桜の天使たち 19
三人は重い足取りで学校に向かった。結局、心労のため茶子は学校を休む事にした。
校門前には既に報道陣が殺到している。何十台ものカメラ、何十人もの報道記者やスタッフがごったがえして、リポート合戦をしていた。
もみ合いになる人々、たかれるフラッシュのまぶしさを見て美和は吐き気を覚える。その場に倒れこみかけた美和をあさみが慌てて支えた。
「大丈夫? 美和ちゃん」
あさみに支えられていた美和を美咲が心配そうに声をかけたが、あまり顔色が良くない。
「大丈夫、少し、びっくりしただけだから」
言葉では強がっているが、美和は明らかに怯えている様子だった。だが、ふっと息を吐き出すといつものような気丈な振る舞いをしてみせる。
「さ、こんなくだらない人達なんか相手にしない事にしましょう」
「美和……」
歩き出す美和を心配そうにあさみが見ている。
「人の死を見世物みたいにしてる……なんか嫌だな」
隣でカメラマン達を見ながら美咲がぽつりとつぶやいた。
三人が人波をおしのけながら歩いていると、前方では美人なアナウンサー達が沈痛な面持ちで校舎の方を指差し、何かをリポートしていた。
「あいつら、顔だけは悲しそうにしてるけど、結局は餌に食いついてるだけなのよね。最低」
睨むようにして、あさみは軽蔑の眼差しを向ける。美和だけは、何も言わずに無表情で校門への並木道を歩いていた。もう、何も言いたくない程、嫌な気持ちが心の中を渦巻いている。
やがて、三人は報道陣が一番多く待ち構えている校門にさしかかった。予想通り、何人ものレポーターとカメラが美和らに向かって押し寄せてきた。鬱陶しそうにカメラをはねのけるあさみ、レポーターのマイクを避ける美咲。だが、美和のまん前に一台のカメラが陣取った。
「同じ学校の人だよね? 今回の事件についてどう思う?」
軽薄そうな若い男のカメラマンは、レポーターでもないのにかなりしつこく美和につきまとった。いい加減キレかけた美和は、カメラから目線をそらしつつも、びしっと言った。
「あなた方と話すつもりは全くありません」
十六歳とは思えない、毅然とした怒りのオーラを発する美和に一瞬カメラマンはたじろぐ。その隙をついて美和達はさっさと学校の敷地内に入っていった。
「うっわー。さっきの子達、すっごい生意気」
厚化粧の女性レポーターが眉をひそめたが、カメラマンは面白そうに口笛を吹いた。
「いいんじゃねーの? あれくらい元気な方が撮りがいがあるってもんだ。さてと」
そう言ってカメラマンはそそくさと報道陣の輪をくぐり抜けようとする。
「あ、ちょっとシゲルどこに行くのよ!」
「何か面白い事が無いかちょっと徘徊してくる。あとは二カメに任せた」
「台数が足りなくなるでしょ! まさかさっきの女の子を盗撮する訳じゃないわよね?」
「まさか。俺にはロリコンの気は無いよ」
苦笑いしながらカメラを担いでいた男が人ごみから出て行ってしまった。レポーターが叫んで男を追おうとしたが、その横に居た記者らしき女性がそれを止める。
「シゲルを止めても無駄よ。言い出したらきかないんだから。それに、あの人、ああ見えて一人でスクープを撮ってくる名人だから、もしかしたらもしかするかもよ?」
美人の女性記者が含み笑いをして言ったが、他社の報道陣の騒ぎに声はたやすくかき消されてしまった。