表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜の天使たち  作者: 氷雪杏
21/29

桜の天使たち 20

 予鈴が鳴っても、授業が始まる気配は無かった。他のクラスは担任がホームルームをしているようだが、桂が二年A組にやってくる様子も無い。

 美咲とあさみは美和の机の傍にやってきて小声で話し掛ける。

「ヅラ、まだ逮捕されたっていうニュースは無いのよね?」

「えぇ、多分」

「ヅラって今日、学校に来てるのかなぁ?」

 美咲の疑問に美和とあさみは一瞬考えたが、同時に顔を見合わせた。

「体育教官室、見に行ってみる?」

「行こう!」

 美和の言葉に後の二人は即決同意し、教室を飛び出した。

 教室を出たところで、美和はいきなり足を止める。

「美和ちゃん、どうしたの?」

「ごめん、ちょっと寄る所があるの。すぐに追いつくから、先に様子を見るだけ見に行ってくれる?」

「何なのよ、あやしいなぁ」

 あさみは目を細めたが、美咲に促され一歩先に教官室へ向かっていった。

 残った美和は、一年生の居る北校舎の二階へ駆けて行く。

「早くしないと間に合わないかも……!」

 願うように、美和は手のひらをぎゅっと握り締めた。



 美咲とあさみは体育教官室のある裏庭にやってきた。見渡すと、ちょうど桂が校舎に向かって歩いてくるところだった。慌てて引き返そうとしたが、残念ながら見つかってしまう。

「おい、もう本鈴が鳴っているぞ。こんな所で何をしているんだ」

 いつもよりもさらに不機嫌そうに桂が言った。

「あの、えっと。先生がなかなか来ないのでどうしたのかなぁって」

 美咲は可愛くモジモジしてみせたが、桂は機嫌を直すような事は無かった。

「……事情聴取だ! さっさとホームルームを始めるから教室に戻れ!」

 高飛車な態度にあさみは腹を立てる。ふんぞり返って桂を睨みつけた。

「事情聴取ぅ? 昨日、あんたが私達に言った事を警察にも言ったの? あれって全部嘘でしょ!」

「ちょっと、あさみちゃん! 美和ちゃんが来るまで押さえて!」

 焦った美咲があさみの制服の袖を引っ張ったが、あさみの勢いは止まらなかった。

「今朝、茶子ちゃんから全部話は聞いたわよ。あんたが好子ちゃんを殺したんだってね!」

 ヅラの形相が一気に危険な色に変わった。飢えている猛獣のような目をして、血管を浮き立たせている。美咲とあさみは恐怖のあまり動けなくなってしまった。冷や汗がじわりと額に滲み出たが、拭う事すら出来ない。

「俺が、殺した?」

 桂はぎょろりと目を動かし、口元だけ笑う。

「そんな証拠がどこにあるんだ?」

 一歩、桂は二人に近づく。砂利が靴にこすれる音がやたら大きく聞こえた。美咲とあさみは泣いて逃げ出したかったが、体が言う事を聞いてくれず指先すら動かせなかった。

「麩隙が何を言っていたか知らんが、あいつは発狂して精神がおかしくなっていたらしいじゃないか。あいつの言う事だって嘘と言えるんじゃないか?」

 もう一歩、桂は足を踏み出す。殺意を込めた眼差しが二人をさらに怯えさせた。

「で、でも……茶子ちゃんが」

 あさみは気力を振り絞ってやっと声を出した。だが、対照的に桂は残虐な余裕の笑みを浮かべる。

「冷静な教師と錯乱している学生、警察はどちらの話が信用できるかな? しかも、俺が愛取を殺した証拠など何処にも無いというのに」

 だんだんと桂が近づいてくる。明らかに危害を加えようとする雰囲気だった。桂はゆっくりと手を上げ、動けないあさみの首をつかもうとした瞬間――。

「証拠はあるわ!」

 桂の背後から、美和が現れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ