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三姉妹VS鎧&亜竜

ⅩⅩⅠ.



「エリス、作戦変更! ケースA1! エリスは対空魔法用意!」

「はーい!」

「了解よ。タイミングは任せて」


 デュラハンがランスを突きだし急降下チャージを行い、それを受けるでなくバックジャンプで避けるセラフィムに、離脱時の隙を潰すべくワイバーンはボイスを放つ。

 上空から地上へ、地上から上空へと、制空権を活用して行われるヒットアンドアウェイにセラフィムは焦るでもなく冷静に対処し、その傍らで妹たちへと作戦を命じる。A1とは所謂ガンガンいこうぜ! であり、つまりは攻撃重視のことだ。

 ケレスは詠唱していた行動阻害魔法を破棄、即座にSTR上昇系のバフをセラフィムへと立て続けに施す。

 バフにしろデバフにしろ、無制限に重ね掛け出来るわけではない。各種別毎に一つのみが有効というルールが存在する。例えば、上・中・下位それぞれ一つずつならば有効だが、同種の上位バフを二重掛けは出来ない。また、全ステータス対象と、ステータス個別対象でそれぞれ一つの枠となり、そこへ更に属性エンチャントの副次効果としてのバフもそれぞれ一枠となる。

 エリスは詠唱の早いものから順にセラフィムへと魔法を施し、それよってセラフィムの行動が目に見えてより早く、力強くなっていく。

 上空を旋回し、何度目かのチャージングを行おうとしていたデュラハン・ドラグーンへ、そうはさせじとセラフィムは跳躍、長剣による切り上げを放つ。

 デュラハンはその攻撃をランスでパーリングすべく受けるが、上昇し続けているセラフィムの膂力に抗し切れず容易くランスを弾き上げられた。だが、それを隙ではなく好機とすべく弾かれた勢いを利用して、ワイバーンはサマーソルトキックさながらの空中後転を行う。

 

「ちっ!」


 追撃を放つべく返す刃で袈裟斬りを行おうとしていたのを中断、セラフィムはワイバーンの蹴撃に刃を打ち付けた。


「くそっ、固いな」


 思わず漏れた愚痴の通り、切り落とすつもりであったにも関わらず、セラフィムの手には鱗殻を裂いたを手応えこそあったものの、肉を断った手応えは無かった。それを証明するようにワイバーンの脚は健在であり、翼を打って更に上昇へと逃れた姿には大した痛痒を感じているようには見えなかった。


「オーラ系のスキル持ち? ワイバーンのくせに贅沢な……」


 追撃を諦め、着地しながらセラフィムは吐き捨てた。

 オーラ系のスキルとは、格闘漫画によくある“気功”系のそれであり、己の肉体を武器にする徒手格闘系のジョブや、肉弾戦を行う類いの上位モンスターが使用するスキルである。特徴としては魔法と比較した場合、重ね掛けが出来ず効果時間が短いものの、即時使用が出来、倍率が高く・リキャストタイム(再使用時間)が短いことが挙げられる。それ故、ワイバーンはセラフィムの攻撃が直撃するに合わせて硬化系のスキルを使用してダメージを最小限に止めることに成功したようであった。

 だが、そんな芸当は知能が高く設定された竜種と言えど、所詮は亜竜であるワイバーンが行えるようなものではない。少なくとも、ゲームであったなら。

 敵の強度と言い、賢さと言い、人馬一体のコンビネーションと言い忌々しいとセラフィムは舌打ちする。


「【サンダラーズ・レイン】!」


 暫し睨み合うようにしていた隙を突くように、詠唱を終えたエリスが魔法を放つ。

 上空から白雷びゃくらいを広範囲に落とす雷系のその魔法は、対空攻撃魔法としては優秀な一撃である。高い所へと落ちる性質のある雷は否応なく飛行中のデュラハン・ドラグーンを目標とし、また、デュラハン自信が鋼鉄製の騎士甲冑を着込んでいるので尚更に。

 

「なっ!?」

「っ、小賢しい!」


 しかし、有効と思われた攻撃は、またしても予想外な方法によって回避される。

 デュラハンは己の唯一の武器であるランスを上空へと投擲、避雷針として身代わりにしたのだ。とは言え、必ずしも雷がソレに殺到すると言うわけでもない。そんなことは先刻承知だと言わんばかりに、デュラハンは騎乗していたワイバーンから落下するように下乗。ワイバーンはデュラハンというウェイトが無くなったことによる高速飛行で巧みに雷を躱していく。

 一方のデュラハンは着地の衝撃を前へと、つまりはセラフィムへと突撃する爆発力に変換し肉薄。鈍重そうな見た目とは相反する素早い身のこなしを見せる一方で、見た目通りの重い拳撃を打ち込んでくる。

 セラフィムは予想外に過ぎる一連の事態に驚愕しながらも、エリスによって絶えず上昇されていく身体能力をもって、やや強引に躱し、剣を打ち付けることで対処する。

 落雷の轟音が響く中、鉄と鉄が慮外の力でぶつかる硬い音が止むことなく鳴り続ける。

 長剣という得物故に距離を空けようとするセラフィムだったが、しかしデュラハンは猛烈なラッシュと脚さばきで食らい付く。恐るべきはセラフィムのレベルカンストしたステータスを、更に魔法で上昇させているにも関わらず、危うげなく対応してくるデュラハンの戦闘技能の高さか。


(いや……)


 思いかけ、セラフィムは内心でそれだけじゃないと否定する。

 今まではさほど気にならなかった事実に、セラフィムは今この段になって気づく。


(私が下手くそなんだ……!)


 それは、セラフィム・ソルフェージュという|アバター(肉体)を十全に動かせていないという事実。

 素のステータスだけならば問題はない。現にこれまで違和感を感じたことはないのだから。けれど、ステータスが上昇してしまうと、その上昇値に比例して違和感が生じ、それは徐々に大きくなってしまう。

『閃律のスペクトラム』に限らず、VRゲームのほぼ全てはシステムアシストという操作補助機能が備わっている。当然だ。ゲームプレイヤーの全てがアスリートではなく、むしろその逆である場合の方が多いくらいなのだから。だからこそ、ゲームを快適に爽快感を持って遊ぶためにも、ゲームプログラムにはプレイヤーキャラクターのステータス相応の動きが可能になるような機能が働いている。

 だが、セラフィムが今立っている此処はゲームではない。現実だ。現実に、己の動きを外部から補助してもらうなんていう機能は存在しない。どういう訳か素のステータス事態には適応出来ているが、そこからはみ出してしまうと途端に齟齬が出てしまう。

 現在のセラフィムのステータスは、エリスのバフが全て効いているために二倍近くまで上昇している。だが、実際に動かす分には三割増しが精々と言ったところだろうか。それはDEX(器用値)AGI(敏捷値)が上昇していても同様だ。むしろ上昇し、いっそ過敏と言っても過言ではないそれらに、セラフィムの意思と肉体の齟齬はより大きいかもしれない。体感する事実にセラフィムは歯噛みする。


「けど、それな――らァ!」


 何合目か。デュラハンの拳とセラフィムの剣が打ち合う瞬間、セラフィムはガムシャラに力を込めた振り抜きでデュラハンを弾き飛ばすことに成功する。

 肉体の操作にこそ齟齬が生じているが、一方でただ力むという点に関してはその齟齬も控え目なのが幸いした。とは言ってもやはり二倍には届かず六割増し程度の体感だったが、それでも上手くいったことにセラフィムは一つ息を吐き、そのまま追撃を行う。


「『逃げること能わず。【チェイシングバイト】!」


 口訣と共にコールしながらセラフィムは左手指の刀印で長剣の刃を撫で、袈裟斬りに振り下ろした。すると、長剣は刀身の窪みの部分から解れていき、鞭のようなしなりをもって伸長し、さながら獲物を追い詰める蛇のようにデュラハンへと迫る。

 一見すると長剣でしかなかったセラフィムの武器の正体は、刀身の中に魔力糸を紡ぐ細工が施された蛇腹剣だったのだ。銘を【ミドガルズオルム】。剣とウィップの複合武器であり、弓のような遠距離攻撃手段に乏しいセラフィムにとって数少ない有効攻撃圏の広い武器の一つである。加えて、ミドガルズオルム(世界蛇)の名に相応しく最大伸長は装備者の魔力(MP)に依存するため長大であり、長さが足りないという事態に陥り難い。とは言え、当然のように長くなればその分魔力を消費し、また扱い憎くなるためDEXが高くないと満足に扱うことは出来なくなる。威力は勿論、命中率が大きく下がる事態に陥ってしまう。

 だが、身体能力を十全に活かせていないとは言え、セラフィムは現在ステータスが上昇している。加えて使用したスキルは必中効果付きのものだ。

 故に――。

 地面と水平に弾き飛ばされていたデュラハンは、迫る蛇腹剣の切っ先から逃れるべく、器用に空中で姿勢を変え、地面を殴り付ける反動で上へと逃れた。

 しかし、必中効果を持つスキルはその名前の通り追跡する牙として後を追い、デュラハンの左腕を貫く。

 漸くまともに決まった有効打だったが、セラフィムはその手応えに違和感を感じた。とは言え、再びワイバーンに騎乗され人馬一体ならぬ鎧竜一体となって翻弄されては堪らない。セラフィムの視界の端では落雷の効果時間が終了しようとしていた。セラフィムは違和感を無視して追撃のスキルを放つ。


「【バイト・ザ・バインド】!」


 威力よりもスキルを即時使用することに注力すべく、口訣をキャンセルしてコールのみで行われたスキルにより、デュラハンの左腕を貫いた連結刃はその勢いのままに不可思議な軌道を描き、まるで蛇が獲物をくびり殺すように何重にも絡み付く。

 必中攻撃からの捕縛攻撃というコンボによってデュラハンの動きを封じたセラフィムは、そのまま力任せにミドガルズオルムを引き寄せる。

 自由の利かない中空で強引に引かれたことで、デュラハンの姿勢が傾いた。そのまま地面に叩きつけられ、セラフィムの元まで手繰り寄せられるかと思われたデュラハンだったが、ここでもまたセラフィムの想像を越えた事態が起きる。

 デュラハンの姿勢が傾いたのは一瞬。勢いよく引かれ、手繰り寄せられたのはデュラハンの左腕のみだった。

 そして、左腕が無くなり、中身を覗かせるデュラハンの鎧には、虚ろな空洞が見えるだけで……。



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