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戦闘・もたげる懸念

ⅩⅩⅡ.



 セラフィムはもぎ取った鎧の左腕部を、ミドガルズオルムを空打つことで放り出した。


「見たわねエリス、ケレス! なんてこと、アレはデュラハンじゃないっ! アーマード・レイスだ!」


 舌打ちするように吐き捨てたセラフィムは伸長したミドガルズオルムの連結刃を手繰り寄せ、元の長剣状態に戻すと素早く虚空にルーンを描きミドガルズオルムに炎属性をエンチャント(付与)する。


「対物、対魔防護バフ重視でいくね!」

「燃やし溶かしてあげる」


 エリスとケレスも首なし鎧の正体を知ったことで使う魔法を切り替え、詠唱を行っていく。

 デュラハンもアーマード・レイスも同じアンデッドだが、その性質が異なる。デュラハンは謂わば首が無いという致命的な部分を除けば、その性質は寧ろ武器を持った人型のモンスターのそれと大差ない。アンデッドとしての特徴らしい特徴など、出現ポイントがアンデッドと同じである点くらだろうか。

 一方でアーマード・レイスは、アンデッドの中でもゴーストタイプと俗称される非物質系を本体としながら、物資系をも両用している厄介なタイプのモンスターだ。倒しきるには入れ物である物質、今回ならば鎧を破壊し、その後中身のレイス――幽霊を倒さなければならないのである。とは言え、中身の無い鎧をパーツ毎にバラバラにすれば言いという話でもない。むしろその場合はパーツ毎にバラけた鎧をポルターガイストさながらに操作し、しかもそれらのどこに本体が潜んでいるか解らずに翻弄され無駄に疲労を強いられるようになる。そんな嫌らしい性質を備えたのが、アーマード・レイスである。

 そして、ないより厄介なのが入れ物――鎧の特性や能力がそのまま発揮される点だ。

 殆どのRPGなどのアバターが用意されたゲームには必ず、服や鎧などの着るものが装備として存在する。そしてそれらは、

 ・インナー

 ・頭部

 ・胴体

 ・腕部

 ・脚部

 という五つが基本項目として存在する。そのゲームによってより細分化されたり一元化されたりしている場合もあるが、基本型はこれだ。

 アーマード・レイスは中身が無いからインナーは無いにしても、本体そのもののステータスや能力に加え、その他四つの装備のステータスと付属能力を反映・使用可能なのである。あたかも、プレイヤーがそうであるように。

 かててくわえて、現実での幽霊が死した誰かの魂なり残留思念であるという通説はゲームでも適用されており、大半のゴーストタイプは生前(・・)が設定されているのだ。つまり、セラフィムたちが相対しているアーマード・レイスは、オーバー二百レベルのセラフィムたちと互角に戦闘可能なレベルの戦闘技巧者の幽霊ということになる。それも、ワイバーンをテイム出来る程の。


(どういうこと? もしこの考え通りなら、誰かプレイヤーが死んで……ってこと?)


 脳裏によぎった疑問について思考する暇もなく、空中を落下していた鎧とワイバーンが再び合流を果たす。しかもワイバーンの口には器用かつ気がきくことに、避雷針として放り投げたランスがくわえられており、鎧は左腕こそ無いものの、それ以外は万全の状態に戻ったことになる。

 この間にそれほど大きな時間は空いていない。驚愕すべきはワイバーンの練度と主人に対する忠誠心の高さだろう。セラフィムにはどうもワイバーンはどう動くのが主人にとって最善かを判断して動いている節があるように見えた。

 その様にいよいよもってプレイヤー死亡とその後のモンスター化説がセラフィムの中で強くなる。


(けど、それはあと!)


 しかし、セラフィムは一度大きく頭を振ると余計な考えをとりあえず捨て置き、戦闘に意識を向け直す。

 

「『ハルシネーションスラップ』!」


 セラフィムは炎属性をエンチャントしたミドガルズオルムを再び蛇腹剣の状態にし、残像が残る程の早さで振るう。軌道上に残る残像は本体に追従すること無く、まるで己もまた本体であるとでも言うように独自の軌道を描きながら鎧とワイバーンへと迫る。

 スキル名の通り残像は幻覚でしかないが、それでも当たり判定があり、ヒットすれば本体の半分の威力がダメージとなる。

 まるで檻か鳥籠のように全周包囲されながら、それでもワイバーンに逃げる様子はない。

 包囲が狭まり、その全てが強かに打ち付けられる! という段になり、ふっ、と。まるで力尽き墜ちるように脱力する。が、その直後に一度だけ空を打ち据えるように羽ばたくと、限界まで身を絞ったワイバーンと、その身を屈めた鎧は、矢か弾丸かと速度と勢いでもって前進! 極微細の隙間を縫うように疾翔し、虚実入り交じる連結刃の檻を置き去りにする。

 避けるでも防ぐでもなく、食い破るような強引さと針に糸を通すような繊細で、限りなく不可避に等しいスキルから脱したそ絶技に、セラフィムは瞠目する。

 それは普段であればともかく、不断の選択を常に迫られる戦闘時に於いてはあまりにも致命的な隙だ。

 そうと気付いたセラフィムは即座に空打った連結刃を手繰り寄せるが、その選択は誤りだった。上空の敵をも射程圏内におさめるミドガルズオルムは、近・中距離武装としては破格の武器だ。けれど、その長大さは時にどうしようもないほどの欠点となり得る。伸長すればする程に、手元へと戻るまでのインターバルが増してしまうのは自明の理。

 焦りが、セラフィムの選択を誤らせた。

 ランスを構え空気を突き破りながら直進する様は矢か投槍か。自身を武器として繰り出された必殺へと至る竜騎士の一撃は、しかしセラフィムへと直撃する手前で阻まれる。


「【サンドロックウォール】!」


 セラフィムと竜騎士の激烈な会瀬を遮るべく、足場である大地が噴出するように隆起する。瞬きの間に築かれた防壁は、砂の柔軟さと岩の硬さを備えている。

 強烈な突撃も、それだけならば減衰され耐え凌がれてしまうだろう。

 咄嗟の中でそれを理解したのか。はたまたこの展開は織り込み住みだったとでもいうのか、止まることもままならず防壁へと衝突したかに見えた見えた竜騎士は、爆音と共に砂塵を巻き上げるながらも、弾かれるように上昇。セラフィムよりも後方に居た、魔法スキル発動直後のエリスへと急降下突撃を行う。

 己の身を守った砂岩の壁と、それによって巻き起こった砂塵が目眩ましとなり、セラフィムは一時的に竜騎士を見失い、エリスの危機に気付けない。

 当のエリスも、土属性高位の防御魔法を発動した直後のため、新たな魔法を紡ぐ暇はない。


「【フラクタル・ウィンドストライク】!」


 だが、ここにはもう一人居る。

 竜騎士がワイバーンとアーマード・レイスの二体で人馬一体の様相を呈するのならば、セラフィムたちは三本の矢や三位一体のそれだ。

 後衛の魔法職は前衛が抜かれたら沈むという定説は、もはや既に過去のものであり、少なくともこの三人には通用しない。

 威力に劣るものの、全属性の中で最速を誇る風属性魔法。中でも上位よりも幾らかキャストタイムの早い中位魔法に、同一魔法を複数重ねる多重積化のスキルを併用。ケレスの放った威力の底上げが成された風の砲弾に横っ腹を殴り飛ばされた竜騎士は、その着弾地点を大きくズラされた。


「油断が過ぎるわね、二人とも」


 ふぅ、と。肩を竦めるケレス。その言葉は竜騎士へ嘲笑と共に吐かれる一方で、セラフィムへの苦言として投げられた。


「う……、ご、ごめん」


 竜騎士があらぬ場所へと誤着した爆音で、エリスが狙われたことにようやく気付いたセラフィムは、大好きな妹のピンチを見逃した不甲斐なさと、大好きな妹に叱られたことへのショックを感じつつ弱々しく謝罪を口にする。

 とは言え、セラフィムは決して油断していたわけではない。身体機能が上昇した際のゲームと現実との齟齬によってゲームと同様に(いつものように)動けないのだ。

 しかし、元々がNPCであるケレスにはセラフィム(プレイヤー)にそんな問題が生じていることなどわからない。結果、精細を欠いた動きを見せるセラフィムが油断しているように見えてしまっていた。


「反省会はまた後程。やはり、ロクなダメージになっていないみたいね」


 ケレスが言うように、空へと舞い戻った竜騎士は壮健そのもの。ワイバーンのボイスで衝撃を相殺したか、それとも鎧の方に防御スキルなりがあったか。

 そんな風にあたりをつけたケレスは、だからどうしたと心中で吐き捨てる。それならそれで構わない。本命は別にのあるのだから、と。


「どうあれアンデッドであることには変わらないもの。スタックした炎熱魔法は都合二十四。さぁ、全て差し上げますわ」


 酷薄な笑みを落とし、ケレスは自身のパッシブスキル【ディレイキャスト】と【キャストスタック】の併用によって、セラフィムが竜騎士を相手取っている間に有効だと推測される魔法をコールすればノータイムで放てる状態でストックしていた。

 鈴の転がるような声音で唄うようにコールされる魔法名。紡がれる度に、中空で態勢を整えた竜騎士へと疾る火閃の逐次発射。それはさながら罪の弾劾にも似て、竜騎士を容赦なく攻め立てた。



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