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桜の天使たち  作者: 氷雪杏
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桜の天使たち 12

 授業は一応は何事も無く無事に終了した。小体育館からぞろぞろと女生徒が更衣室に向けて列を作って歩いていた。その中に居た美和に、校舎の方から呼び声のようなものが聞こえてくる。不思議に思った美和が校舎を見ると、一階渡り廊下に雄一が居るのを見つけた。どうやら美和を呼んでいるようだ。

「ごめん、ちょっと行ってくるから先に着替えておいて」

 列を抜けようとした美和に、美咲とあさみが声をかける。

「うわ、ラブラブ。ごちそうさまー」

「もしかして告白されちゃったりして?」

 顔を赤くして、怒る仕草をしながら振り返った美和。だが、すぐに雄一のもとにかけていった。



「雄一くん、どうしたの?」

「あ、先輩ごめんなさい。ちょっと気になる事があったので……」

 雄一はしばらく迷った様子だったが、息をふっと吐き出して、改めて美和をじっと見た。

「昨晩、電話があったんです」

 やっぱりか、と美和は思った。

「私の所にもあったわ」

「そうなんですか! なんか変な声で『ナイフを持っているなら殺す』って」

「えぇ、私と全く同じだわ」

 美和は腕を組んで壁にもたれかかった。

「声は多分ヘリウムガスで変えているわ。間違い無くナイフの持ち主ね」

「どうして電話番号がわかったんでしょう……」

 首をかしげる雄一に、美和は理知的な笑顔を見せた。

「屋上の鍵の問題と一緒よ。学生の連絡網と職員室内の鍵を自由に持ち歩ける人物は?」

 そこまで聞いて、雄一はアッと声をあげた。

「学校の先生ですね!」

「正解」

 ぱちぱちと美和が手を叩く。

「そういえば屋上でヅラ先生に遭いましたよね。じゃあ、あの電話はヅラ先生が!」

「多分、そうだと思う。証拠もそれなりに発見する事ができたわ」

 昨日撮った写真は教室にある。今、雄一にそれを見せる事ができないのはとても残念だった。

 雄一は少し興奮した様子で美和を見る。

「先輩、一時間目は体育だったんですよね! ヅラ先生の様子はどうでしたか?」

「それがね、私には特に何も無かったんだけど……」

 言いかけて、美和は険しい表情になった。

「ごめん、ちょっとついてきてくれる?」

 雄一の腕をとって、美和は小体育館へ走ってゆく。授業中の桂の好子への執拗な視線がとても気になる。美和は先ほどから嫌な予感がしていた。

「ヅラ、授業中に好子ちゃんの事をずっと睨んでいたの。もしかして誤解してるかも」



 昨夜の美和の行動を知らない雄一はわけがわからずに小体育館の入り口まで引っ張ってこられた。美和にならって雄一も忍び足で靴箱の隅に隠れ、そっと小体育館の扉を開けた。館内には一見だれも居ないようだったが、カーテンの裏に二人の人影が見える。音を立てないように美和達は体育館内に侵入し、人影の近くにある跳び箱の影に隠れて耳を澄ました。

 人影はこちらにはまだ気づいていないようだ。

「知らないって言ってるでしょ?」

 好子の声が聞こえてきた。

「しらばっくれるな! カメラをもってあそこに来ていただろう?」

 桂の語気がいつもよりもかなり荒い。

「フイルムを早く返せ!」

「だから知らないって! それよりも、お金は工面できたの?」

 好子の言葉に桂は一瞬黙った。

「あなたとの子供を堕ろすのに、最低二十万円は要るのよ! でも、私はそれだけじゃ嫌! こんなに心も体もボロボロにされてるんだから百万は欲しい!」

 好子の声が涙声になってきている。そんな好子の悲痛の叫びに美和は胸が痛んだ。だが、事を知らなかった雄一は横であんぐりと口をあけて驚いていた。

「金は……そのうちに……それに、そんな大金……」

 さっきの喧気はどこへやら、桂は一気に口篭もる。

「お金が用意できないなら私、みんなにバラします。最初はずっと我慢してたけど、もう耐えられない! 私の普通の生活を返して!」

 カーテンが荒く揺れる。どうやら好子が桂につかみかかっているらしい。

「公表するのはやめてくれ! とにかく落ちついてくれ。もうすぐ次の授業が始まる。また放課後にでも話し合おう」

 桂はそう言うと、半ば引きずるようにして好子を体育館の外へ連れ出した。

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