桜の天使たち 11
次の日、美和とあさみは眠い目をこすって早朝の学校にやってきた。本当は美咲も来る予定だったのだが、どうやら寝坊をしたらしい。
二人は職員室へ鍵を戻しに来た。低血圧のあさみは殆ど目を閉じた状態で半分寝ながら鍵を取り出し、校舎の扉を開いた。
「すごいわ……スペアキーの複製でもちゃんと扉が開くのね」
美和はある種の感動を覚えたが、開けた本人は眠さのため、何の反応もしない。肩をすくめた美和はあさみを引っ張って職員室まで連れて行った。幸い、誰にも見つからずに鍵を戻す事に成功する。
いきがけ、桂に会うのではないかと内心ヒヤヒヤしたが、気配は無かった。とりあえず美和はホッとしたが、今日は一時間目から体育の時間がある。気は抜けなかった。
「えへへ、遅刻しちゃってゴメンね」
予鈴ギリギリで更衣室に駆け込んできた美咲は、美和とあさみの姿を見つけるとペロッと舌を出した。一時間目が体育なので、皆が更衣室でいそいそと着替えをしていた。
「美咲の遅刻はいつもの事だもの」
苦笑いして美和が言う。美咲はいつも遅刻間際で教室に駆け込んでくる。
「わたしの家の隣の空き地に新しく家を建てるみたいで工事が進んでるんだけど、その騒音がすごくうるさくて眠れなくてさぁ。寝不足なんだよね」
「工事って普通、平日の昼にやるでしょ? 私達、その時間学校に来てるわよ」
「ありゃ、言い訳がバレちゃった。でも、家は本当に建ててるんだよ。どんな人が引っ越してくるのかちょっと楽しみだな」
てへっ、と美咲は笑い、ふと美和の横に居るが黙りつづけているあさみを見た。
「あさみちゃん、ぐったりだね」
「……低血圧なのよ、ほっといて」
横ではあさみが未だ寝ぼけ眼でボーっと着替えている。まだ問いに対して答えることができるようになっているだけでも早朝時よりはましなのかも知れない。
「それより、一時間目のヅラの授業ちょっと緊張するわね」
体操着に腕を通しながら美和が言った。
「うん、もしかしてバレてたらやばいよねぇ。でも、あれから自宅に電話は来なかったんでしょ?」
「ええ。来なかった」
「なら大丈夫だと思うんだけどなぁ」
三人はそれぞれのペースで着替え、一時間目が行われる小体育館に向かった。
体育の授業が開始される。桂の様子は一見、いつもと変わらなかった。授業開始の合図をするときも美和はわざと桂をじっと見てみたが、それらしいリアクションは返ってこない。
ただ、桂は授業中、ある人物をじっと睨み続けていた。
「ヅラ……好子ちゃんをずっと見てるよ」
前回と同じバスケットの試合中、観客側に回っていた三人はヒソヒソと会話を始めた。
「そうね、なんか殺気立ってるし。なんか怖いわよ」
やっと目が覚めてきたあさみが答えた。
「もしかして……昨日、屋上で鉢合わせしたのを好子ちゃんだって誤解してるのかしら?」
美和は唇に指を当てて考える。本当はこちらは三人居たのだが、桂の視界からは一人に見えてもおかしくない位置だった。
「私に電話をかけて、私がナイフを持っていないと返答、学校にもう一度確かめに行った……誰かに遭遇、ナイフも発見」
そこで美和は一度言葉を切った。
「私の容疑が晴れた以上、ナイフを知る者の存在は当事者のみ……? 雄一くんはどうなのかしら……?」
その後は口の中でぶつぶつと言うだけの美和。
「美和ちゃんの癖がまた始まったね」
おどけて美咲が肩をすくめた。
「ん、このまま、何事も無ければいいんだけどね……」
あさみはコートの向こう側に居る桂を見つめた。未だ、桂は険悪な面持ちで好子を見ている。どうにも嫌な予感がした。




