~ 罪の形 ~
~ 罪の形 ~
しっかり朝、早起きした幹矢は静かに家に出て澄んだ空気を吸い込む。白い空気を見て「もう冬か」と実感する。散歩している犬とおじいちゃん、釣りをしている人々何気ない朝の光景は心を安らがせる。河川敷を歩くこの通学路も嫌いじゃない。
今日は予定通りに電車に乗れた。朝の混む時間より少し前の電車だったのであまり窮屈な思いをしなくて済んだ。電車を降りて口笛を吹きながら歩いていく。今日の予定はこれから校長に会って、校門の花たちに水をやって余裕をもって授業を受ける。そこまで苦なスケジュールではない。
昨日みたいに何か起きなければ。
そう、何も起きなければ。
こう祈るのはフラグと思い、心を無にして校門をくぐる。
まぁフラグの力は強いのだろう。もう手の施しようがないんじゃないかと思うのは誰でも一緒であるだろう。
校長室を前にしてため息をつきながらノックする。
「1年山城幹矢です。用があってきました。」
「ん、幹矢かいいよ~。」
「失礼します。」
一応礼儀正しく入る。目の前には眠たそうな校長だ。30歳とかなり若くロングヘヤーなその風貌は女子に人気で性格はめんどくさがり屋だ。しかしやるべきことは必ずやり遂げるそんな人である。ハゲだの、話が長いだのいろんな校長イメージのぶち壊しで周りの学校でも有名になっている。普通に男子生徒、女子生徒から親しまれているが幹矢とはまた別の関係を築いていて特別な関係のようだ。その証に幹矢との用は優先している。だがそれは、教師陣には気づかれていないみたいだ。2人の時はお互い呼び捨てで話す関係である。
「んで幹矢、何の用だ?珍しいな。」
「ああ、実は昨日な…
ということがあってだな異能を使った。この件を今日の間に教師陣、七帝さん達に通達のこと頼んどくわ。」
「へぇ~そんなことがあったんだ。ところで気づいているか?お前。」
「ああ、政府のやつらか?」
「そうだが、幾分か殺されたらしい。」
「は??」
「おそらくだが“死神”。やつが絡んでいる。久々の話になるがいいか?」
「……」
幹矢は険しい顔をして黙り込む。制服の内ポケットに入れていた防水加工済みのタロットカード2枚を取り出す。そのカードは“戦車”と“魔術師”だった。そのカードを数秒眺めまた内ポケットに直す。“魔術師”のカードは赤くにじんでいた。それはとある歴史のことを指しているが、黒歴史そのもので幹矢はあまり語らない。白斗にも雪菜にもだ。このことを知っているのは校長と山村 無月。この学校では2人だけだ。その中でも校長は、
「すまない話がいやなのはわかる。だが続けるよ。これは“世界”のカードを持つ俺の役目だ。」
と言って校長も防水加工済みの“世界”のタロットカードを出す。
「ああ、いつか来るだろうとは思っていた。続けろ。」
「最近、政府から通達が来た。」
と言って書類を幹矢に投げる。封筒に入った書類をソファに腰かけ目を通す。
「この通りお前と俺の2人を監視していた政府関係者が幾分か殺されている。おそらく行方をくらましていた“死神”のせいだと踏んでいる。あいつはお前と春蘭に因縁がある。おそらくお前の位置を特定したんだろ。見つかったら殺すことを繰り返してんだろう。今は正確に理解していないから福岡を転々としている。が遠からずともお前の元に現れるだろう。気を付けておいてくれ。今日準備してないなら送るがどうする?」
「大丈夫だ。情報提供ありがとな。今日は粛清が来た時のために少しの準備はしている。心配すんな。」
「おそらくあいつはお前を殺すために行方をくらましていたぞ。フル装備で来るぞ。」
「ああ、知ってる。俺はしってる。今日は大丈夫だ。あと、お前の言いたいことはわかる。それには白斗に異能特定使用許可証を出しておいてくれればいい。」
「わかってる。明日には通しておこう。」
「んじゃな。俺はもういくぜ。」
「ああ、死ぬなよ。」
「当たり前だ。それが春蘭との最後の約束だからな。」
とだけ言って校長室を後にする幹矢。それを見送る校長の顔は少し心配しているようだった。
「はあ、こうも青々とした空はむかつくな。」
と言いながら校門前の花に水をやるため足を運ぶ。一通り水を撒いて教室へ向かう。
「うざい、何もかもがうざい。イライラする。で、あなたも何か用でございますか?七帝さん。」
幹矢の進路をふさぐように立ちふさがるのは幹矢が恐れていた七帝の宮野 芽亜だ。“堅実なガイア”おそらく芽亜の別の読み方からとったりしたのだろうそのあだ名にふさわしい態度で幹矢の前に立ちふさがる。
「私は七帝の1人、宮野 芽亜だ!!お前は昨日異能を使った記録がされてる。わかっていると思っているが粛清のために出向いた。反論は??今謝罪し退学すれば許すぞ。いたぶられて退学。無傷で退学。どっちが好みだ?」
「俺に人権はもうないな。無罪なのに有罪。罪とは変幻自在だな。」
「当たり前だろ。校則を破っているんだ。当然の処置だ。罪の形か…面白いテーマだな。それはさておき、ここだといやでしょ。最後くらい気を利かせてやる。校庭にでな。」
「ちっ、罪の形かよ。うぜえ。イライラする…なっ!!」
芽亜とは逆の方に走り、廊下にかけてあった箒を握り二階の窓から飛び降りる。粛清の範囲から逃れようとしたのだろう。粛清は周りに被害を与えないよう七帝が粛清の相手と認識したものとのフィールドを構築し、そこで行われる。その構築スピードを上回るスピードで逃げようとしたのだ。
この問題は時間が解決するはずなのだ。そう幹矢は考えて。
そして幹矢が行った校外での無許可異能使用。それの罰は退学になる。そして異能が使われたことは腕輪から生徒会室のパソコンに転送される。1週間に1度、七帝は各自確認するのだが、芽亜は毎日行っていたみたいだ。だからすぐにばれたのだろう。
対する七帝序列4位は
「最後の抵抗を…有罪!!」
「くそっ!!間に合わねえ。」
掛け声とともに構築されるフィールドに入れられた。あまりにも早すぎたのだ。幹矢は手から地面につくことで異能を発動し着地する。
そこに同じく飛び降りた芽亜が着地する。おそらく異能を使って着地したのだろうがその能力がわからない。
「粛清の開始だ!!」
「まて、準備をさせろ。」
「これで終わりだ。“力なき元素”!!!」
というと芽亜は手を地面につき地面を操り、柱のような形にして幹矢を挟む。意識のないまま退学させてやろうという粋な計らいだろう。
岩の柱はお互いの衝突により崩れがれきになる。
岩に挟まれたなら死。
がれきの下でも死。
どこをとっても死。
“力なき元素”には打つ手がない。
論理的に考えて絶対そうなっているはずだ。
常識的にもそう。
だが
砂煙の中から現れたのはゴーグルをつけた幹矢だった。
箒をおいて、黒の皮手袋をはめながら現れた“力なき元素”は告げる。
「やりたかないがしょうがない。俺の自由を取り戻すためにお前の自由を圧搾する。覚悟しろよ。」