~ 力なき者の力 ~
~ 力なき者の力 ~
さくらハウスを出て白斗と学校に戻る。校門で待ってた雪菜がこちらを見つけて寄ってきた。
「遅かったわね。事故ったのかと思ったのよ。」
「いや、ただあっちで遊びすぎただけだよ。すまんね。」
「待たせたんだし何かおごりなさいよね。」
「へいへーい。さあ、帰ろう。」
適当に流しさっさと帰ろうとする幹矢。その横に並んで雪菜は今日の遅刻についての説教をしている。後ろで白斗がくすくす笑っている。その形態のまま3人は帰っていく。
最寄りの駅の近くのコンビニに雪菜が連行する。インスタントのぜんざいを3つ手に取り幹矢が会計を済ませる。流れでおごってもらった白斗が申し訳なさそうに苦笑いしている。
「俺までおごってもらって申し訳ないね。」
「いや、迎えに来てくれたわけだし別にいいよ。」
「毎度思うがお前のその底なしの金はどこから来ているんだろうな。」
「いや、内緒だ。気にすんな。もちろん孤児院からもらっているわけじゃないからな。」
「それはわかってるよ。」
駅へ歩きながらぜんざいのもちが元に戻るのを待つ。何といってもインスタントだからそれなりに時間がかかる。その間はかいろとして手を温めるのに使っている。手がふさがっているため箸を口にくわえて片手で割る。その様子を見た雪菜が
「幹矢まだ駄目だよ!!ちゃんと3分待たないとおいしくないでしょ。」
「雪菜は細かすぎだって。わかったわかった。だから強引に蓋を閉めようするな。」
「わかればいいんですぅ~」
と口をとがらせてブーブー言っている。そういったことがあって不注意になっていた雪菜がほかの通行人にぶつかった。そのせいで持っていたぜんざいが雪菜にかかる。
「あっつ。あっ、す、すみません。」
「注意しないとだめだよお嬢ちゃん。ヒック。ん~よく見るとお嬢ちゃんかわいいね~。今から楽しいことしない?ヒック。」
「いや、あの、その。…やめてください!!」
雪菜がぶつかってしまった相手はべろんべろんに酔っぱらったおじさんだった。福岡は日本屈指の酒どころだ。屋台、焼き鳥、もつ鍋などを代表する食事の数々が酒を進ませるのだろう。汚い話、駅前にゲ〇が吐かれていることは多々あり駅員は大変なのである。このような酔っ払いとぶつかった以上単なる雪菜の不注意だけが原因ではなさそうだ。なのに完全な被害者面。これが酔っ払いの嫌がられる点でもある。
そして、校外での異能力の使用は禁止されているため“流麗な水姫”と言われている雪菜もただの少女だ。立派な男性相手だと完全に力負けしている。腕をつかまれているため逃げることもできない。もう雪菜の眼は涙があふれそうになっている。
その1滴が頬を伝っていく。
お持ち帰りされる…
連れていかれる…
ビュンという音と共に雪菜の目の前からおじさんが消えて、涙で歪んでいた視野全体がみたことのある制服で埋め尽くされていた。幹矢だ。その手に持っていた鞄とぜんざいを白斗に預けて、落ちていた植物用の支柱を持っている。
「おじさん、それ以上するならこっちも正当防衛で抵抗しますよ。」
「いったた。君何をするんだ。私がしゃべっていたのはそっちの女の子だぞ!!お前は関係ないだろうが!!」
と言って立ち上がったので、幹矢は仕方なく支柱を構える。幹也の背丈ほどある支柱を右手で支える。
「雪菜、白斗と一緒に離れろ。」
「で、でも…」
「安心しろ異能力は使わねえよ。心配すんな。」
「う、うん…」
「体冷えただろ?災難だったな。俺のぜんざい飲んでていいから。ここを離れてくれ。な?」
「気を付けてよ。」
「まぁ大丈夫だから。さっ。」
と言って泣いている雪菜の背中を押し白斗にアイコンタクトで「離れろ」と伝える。すると白斗が
「幹矢後ろ!!」
と叫んだ。雪菜を白斗の方に送っていた幹矢の背後にはもうおじさんが殴りかかろうとしていた。幹矢が支柱でたたき飛ばしたのが相当いたかったのか、かなり怒っているようだ。
だがおじさんの拳は幹矢には届かない。理由は幹矢が支柱の先を持ち、それを後ろに伸ばして横に薙ぎ払ったからだ。明らかに幹矢には見えていないはずだったがこの対応だ、場が凍り付いた。
「いやいや、おじさんびっくりしたわ。もう正当防衛でつぶしにいくよ。」
倒れこんだ中年に上から幹矢がそう告げた。人を殺すような目でだ。
「くっそ、餓鬼がふざけんなよ!!」
と言ってまた襲い掛かる。だが先ほどの勢いはなく少しためらいを感じる。少し恐れているのだろう。そのゆらぎを感じた幹矢は軽くいなして、背後に回ると
「申し訳ないが少し眠れ。」
と言って首筋を殴打して気絶させる。そしておじさんがさっきまで飲んでいたであろう店に運んで、店側に事情を説明してその人を寝かせてもらうことにした。
店から幹矢が出てくるとぜんざいでべとべとの雪菜が泣きついてきた。
「やめろっ!!ぜんざいが俺にもつくじゃねーかよ。」
「ありがとう…怖かった…」
と泣いていて聞こえてないようだったのでそのままにしといてやることにした。
「あ~洗濯が大変だなこれ。」
と言って雪菜が泣き止むまで頭を撫でてあげた。
雪菜が落ち着いて電車に3人のって帰る。白斗が雪菜に聞こえないように幹矢の耳元で「お前ってそんなに強かったっけ??」
といった。幹矢は微笑交じりに
「さあね、何かの間違いだろ。しいてゆうなら守るための力って言ってみたりして。」
といい雪菜にウインクする。雪菜は不思議そうにしているが白斗は
「恐ろしいね。“力なき元素”さんは。」
と言って微笑で返す。
あの時、幹矢は支柱を別の何かに変えていたのは白斗でもわかった。それにしても背後から来た敵を予測、迎撃できたのはなぜだろう。ほんとに“材質変化”の異能なのだろうか。謎が深まる白斗をよそに、電車は勢いを殺さず豪快に夜の街を駆ける。