桜の天使たち 7
美和と雄一は学校帰りにファーストフード店に寄り、ナイフに関する作戦会議を開いていた。いきがかり上だったが、学校外で雄一と二人きりで会う事に美和は内心少し戸惑っていた。普段は女友達とばかりつるんでいるので、自分の横に後輩とはいえ男子がいるのは不思議な気分だ。
「結局、麩隙先輩が刺されたっていうのは決定でいいんですか?」
そんな美和の気持ちも知らず、豪快にえびカツサンドをほおばりながら雄一がふいに訊ねた。人目をはばかりそうな質問だったが、周りは雄一たちと同じような学生でわいわい賑わっており、会話が聞かれる心配は無さそうだった。
「そうね……確証は無いけど、可能性は高いと思うわ」
美和はホットコーヒーを飲んでいる。中学生の頃からコーヒー党になったのだが、ファーストフードのものはいまいち深みがなくて味気ないと思いながらコーヒーをすすった。
「好子ちゃんも茶子ちゃんも普通じゃなかった……。時間的に考えても屋上で何かがあったと考えてもおかしくないと思うわ」
美和はコーヒーを机の上に置き、あらためて雄一を見る。
「揉め声の中に男の人も居たって言ってたわよね? どんな感じだったか憶えてる?」
「うぅ……ん、特に特徴は無かったと思いますよ。どっちかっていうと低い声だったかな? 少なくとも、甲高い男の子の声ではなかったです」
「そう……何となくの予想はできるけれど、まだ証拠が不充分かな」
「えっ? どんな予想ですか?」
美和はにっこりと笑う。唇に指を当て、上目づかいになって考えるポーズをした。
「屋上って、いつもは立ち入り禁止なのよね。どうやって入ったのかしら?」
「職員室から鍵を借りたんじゃないですか?」
「そうね。鍵は職員室にあるわ。先生の誰かに頼んで貸して貰うしか無いわね。……でも、普通の理由じゃ簡単には貸してもらえないわよ?」
「じゃあ、スペアキーを複製していたとか?」
「数分で鍵を複製ができるはずもないし、遠くまで行ってたら鍵を返すのが遅くなってしまうわ。先生に怪しまれるんじゃないかしら」
「じゃあ……一体どうやって屋上に……?」
頭をかかえて悩む雄一を見て美和はくすっと笑った。
「ちゃんと証拠が揃ったら言うわ。それまでに解かるか宿題にするわね」
「えぇぇー?」
雄一は情けない顔になる。なんだか幼い少年のようで美和はくすぐったい気分になった。
一通り食べ終え、二人は帰宅する事にした。最初は戸惑ったものの、もっと雄一と一緒に居たい気分もあったが、事態が事態だけにのんびり話しているわけにもいかない。
「じゃあ、私がナイフを預かっておくわ」
美和は雄一から白いビニール袋にぐるぐる巻きにされたナイフを受け取った。少しでも血をみない為のせめてもの策だ。だが、家に帰って調べる事になるので、いつかは直視しなければならないが。
「気をつけて下さいね!」
手を振りながら雄一が自転車を漕いでいった。角を曲がって見えなくなるまで美和も手を振りつづける。
二人の距離は確実に一ヶ月前よりも少しずつ縮まってきていた。