~ 戦者 ~
~ 戦者 ~
「俺の自由を取り戻すためにお前の自由を圧搾する。覚悟しろよ。」
その一つの掛け声はある少年から放たれた言葉だが、その言葉を向けられたある少女は不思議と表情を変えずに何かを考えているようだった。
(聞いたことある。確かあいつの能力は“材質変化”そのものだと。視界の標的そのものを変えれるタイプもいるがグローブをはめている以上武器を使うか拳闘になる。つまり能力の範囲は近接型、遠距離型の私には劣る!!)
「君の話は聞いたことがある。山城幹矢。材質変化系だろ?私の能力は触れている地面の形を操る能力だ。遠距離型だ。近接型は遠距離型に異能戦では劣る。もう一度聞く。投降しろ。」
「見えなかったのか?お前が謝れよ。今なら許してやるからさ。」
「は?立場わかってる、君?正義が屈してどうする。」
「あぁ?そうかよ。んじゃ、決裂だ。俺は俺の自由のために!!」
「私は私の正義のために!!」
「「負けられない!!!」」
その頃校長室では。
…………………バン!!!!!!!!!
「はぁ~朝から訪問者が多いと思ったが次は君かね。無月君。」
校長室の扉を壊す勢いで開ける女生徒となればこの人しかいないだろう。彼女の額は汗でダラダラだ。よほど急いできたのだろう。
「おい校長!!なぜ幹矢が粛清の相手になってる!!」
粛清の様子は校長室、職員室、生徒会室で見ることが可能である。おそらく、たまたま生徒会室に来てそれを見たんだろう。すぐそこのパソコンで分かる情報をわかっていないほど焦ってここまで来たのだろう。
「君も見たか。俺も今急いでる。粛清のフィールドは職員の過半数に証明できれば消滅できる。今その書類。証拠をまとめてる。あいつは不可抗力で異能を使った。それが芽亜君に知られたのだろう。」
「間に合うのか!!」
「いや、これが終わる前にあっちが片付くだろうね。」
「んじゃ、ダメじゃねーか!!」
「ああ、幹矢頼みな状況だね。申し訳ないけど。」
「下手したら退学じゃないか!!」
「ああ、しょうがない。だが幹矢は負けない。」
「はあ??あいつの能力を知ってんのか??私相手ならともかく相手はガイアだ。相性が悪い。近接型は遠距離型に相性がわるい!!」
「無月君、君は幹矢の過去をどこまで知っている?」
「特殊な過去があって…いやな光景を思い出したからあの大会をリタイヤした。くらいだ。具体的には何も教えてくれなかった。」
無月は少ししゅんとしている。自分が頼りないと実感しているのだろう、肩を震わせながら下を向いている。そこまで教えてくれたのに幹矢を助けることができなかった。だから彼は退学になるんだと。
「ふぅん。無月君、とある少年の話をしようか。長くなるからそこに腰を掛けてください。」
「そんな場合じゃ!!」
「いいや、君には七帝で唯一、幹矢の味方でいてやってほしいから。これは聞いてくれ。頼むよ。」
校長ががらにもなく真剣な顔なのでしょうがなくソファに腰を掛ける。
「さぁてそれは4年前の話になるのだが……
……その彼の名は“戦車”のカード保有者“戦者の山城”という。」
「…………」
余りにもスケールの大きい話に言葉に詰まる無月。それもそうだ、この話は約30分にわたっていたのを彼女は気づいていない。そして彼女が見ている現実は残酷なものだ。幹矢にかかわった一人の少女の話も聞かされたからだ。彼女の名は“魔術師”のカード保有者“氷鬼の春麗”というらしい。
「逃げるな!!犯罪者!!」
「ちっ、しつこい!!」
校長たちの話が終わる25分前、つまり粛清が始まっておよそ5分の間、幹矢は“堅実なるガイア”の猛攻から逃げ続けていた。
そのガイアは校庭の地面を使って幹矢をとらえにかかる。土柱で挟もうとしたり隙をついて岩石を飛ばしたりするがことごとくかわされる。まるでこの校庭の全体が見えているようなかわし方、次の攻撃もかわせるように計画的に。だが反撃してこない。確かに芽亜が反撃されないように距離を稼ぎながら戦っているのはある。そういう戦い方からついた異名だ。それが得意なのはなんの不思議もない。
だが幹矢が反撃してこない、というよりする意思がないのだ。あんなに計画的に自分の攻撃をかわしているのに。その計画には避けることしかなくカウンター要素が何一つ見えない。引き分け以上で予選突破する弱小運動部のとるような行動だ。それも優勝候補に喧嘩をうった。
「なんで、なんで!!!なぜ、かわされるんだ!!当たれえええええええええええ!!!!!」
祈るように叫びながら手に力を籠める。すると幹矢を囲むように地面が隆起し幹矢を呑み込む。おそらくあいつから見るとこの世の終わりを彷彿とさせるような光景だろう。
「しまった!!さすがにやりすぎた…」
あいつを生き埋めにしてしまったみたいだ。妙に力んでしまったみたいで…意識してるつもりはないのに…
「まあ、粛清だしいいか。保健室の先生と校長を呼ぶことにしようかな…」
「誰が保健室の先生の世話になるんだ??」
「ちょ、うそでしょ…。」
と校内に戻ろうとしていた芽亜が後ろを振り向くと、生き埋めにしたはずのあいつが土山の上に立っていた。何もなかったかのように。
「急に本気出すとはね…びっくりしたよ。でも君のおかげでやっとこれが届いた。これからはちゃんと相手をしてあげるよ。」
そういう彼の手には校庭に出るときに持ち出した箒があった。さっき土と一緒に流されたんだろう。そしてその彼の右手からはグローブは外され左手に握りしめられていた。
「わかった!!その右手で土石流を材質変化したのか。だからあの絶体絶命の死地から逃れられたのんだ!!」
「……ご明察だな。その通りだよ。あの一瞬でグローブを外し土を材質変化したのさ。」
「んじゃあ、続行するよ!!」
「はぁ~面倒だなあ。んまぁちゃんと相手してやるよ。」
やりすぎたか少し心配だった芽亜は曇っていた表情が晴れ、あそこまでやっても倒せなかったという不安でゆがめ、複雑な表情をしている。
対する幹矢はそんなことを言いながら気にせずに箒の穂の部分をとって柄の部分を伸ばしている。
「それもお前の能力??」
「ああ、これを一度粘土に変えて伸ばしているんだ。俺の身長くらいに。なんで説明してるんだろう。」
「便利だね。だけどそれも今日で終わり。その手のひらによる能力はもう使う機会はないね。」
「ふん一応聞いといてやるけど、お前は俺の能力を知ってんのか?もしくは把握したのか?」
「“材質変化”系ってのは聞いていたが大体わかった。手から地面についていたことからその範囲は手に直接触れたもの。手袋をつけたり外したりしていることから効果範囲はかなり狭く本当に触れたものだけだと“わかる”。」
「へぇ、“わかる”ね。まぁ正解だな。関係ないけどね。君は俺には勝てないのは覆ることはない。」
「だまれよ罪人。結局裁かれるのはいつも悪なんだ!!」
思い出したように芽亜は鬼の顔に戻る。
あれだけしても生きていることが分かった以上あの七帝は本当に自分を“殺す”つもりで来るだろう。だからこそ今持てる力をすべてぶつけなくては。
幹矢は箒を伸ばし終えると外していたグローブを再度はめなおし、穂なしの柄をぎゅと握る。覚悟したような顔で彼は再度こう告げる。
「さあ、仲良しムードはもう終わり。俺は俺の自由のために絶対負けられない。」
粛清が始まってここまで20分。
そろそろ校長室では一人の少女が死んだ話をする頃だろうか。