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桜の天使たち  作者: 氷雪杏
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桜の天使たち 8

 夜――美和は自室で恐る恐るビニールの包みを開けた。中からナイフが出てきたが、血はすっかり乾いておりどす黒い色に変色していた。叫びたくなるのを我慢して、じっくり観察する。幸い、肉片のようなグロテスクなものは付着していない。ついている血もしぶきでついたものが殆どで傷口自体は浅そうだ。

「これといって手がかりになる物は……無いわね。鑑識でもないと血液や指紋も調べられないし……」

 頭を抱えながら、美和は引き出しの中からカメラを取り出した。写真があれば後に証拠として何か役に立つかも知れないと思ったのだ。

 色々な角度から写真を黙々と撮る美和。一息つこうとした時、突然電話が鳴った。

「きゃっ! ……もう、最悪なタイミングね」

 卯野家は共働きで深夜にならないと家族は帰ってこない。ムスッとして美和は電話を取る。

「もしもし、卯野ですけど」

「…………」

「もしもし?」

「……ナイフ」

「えっ?」

 美和は背筋が凍りつくのを感じた。明らかに普通の声ではない。異様なカン高さの声――おそらくヘリウムガスを吸っているのだろう。

「お前はナイフを持っているのか?」

「あ、あなた誰よ!」

「もしナイフを持っているなら、お前を殺す」

「私、ナイフなんか持ってない! 変な電話かけないで!」

「…………」

 叫ぶと、電話は突然ブチッと切られた。ツー、ツー、と無機質な音が耳に響く。美和は力が抜け、その場にヘナヘナと座り込んでしまった。

 『殺す』という単語を聞いた瞬間に咄嗟に嘘をついてしまった。が、本当の事を言ったらどのような目に遭うかわかったものではない。頭がパニックの状態になっているが、美和は必死で自分を落ち着かせようとした。そして、混濁する意識の中で一つ、確信が生まれた。

 先程、雄一にはハッキリと言わなかったが、鍵を一番簡単に持ち出せるのは……管理している先生達だ。誰に断わりもなく持ち出すのは容易い。そして、美和がナイフを拾った現場に遭遇した人物は二人、雄一と桂。美和の家の電話番号がわかるのは担任の……桂だ。条件は皆揃っている。美和は震える体を押さえながら、受話器をぎゅっと握り締めた。押し慣れた番号をプッシュし、受話器を耳に当てる。

「もしもし、あさみ? 今から外に出れる?」

 美和は今までの内容を話した。あさみは凄く驚いたが、自分も話があるから、と外出をすぐ了承した。美咲にはあさみの方から連絡すると言われ、待ち合わせ場所を学校の近くのショッピングモールとして、時間を決めて電話を切った。

 本当は雄一にも一緒に来てもらいたかったが、生憎と電話番号を知らない。部長の兵藤に聞けば判るのだろうが、既に夜九時を回っている。夜であるし、親が出電話にて不愉快な思いをさせるのも躊躇われた。こんな時、ポケベルというものがあれば良かったのにと美和は溜め息をついた。だが、ポケベルなど大学生や社会人が持っているだけだ、学生で持っている人など滅多に居ない。

 えいっ、と気合を入れて頬を叩いた。雄一に頼っている場合ではない。これからもしかすると決戦になるかも知れないのだ。まず自分がしっかりしなくてはと美和は自分に喝を入れる。

 ふぅっと息を吐き出し、鞄にカメラとナイフを詰めて美和は小走りで家を出た。

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