~ 七帝と弱者と ~
~七帝と弱者と~
他の人よりも早くトレーニングが終わった幹矢は足早にシャワールームに向かい早めの放課後を迎えようとしていた。汗を流し、体をふいていると白斗がやってきた。白斗は幹矢と違いトレーニングは基本的に早く片付けれるタイプなので、いつも自分より遅い幹矢がいることに驚いていた。とはいえ、さすがにかすり傷程度は負っているようだ。
「早いじゃないか。なんだ?チートでも使ったのかい?金〇の妖精さんww」
「誰が妖精じゃ。さすがに第三次だと見切りが付く。まあ、森を仮想したフィールドだったから運が良かったかな。」
「ふ~ん。“力なき元素”様がね…。あの時やる気出しとけば、もうちょっとかっこいいあだ名ついたんじゃない?」
「いや、いいんだよ。俺はそんなの気にしないし、あんなの楽しくもない。単位が関係しないなら戦う理由にもならない。」
「いつもそういうね。罵られ続けるのをスルーできるお前は十分強いよ。」
「ああ、ありがとう。」
【桔梗高校の伝統行事だが6月に1週間丸々使って体育祭と称された戦闘大会が行われる。そこで1日ずつ学年ごとに大規模仮設フィールドを使ったバトルロイヤルが行われる。そこで、生徒に異能を使って相手を戦闘不能にするまで戦う。そこで高校の秩序を守るための生徒会を1・2年から2人、3年から3人選出される。選出方法は結果であり、どんな卑怯な手を使おうと上位2名、3年なら3名に入れば生徒会に入ることができる。1学年4クラスあるのでなるのはかなり難しい。
そして生徒会には特殊な腕輪が授与されいつでも仮想フィールドを構築し戦闘できるようになる。と言っても使用が許可されるのは生徒の素行不良や校則を破っていたのを注意しても聞かない場合などに限られている。絶対的な力による統制。これをほかの生徒は皆“粛清”と呼んでいる。そして生徒会のメンバーを忌み嫌い“学校の忠犬”と呼んだりする人もいるが大抵の人は、その実力への尊敬と恐怖を込めて“七帝”と呼ぶ。七帝内部の区別は、そのあと行われる模擬戦で決まる序列で分けられる。
だが、何といっても普通の生徒に関係あるのは注目された人につけられるあだ名のようなものだ。七帝はもちろん、一般生徒にもつけられたりするものだ。つけられるならかっこいいものがいいし、つけられることで注目されてる、などと自信をもつきっかけになることもある。そのため、七帝になれずとも生徒は頑張るのが普通だ。それで、自分を倒した人を現実の世界で返り討ちにしよう…とか思う人はいない。もし、いたとしても“粛清”の相手になるだけだ。
さあ、そこで前回の戦闘祭1年の部に出てた幹矢、白斗、雪菜だが白斗と雪菜は奮闘し“小さき大砲”と“流麗な水姫”というかっこいいあだ名を手に入れた。問題は幹矢であった。始まって一分間その光景を見るなり、リタイアを宣言し、さっさと帰っていったのだ。外野から見たらただの逃げ腰。もしくは調子に乗っているやつ。といった感じに悪い意味で注目されついたあだ名は能力と重ねられ“力なき元素”と呼ばれるようになった。材質変化という能力名が能力の元素という意味ではたらいたのだろう。
といったように桔梗高校のシステムは成り立っている。次の戦闘祭まで生徒会は“基本的に”変わらないので、それで1年間がゆっくり進んでいくことになる。】
手短に白斗と会話を済ませて、屋上へ向かう。今は能別トレーニングがないクラスは3時間目と4時間目の間で休み時間なので廊下や教室がにぎわっている。授業時間が100分なので午前二時間、午後二時間となる。
廊下を歩いていると豪華な腕輪をした髪を後ろでお団子結びした女生徒がすれ違い際に鋭い目でにらんできたのでカイは振り向いた。
「あれが七帝か…。」
特に彼女にかかわったこともない幹矢は、にらまれたことを気のせいして前方に振り向きなおすと、そこには見知った顔がいた。
さっきの七帝よりも少し背の低いポニーテールの彼女の名は“山村 無月”彼女もまた七帝である。序列は3位で“野蛮な女狼”と呼ばれている。ちなみに彼女は2年生で幹矢よりも年上である。彼女とは幹矢が入学したときに、知り合って幹矢のいろんなことを知っていて、いろいろ協力してくれるいい先輩である。他学年と関わりをあまり持たない幹也にしては数少ない関係ではある。
「ん?幹矢じゃないですか。どうしたんですか?今頃、能別ではないのですか?さぼりですか?」
「早く終わったとは考えれないんですかねぇ。」
「あの“力なき元素”がまさかね、そんなことはないですよねー。」
「わざと言ってるでしょ、あんた。」
「ん、無月ちゃんとかって呼んでほしいですが、幹矢なら無月でもいいですので本名で呼んでって言ってるじゃないですか~。」
「はいはい、ところで無月さ、あの七帝は何学年のどの方?にらまれたんだけど。」
「ん~と。あぁ、彼女はですね幹矢と同じ1年の宮野 芽亜ちゃんですね。序列は4位で“堅実なガイア”と言われてるです。」
「ガイアね…なんとなく能力は想像つくけど。なぜ睨まれたんだ?」
「おそらく幹矢があの時リタイアしたのが原因でしょうね。態度にイラついているのかもしれませんね。あの子は日々努力するタイプの子ですから。」
「あぁ…それは仕方ないね。説明してもらってなんだけどさ無月、時間は大丈夫かい?」
「ん…あ!!もうやばいですのでバイバイです!!」
と言ってから、てくてくと去っていく。“野蛮な女狼”のあだ名からは想像できないほどその背中は愛らしい。その背中を眺めてから幹矢も目的地の屋上へ足を進める。
「いつも感謝してるから」そう聞こえた感じがするのは気のせいだろう。
夕陽になりかけている太陽が今日もまぶしいようだ。