桜の天使たち 17
その晩、美和が事件について色々と思案していたところ、突然電話が鳴った。例によって家族は出払っているので美和が出なければいけない。昨日の事もあるので、美和は恐る恐る受話器を手にした。
「もしもし?」
緊張する美和。しかし、電話をかけてきた当人も違う意味で緊張していた。
「あっ、あの、僕、佐留雄一と申しますが美和さんは……」
「えっ、雄一くん? 私よ。一体どうしたの?」
美和は思いがけない電話の相手で飛び上がりそうだった。はやる心臓をおさえて、受話器を耳にする。
「あのですね、ちょっと、すごいモノを手にしてしまったんですけど……」
雄一の声がくぐもった。
「僕一人では抱えきれないから、先輩に相談しようと思って。兵藤部長に卯野先輩の電話番号を教えてもらっちゃったんです。いきなりかけてごめんなさい」
「いいのよ、それより一体どうしたの?」
雄一は、自分がした事と手に入れたモノの事を美和に伝えた。その事を聞いて美和は驚愕したが、想定していた事とほぼ同じ結論で胸のつかえが少し取れた。
が、美和に新たな怒りが湧き起こる。絶対に許せない人物が確実に決定した。
「……じゃあ、それを明日の朝、学校に持ってきてくれるかしら。これで追い詰める事ができるはずだわ!」
「わかりました。でも、絶対に無茶しないで下さいよ!」
さっきまで少々凹んでいた美和だったが、雄一のこんな何気ない言葉に、癒されるような気がした。後輩の一挙一動にこんなに振りまわされる事は今まで一度も無かったのに。
「あっ、もうそろそろテレカの度数が切れそうなので……」
「あら、じゃあ、今日はこれまでね」
本当はもう少し話していたかったが、美和はぐっと我慢する。
「あの、先輩?」
「何?」
「今日の小体育館で言った事、ちょっと本気ですから。……おやすみなさい」
少し早口に言うと、雄一はガチャリと電話を切った。咄嗟に雄一の言った事の意味が飲み込めなかった美和だったが、ゆっくりと受話器を置いて深呼吸してから思考活動を再開し始める。
「それって……やっぱりそういう事?」
美和は近くにあったクッションを掴んでベットに倒れ込み、こみ上げてくる恥ずかしさを一生懸命堪えた。