ」

「おっと、これは失敬」


 コン、とガントレットに包まれた手を被っているヘルムに当てて謝罪するランディルに、セラフィムはクスクスと笑みを溢す。


「ルーン文字で文を為す……? それは既に大陸魔導協会で検証されて不可能だと結論された筈……。練度が足りていない? アプローチに誤りが?」


 一方でエリナは難しい顔をしてブツブツと何事を呟き、先程までのやかましさが嘘のように大人しくなっていた。


「またですか、まったく。すみませんな、セラフィム殿。エリナは一度こうなると暫くこのままでして。以降は自分がお話を承りましょう。とは言え、自分は学がないもので、エリナ程に応えられるかわかりませんが」

「いえ、そんな。ありがとうございます」


 恥じ入るように頬を掻くランディルだが、その手はやはりガントレットに包まれており、頬もまたヘルムの面頬に阻まれてガリガリと擦っているようにしか見えない。

 そんな彼の仕草が少し面白くて、セラフィムはちょっとだけ笑った。



 その後も自分の世界に入ってしまったエリナを脇に、セラフィムとランディルは質疑応答めいたやり取りをしながら走っていた。

 冗談みたいな速さで走っていることを除けば、三人の道程は和やかな雰囲気に包まれていた。

 けれど、日が稜線に触れ、ようやく件の都市が見えようかという距離に差し掛かった所で、その雰囲気は霧消する。

 

「あれは……っ! セラフィム殿!」


 件の都市から煙が上がっている。その事に一瞬でも気を取られたランディルは隣で走るセラフィムの気配が変わったことに気付くのに一拍を要してしまう。

 その一拍の間にセラフィムが音を超えて飛び出していき、ランディルの声は次いで発生した衝撃波の爆音に掻き消された。


「くっ! なんという……」

「つぁ……。な、なによ今の!?」


 衝撃波に吹き飛ばされぬように踏ん張り、驚愕の面持ちで呟くランディルと、ようやく自分の世界から戻ってきたエリナだけが取り残される。

 目的地であり、現在は廃墟である筈の都市からは幾つもの黒煙が立ち上ぼり、大勢の人の気配と、無数の、多様な音が響いていた。


上手く切れなかったため、今回少し短かったことにはご容赦を。

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