お姉ちゃんは妹たちの情報を手に入れた!
Ⅱ.
「いやぁ、あの援護魔法と言い最後の技と言い、見事なものでしたな。有翼種の方々は天使の末裔であるという伝説は、あながち間違いではないのでは、と思いましたぞ」
「はぁ? あんたそんな教団の戯言を信じてるの?」
「いやいや、戯言と断じるのは如何なものでしょうな。真に迫る伝承は各地にあると言いますし……」
「それこそ教団のプロパガンダか何かでしょ。アタシの知り合いの翼持ちは、この娘ほど凄くないわよ」
「いやいや、私なんてそんな」
お互いに自己紹介を済ませ。
お礼と謙遜の応酬を行い。
セラフィムが聞きたいことがある、と話を切り出したのはそんなやり取りが一段落してからであった。
「助けて頂いた恩がありますからな。なんなりとお聞きください」
「そうね、助けてくれた分くらいは答えたげるわ」
「ありがとうございます」
快く応えてくれる二人に笑顔で礼を述べるセラフィム。内心ではオーガとかゴリラとか、そういうあれな暴れっぷりを見せていた男性が意外に紳士的な態度で若干動揺していたり。ちなみに、女性の方がどことなくやさぐれた印象なのは最初からなので割愛。
思考の片隅では未だに消失することなく肉片や屍を晒し続けているゴブリンの死骸に、ここが現実であるという実感を強めているのだが、そんなことはおくびにも出さず。
「実は私、妹たちとはぐれちゃってまして。探しているんですけど手がかりがなくて困っていたのです。何処かで見ませんでしたか? 十歳くらいの女の子で、ピンクブロンドのゆるふわショートと、アシンメトリーのツーサイドアップで、瞳が鏡合わせのオッドアイなんですけど。あ、あと種族が半吸血鬼なんです、けど……?」
セラフィムが妹たちの特徴を話すに従い、難しい顔をする二人。
そんな二人の様子にセラフィムも訝しげな表情をする。
「その二人のお名前を聞いても?」
「エリスケレスと、ケレスエリスですけど……知ってるんですね?」
「いや、まぁ、知っていると言うかなんと言うか」
歯切れの悪い言い方にセラフィムが瞬間的に食って掛かろうとする寸前、眉間に眉を寄せて黙っていた女性が口を開いた。
「魔王よ」
「…………は?」
告げられた予想外の言葉にセラフィムはぽかんと。
「て言うか、最近じゃあ一番ホットなニュースよ、これ。あんたは何で知らないのよ?」
「そんなに有名なんです?」
「ええ。王国一番の交易都市を一日で焦土にした、一対の美しく愛らしい幼魔王。その後に討伐に乗り出した軍も騎士団も壊滅させ、今では王国内で一番の懸賞金を掛けられているわ」
セラフィムは頭を頭を抱えた。
「えー……。その、人違い、とか」
「名前も容姿も伝わっている通りよ、ねぇ?」
「ううむ、そうですなぁ」
セラフィムはしゃがみこんで頭を抱えた。
「で、その姉であるあんたはなに? 大魔王?」
「こらこら、失礼ですぞ。とは言え、自分も気になる次第」
「普通にお姉ちゃんですよ、あの娘たちの……」
力無く返すセラフィムに、女性はふーんと肩を竦め、男性はうーむと腕を組んで唸る。
自由にして良いとは言ったが、何がどうなれば魔王なんてことになるのか。頭痛を覚えるセラフィムだったが、妹たちが一方的に悪いとか悪堕ちしたとか、そういうことは欠片も思っていない。
やむにやまれぬ事情があったのだろうとは思うが、なにをすれば都市が焦土になるのか。そんなことを思うセラフィムだったが、思い当たる節というか、実はその手段事態は妹たちが有していることを知っているだけにたちが悪いのも事実で。
「……実はね、例の都市には少し前に悪い噂がたったこともあるのよ」
女性が放った台詞に、がばっ、とセラフィムは勢い良く顔を上げた。
「噂はやっかみだろうってすぐに絶ち消えたのだけれど、火の無いところに煙はって言うじゃない?」
「その噂が妹たちが魔王と呼ばれることになった原因に関係している?」
「かもね。どう? アタシたちが道案内してあげるわよ、その都市に。なんでも貴女の妹たちかもしれないその幼魔王は、今もそこに居るって話だし」
「良いんですか!?」
「勿論。あ、でもその代わりに道中で色々話を聞かせてくれない?」
「そんなことなら喜んで!」
そんな風にセラフィムと女性とでトントン拍子に話を進めていると、話に取り残された男性が女性の肩を掴み物陰へと連行して行く。
「え、ちょ、あのー」
「お話し中にすみませんなお嬢さん。ちょっとこのあんぽんたん借りていきますぞ」
「な、こら! 誰があんぽんたんよ、このすっとこどっこい!」
「お黙りなさいこの悪女!」
「なんですってゴリラ紳士!」
わーぎゃーと互いを罵倒しながら離れていく二人を、ぽつんと残されたセラフィムはポカンとした表情で見送る。
ともあれ、思惑とはちょっと違ったけれども、幸先良く妹たちの手がかりが初手で見つかった。これは大きい。当初は手がかりの無さに焦ったが、これは風向きが良くなってきたとセラフィムは満足げに頷く。
幼魔王とか言う不穏な話はとりあえず全力でスルーしながらだが。
しかしこれは本当に運が良い。なにせ道案内として現地民の同行者が着くのだから。これは上手くやればこの世界の事を聞き、ゲームとの類似点と相違点を計れる。そんなことを考えるセラフィムがあの二人を助けたのは、何も善意ばかりが理由ではない。何かしらの手がりにでもなれば。そんな打算があったのである。
同様に、セラフィムは女性が親切心で道案内を買って出てくれた、なんて甘っちょろいことを思ってもいない。それがなにかは解らないが、向こうは向こうで何かしらの思惑があるのだろうことは想像に容易い。だが、セラフィムにそれを咎める気も、そのことに気を悪くするような精神性もないのだ。
利用し利用され、それで互いが互いの利を得られるのならばそれで良い。もしそれで何か不都合、害がるのなら。
(その時は……、その時考えればいっか)
セラフィムがぼんやりとした顔でそんなことを考えていれば、どうやら話がついたらしい二人が戻ってきた。
ちょっとだけ佇まいを直したセラフィムはにっこりと笑みを浮かべ。
「じゃ、道案内、お願いしますね」