桜の天使たち 1
「やったー! 今年も三人一緒のクラスだぁ!」
麻乃美咲がぴょんぴょんと飛び跳ねながら隣に居た一ノ瀬あさみに抱きついた。
「すごい偶然ね。まるで計算されたみたい……」
目を見開きながら卯野美和は何度もクラス発表の紙を見つめる。
「うっふっふ。運も実力のうちよ」
抱きつかれていたあさみは不敵に微笑んだ。
この三人は私立E・T高校の二年生になる。入学したての一年生の時から一緒につるんでいる友達だ。それぞれ個性が強く、美咲はふわふわした可愛らしいタイプ、美和はキリッとした優等生タイプのインテリ少女、あさみは高飛車でゴージャスな雰囲気の艶やかな美女タイプで、性格も血液型も全然違うが何故かとても仲が良かった。
「でも、担任はヅラだって……。ちょっとガッカリだよね~」
美咲が小さくため息をもらす。他の二人も全く同じ感想だった。
担任の桂――通称ヅラは体育教師だ。気分屋で、顔はまぁまぁ普通だが、ちょっといやらしい目つきをする偏屈教師で有名だった。年は四十歳近い。三人は一年生の時に体育を担当してもらっていたが、あまり好感が持てなかった。
「ま、でも私達が一緒のクラスになれただけでも良しとしましょう」
肩をすくめる美和。あさみもうんうんと頷いた。
「一緒のクラスになれたのは幸運だけど、今年こそは彼氏できるかなぁ?」
「ちょっと、ハッピーな気分に水を差さないでよ……」
美咲の言葉にあさみが肩を落とす。
三人にはまだ彼氏と呼べる存在はいなかった。美和はもともと彼氏や恋人に関してはあまり興味がないのだが、美咲とあさみ、特にあさみは以前からずっと彼氏を募集しているのだが、男友達は数多くできるものの特定の恋人と呼べる存在は居ない。あさみの場合は血眼になって男を探しすぎるのでかえって男子が怖気づいてしまうのだと美和はひそかに分析している。逆に美咲の場合は女の子オーラを出しすぎて男子としてはうかつに手を出しづらいようだ。
「そもそも気軽に声をかけてくる人ってロクなのが居ないんだもん。嫌になるわ」
「あさみちゃんに声かけてくる人ってお金持ちが多いよね」
「違うわよ美咲、あさみは金を持ってる人しか相手にしないのよ」
他愛の無い事を話しながら三人は新しい二年A組の教室に向かった。
途中、どこかからオーケストラ部の音楽が流れてくる。朝練の最中のようだ。美咲はふと足を止めた。
「そういえばね……私、オーケストラ部に入ろうと思うの」
美和は以前からトランペットに興味があった。だが、美和の通っていた中学には音楽部はあったもののトランペットを扱っているものではなく、高校に入学したばかりの時は中学の時に起こったごたごたした事を引きずっており、クラブに入る心の余裕がなかった。
しかし、最近になって本格的に演奏してみたい気分になった。学年も変わることであるし、心機一転で決心をしたのだ。
「そういえばトランペットに興味があるって言ってたもんね。頑張って、美和ちゃん!」
美咲が美和の肩をポンを叩く。
「うん。……でも、ちょっと緊張するから入部届けを出す前に少し部室を覗いてみていいかしら?」
「見たい見たい!」
美咲ははしゃいで美和の腕を引っ張った。
音楽室の前に到着した美和は、そっと部室の扉を開く。中には五十人程の生徒が居た。ピアノ、トランペット、フルート、バイオリン、チェロ……色々な楽器が各々音を奏でている。その中に、三人の見知った顔があった。
「あ、好子ちゃんだ。元気ぃ?」
美咲の声に、オーボエを吹いていた少女が気づく。
「あれ、美和ちゃんたち……。一体どうしたの?」
楽器を椅子に置いて好子が入り口まで歩いてきた。愛取好子は三人と一年生の時のクラスメイトだった。それなりにお喋りして仲が良かった人物である。
「この部に入部しようかと思うんだけど……」
美和が言うと、好子は微笑んだ。
「あっ嬉しいな。これでオケ部に看板娘ができるわ。……入部希望は美和ちゃんだけ?」
うん、と美咲とあさみは頷く。二人はカラオケで歌ったりするのは好きだったが、器楽をする程興味は無い。
「よろしくね」
美和がそう言ったのと同時に好子の隣にすらりと高い影が現れる。
「愛取さん、その人は?」
「あ、部長」
部長と呼ばれたその男性は三人をじっと見た。細くて高い身長。憂いを帯びた瞳。ゆるやかに流れる柔らかい髪。端正に整った甘いマスク。非の打ち所が無い美形だった。思わず三人はしばらく見とれてしまった。
「あ……えっと、卯野美和といいます。この部に入部したいんですけど……二年生ですけどいいですか?」
やっと我に返って美和が口を開いた。美和はこんなに顔立ちの整った男性を今まで見た事が無い。見惚れるというよりは完璧な造形に感心してしまう。一方、あさみと美咲はまだ彼に見とれているようだ。
「歓迎するよ、よろしく。僕は部長の兵藤勉だよ」
勉と握手した美和に続き、関係の無いあさみと美咲も便乗してちゃっかりと握手をする。小さくあさみが「ラッキー」と洩らしていた。
「練習は基本的に週三回。自主練は毎日やっているけどね。また詳しい説明は新入生と一緒にするから、新入生向けクラブ発表の後にでも部室においで」
にこりと爽やかな笑顔を残して勉は席に戻った。好子もじゃあね、と教室内に帰ってゆく。
残された三人はしばらくボーッとしていたが、気を取り直して教室に向かった。
「美和……もしかして入部の目的、あの先輩なんじゃないの?」
あさみがじろりと横目で美和を見る。
「違うわよ! 私も今初めて見たんだから!」
珍しく美和がうろたえた。
「でもさぁ、カッコ良かったよね、兵藤先輩」
「えぇ。少し驚いてしまったわ」
美和は素直に頷く。そんな彼女を見ながらあさみは腕を組んでぽつりとつぶやいた。
「私も……楽器練習しようかな……」
「あ、私もそうしようかな?」
美咲もにこっと笑って手を上げる。横で美和が呆れてため息をついた。




