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準備フェイズ終了

ⅩⅩⅨ



 セラフィムたちが街へと帰還したのは陽が完全に沈みきり、夜の帳が下りてからだった。

 あれから数頭のガントレットリザードを討伐した三人は、その後も暫く散策しながらエンカウントしたモンスターを尽く殲滅していった。

 動く度、戦う毎に動きに精彩さが増していくことを、見守っていたエリスケレスは勿論、セラフィム本人も自覚していた。

 どの程度の力を込めて、どのように動けば良いのかが解るようになり。

 自分が思い描く動きが、ゲームのアバターとしてのセラフィムの動きが次第に完全にこなせるようになっていく。

 そればかりか、ゲームの時はゲームとしての限界が故に行えなかったような無茶な動きも可能なことが実感できたのは大きい。

 途中からはルーンとエリスによるバフによって飛躍した身体能力を遺憾無く制御してみせた。

 しかし、その結果。調子に乗ったセラフィムと、すごいすごいとはしゃぐエリスは完全に出来上がってしまい、そんな二人を御することを早々にケレスが放棄したため夜半になるまで街への帰還が遅れてしまったのである。


「ごめんね二人とも、私がついつい調子にのっちゃったせいで」

「ううん、あたしもはしゃいじゃったし……」

「はいはい反省会は後よ。わたしお腹空いたし」


 目的は達成し、それ以上の成果すら上げたにも関わらず意気消沈する愛しのお姉さまと愛らしい半身に呆れたような口調で注意しつつも、背を向けて先導するケレスの口角は不気味に上がっていた。


(なんでかしら? 二人のあの表情が、すごくイイわ)


 しょぼくれた二人の表情にケレスの胸が何故か高鳴る。本音を言うと、涙とか流しているとよりイイ気するもしていた。

 この感情は、気持ちはいったい……。と、新たに目覚めつつある自分の感情に戸惑いつつも、必ずやこの気持ちの正体を突き止めようとひっそりと誓うケレス。

 そんなことも知らずに今日の自分の浮かれっぷりを反省していたセラフィムだったが、心中では半ばを充足が満たしていることを自覚していた。

 これでもう、並大抵の敵は驚異ではないと確信したからだ。とは言えそれはあくまで並大抵、という前提のもの。

 これは詰まるところ、それ以上の相手には未だ不安材料があるということでもある。

 例えば、それは同レベル帯のプレイヤー。

 例えば、上位の『使徒』。

 これらが相手の場合、果たして現状(いま)でどこまでやれるのか。

 成果があった。当初の懸念。ゲームと現実の齟齬をある程度以上に払拭できたからこそ浮かぶ懸念。

 今日の反省三割。充足感を五割。残りの二割に一抹の不安を覚えながらも、それを覚られないように気をつけながらセラフィムは先導するケレスの小さな背を眺めた。


 どの街でも言えることだが、基本的にレギオンの施設は常に開いている。

 理由は簡単だ。夜行性のモンスターが存在する以上、夜だからといって閉めることが出来ないからである。これは兵士たちの詰め所にも言えることだ。

 そんなレギオンの支部所にやってきたセラフィム一行。夜半も過ぎた時間だからだろう。酷く閑散とした室内では、数人の男たちが端の方でテーブルを囲いカードゲームに興じているだけで他の利用客の類いは居ないようだった。

 そんな男たちを尻目に、三人は受付へと向かう。普段ならば数人が詰めているカウンターも今は一人のボーイ風の優男が椅子に腰掛け読書をしているだけだった。


「すみません」


 余ほど読書に熱中したいたのか。優男はカウンター越しに目の前に立ったセラフィムたちに気付くそぶりがまるでなかった。仕方なく、セラフィムは声をかける。


「……ん? おっと、これは失礼を。こんばんはお嬢様方。こんな夜闇の中をお三方だけでお越しとは……。さぞや不安だったでしょう。ですがご安心を。我々にご依頼頂ければどんな問題も立ち所に解決せしめてみせましょう。……して、どういったご用件で?」


 慌てるでもなくわざとらしい程に優雅な所作で本に栞を挟みながら立ち上がった優男は、芝居がかった口上と大袈裟な身振りでもって三人へとそんなことを宣う。

 数秒呆気に取られ、朝にでも出直そうかな、とちょっとだけ思ってしまう。

 そんな感想をセラフィムが抱き、ケレスに至っては額に小さく青筋浮かべていることに気付かない優男は、とどめとばかりに無駄に白く輝く歯を見せながら微笑んで見せた。

 うわぁ、とセラフィムが引いていると、後方から複数の舌打ちの音が聞こえた。

 何となしにそちらを伺うと、カードゲームに興じていた男たちが酒とおぼしき瓶を煽ったり貧乏揺すりしたり、あからさまなまでに苛ついているようだった。

 次いで再び優男に視線を向ける。

 そして数瞬の後、「ああ、ひがみか」と身も蓋もない感想を抱く。


「鑑定をお願いしたいのー」


 微妙な空気の中、良く言えば明るい。悪く言うと空気を読まないような間延びした声音が響く。エリスである。

 エリスはいつの間にか引っ張ってきた椅子に膝立ちになりながら、今日の大立ち回りで収集したモンスターの部位をバインダーからゴロゴロと取り出していく。

 見る者が見れば……というか大抵の者なら目を疑うような光景だが、優男はその芸風を乱すことはなかった。


「これはこれは、リベリオンの方でしたか。申し訳御座いません、お嬢様方のような美しく可憐なお方にお目通り願うことが少ないため、どこかの貴族のご令嬢かとばかり……。大変失礼致しました。すぐに鑑定をさせていただきますね。こちらで以上で御座いますか?」


 余裕と品位に満ちた対応には微塵も陰りはなく、柔らかい態度で確認までしてくる始末。

 昨日の受け付け嬢とかとはえらい違いだな、とセラフィムは内心で目の前の優男の評価を胡散臭い男から、落ち着いた男へとランクアップさせていた。

 セラフィムとケレスは促されるままに収集した部位を提示していく。


「これほどの量ですと些かお時間を頂くことになります。このままお待ちになられますか? なんでしたら、明日の朝ということでも構いませんよ」


 にこやかに問う男にこのまま待つことを伝えると、了承の意を伝えそのままそれらの部位を中空へと浮き上がらせて奥へと消えていった。

 どうやらそれなりの魔法職であったらしいと、セラフィムは内心で関心しつつ空いているテーブルに三人で座って待つことにしたのだった。

 待っている間に件の男たちからゲームに加わらないかと声をかけられたが、セラフィムはやんわりと、ケレスは慇懃無礼にはね除けた。

 そんな中、何故かエリスは男たちの誘いに乗ってゲームに参加。難色を示すセラフィムだったが、何かを察したらしいケレスが取り成し、それならと渋々引き下がった。

 それでも心配だったセラフィムはチラチラと様子を伺っているが、次第にその必要はなく、また妹たち二人の思惑にも気付いた。


 感想を一言でまとめるなら、死屍累々。

 幸運値(ラック)の高いエリスが運要素の高いゲームで負けることはほとんど無く、後衛職とは言え二百レベルオーバーの動体視力を出し抜いてイカサマすることが叶うこともなく。

 部位査定が終わる頃には、男たちは虚ろな表情で天井を見上げ、あるいは突っ伏していた。


「やりすぎなんじゃない?」

「いいえ、自業自得よ」


 査定によって得たお金とは別に、巻き上げ尽くしたお金も片手に言うセラフィムへケレスは素っ気なく返した。

 その時に咄嗟にケレスが気を逸らしたためセラフィムは気づかなかったが、男たちはエリスへと割りと擁護できない類いの賭けを持ちかけていたのだ。

 当初は軽く暇潰しをする程度だったエリスは咄嗟にケレスへと目配せ。気付いていたケレスは頷きを返し、エリスは何もわかっていない風を装い賭けに了承。

 そんな顛末である故、やりすぎと言うことはないというのが妹たちの語らざる理由だった。

 そんな二人の様子に、基本的に妹たち至上主義なセラフィムもまぁいいかと直ぐに思考から追い出した。

 そんな風に、その日は幕を降ろしたのである。



クソ程期間が空いてしまい申し訳ないです。

これからは不定期でもどうにかこうにか余り期間を空けずに投稿していきたいと思います。


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