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桜の天使たち  作者: 氷雪杏
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桜の天使たち 4

 二年生に進級してから一ヶ月が経とうとしている。三人娘も新しいクラスに慣れ、楽しく過ごしていた。

 そんなある日の午後、三人の居る二年A組では体育の授業が行われていた。女子だけ集まってのA・B組合同の授業だ。今日の授業はバスケットボール。練習試合で黄色い喚声が上がっている。試合に出ている者もキャッキャと楽しそうに団子のように固まって走っていた。

 今、試合には美和が出場している。運動は並程度には得意だったので、ボールを奪ってはドリブルし、得点をいくつか獲っていた。

 そしてまたチャンスボール。美和はボール目掛けて走っていった。と、誰かとぶつかってしまう。

「あっ、ごめん!」

 ぶつかった相手はB組の愛取好子だった。

「だいじょ……ぶ……」

 好子は笑おうとしたが、力が込められずに渋い顔になる。そしてその場に倒れこんでしまった。

「好子ちゃん? 大丈夫!?」

 美和は思わぬ出来事に動揺する。そんなに強くぶつかった訳ではないはずなのに。

「B組の保健委員は!」

 体育を担当している桂が叫ぶ。

「今日は休みです」

「じゃあA組の保健委員は……」

「はーい、愛取さんを保健室に連れてきます!」

 あさみが勢いよく手を挙げた。

 本来、あさみは保健委員というガラではないのだが、授業をサボる口実が作れると、保健室に出入り自由で好きな時に寝られるというよこしまな理由のために保健委員をしていた。

「好子ちゃん、大丈夫?」

 あさみは美和と好子のもとへ駆け寄る。

「あさみ、私も行くわ」

 美和は好子に手を貸そうとしたが、ヅラに止められる。

「一人付いて行けば充分だろう。他の者は授業を再開するぞ」

「……」

「大丈夫だって! こっちはまかせておいて!」

 心配そうな美和に向かってあさみはウインクをした。顔色の悪い好子に手を貸し、ゆっくりと体育館を出て行ゆく。

「ごめんね……」

 美和は肩を落とす。そこに美咲が駆けてきた。

「一体どうしちゃったの美和ちゃん」

「ちょっとぶつかっちゃって……」

「私も見てたよ。でも、そんなに強くぶつかった訳じゃないよね」

「だと思うんだけど、彼女真っ青な顔してた」

「好子ちゃんね、試合が始まった時からすでに顔色悪そうだったんだよ。だからあんまり気にしないで、ね、美和ちゃん」

 美咲がぎゅっと美和の手を握った。



 保健室に着いたあさみは、保健医を手伝いながら好子をベットに寝かせた。体育の授業が乗り気でないので、あさみはそのまま付き添う事に決めた。

「好子ちゃん大丈夫?」

「うん、ごめんね……あさみ」

 好子は真っ青な顔をしている。吐き気を堪えているようだ。

「美和ちゃんに謝っておいて。ぶつかったのはちょっとしたきっかけで、本当は最初から気分が悪かったの」

「うん。伝えておくよ。好子ちゃんはゆっくり休みなよ」

 あさみはそう言って好子に布団をかぶせた。

「気分悪いのなら早退した方がいいよ?」

「少し横になれば大丈夫。ちょっと吐き気がするだけだから……」

 好子はすぅっと息を吸い込む。そして深く吐き出した。

「ねぇ、あさみちゃん。ヅラって最近クラスで変わった様子は無い?」

「え? 特に無いと思うけど」

 唐突な質問にあさみは眉をひそめる。

「そっか、突然変な事聞いちゃってごめんね」

「もしかしてさっきヅラに変な事されたりしたの? だったら……」

「ううん、そんな事は無いから大丈夫」

 好子はそう言うと、布団をかぶってしまった。

 あさみは微妙は感覚をおぼえながらも、そのままベットの横にパイプ椅子を置いて付き添いを続けた。

 体育終了後、あさみは教室に居た美和と美咲と合流した。

「好子ちゃん大丈夫だった?」

「うん、だいぶ落ちついたよ」

 あさみは保健室で好子が言っていた事を伝えた。全ての話を聞いて、美和は唇に指を当て、少し考える。

「ヅラの名前が出てきたのがひっかかるわね……。そういえば、好子ちゃんって最初から体調が悪かったのよね、なら……」

 美和はそのままブツブツと口の中でつぶやいている。

「美和の推理癖がまた始まったわね」

 あさみが肩をすくめた。美咲はくすっと笑う。

「美和ちゃんらしいね」

 二人の言葉が全然耳に入っていないのか、美和はあさっての方向を見ながら首をかしげる。何となく嫌な予感がして仕方がなかった。

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